いつまでも自分らしく~共に生き生きと~

12月4日~10日は「福岡市人権尊重週間」です。市は、全ての人の人権が尊重され、心豊かに暮らせるまちを目指しています。今後ますます高齢化が進み、高齢者を取り巻く環境も複雑に変化していく中で、誰にでも訪れる「老い」について、人権という観点で考えます。

 市は、人生100年時代を見据え、誰もが心身共に健康で自分らしく生きられる社会を目指すプロジェクト「福岡100」を推進しています。年を重ね身体の機能が衰えても、自分の希望する過ごし方で、幸せに暮らし続けるために必要なことは何なのでしょうか。

弁護士で高齢者の人権擁護に詳しい岩城和代氏に話を聞きました。

高齢になり、あらゆる機能が衰えることは、誰も避けて通ることのできない普遍的なテーマです。特に判断能力が衰えると、預貯金の管理や商品の売買契約など、取引被害に遭うリスクが高くなります。中でも「契約」に関しては、判断を間違うと生活に支障を来し、周囲を巻き込んでさまざまな問題を引き起こします。
成年後見人としても活躍する岩城弁護士

「契約する力」を補う

 契約することは、憲法13条「幸福追求権」の一つで、人間の尊厳を守る大切な権利です。だからこそ、本人の意思を尊重しながら、判断能力の不十分さを何とかして補わなければなりません。社会生活を送る上で、ことあるごとに必要な「契約」について、安全に保証される仕組みが必要です。
 気掛かりなのは、高齢者が自分の年金や預貯金を自由に使えないケースで、これは経済的虐待に当たります。高齢者への虐待は、家族も本人も隠そうとするため、表面化しにくいことが多いのです。
 同居する無職の子どもが親である高齢者の財産に依存し、一方で親は、子どもに対して責任を感じているため、仕方がないと諦めてしまいます。子どもといっても40~50代がほとんどで、無職の原因も病気や障がいなどさまざま。子ども側にも支援が必要な場合もあります。複雑化する社会の中で、全ての人が情報を受け取り、必要な支援を受けられるよう、何らかの対策を要します。
 家庭が閉ざされた空間にならないよう、身近な人に積極的に関わってもらいたいのです。「向こう三軒両隣」の近所の皆さんには、日頃からぜひ「おせっかい」をお願いしたいと思います。
 市で1人暮らしをする65歳以上の人は10万2千人を超え、今後ますます増えるでしょう。暮らし方や医療の選択を迫られたとき、これまでの生活をできるだけ続けたいと願う高齢者が多くいます。
 それをかなえるために、専門家など第三者の力を借りる「成年後見制度※」も、選択肢の一つです。地域のおせっかいの輪の中に、成年後見人が加わることができれば心強いですね。

「お互いさま」の気持ちで

 判断能力の衰えは、全ての人に起こります。そうなったときに心強いのは、いつもと違うという変化に気付いてくれる、近所の人たちの存在です。「何か様子が変だな」「見掛けない車が長時間止まっている。悪質な訪問販売ではないか」と思ったら、遠慮なく訪問して声を掛けましょう。日頃からつながっていれば、いつ誰が当事者になっても「お互いさま」の信頼の中で暮らし、安心して年を重ねられます。
 人は、それぞれ過ごしてきた環境によって価値観や人生観が違います。自分がこれからの人生をどう過ごしたいか、事前に意思を表明しておきましょう。いつその時が来てもいいように、信頼できる人と未来の話をしてみてください。自分の希望する生き方を元気なうちに書き留めておくことも、自分と向き合う良い機会になります。
 ※成年後見制度=認知症や知的障がい、精神障がいなどで判断能力が不十分になり、お金の管理や生活に必要な契約・手続きが難しい人に代わって、法的権限を持って支援する人を家庭裁判所が選び、支援する制度。親族のほか、弁護士や司法書士、社会福祉士など、法律や福祉の専門家が成年後見人となる。

■問い合わせ先/地域包括ケア推進課

電話 092-711-4373

FAX 092-733-5587

≪高齢者への虐待≫市保健福祉総合計画(令和3年8月策定)によると、75歳以上の後期高齢者は18万2千人で、そのうち認知症(日常生活自立度II以上)と診断されている人は3万7,610人でした。高齢者の虐待防止に関する法律(平成18年施行)に、高齢者への虐待には身体的・心理的・性的・経済的虐待、介護放棄があると明記されています。

市成年後見推進センター開設

市は、認知症や知的障がい、精神障がいなどで判断能力に不安を持つ人が成年後見制度を利用しやすいよう、「市成年後見推進センター」を市民福祉プラザ(ふくふくプラザ)に開設しました。まずは、気軽にお電話ください。

【問い合わせ】 市成年後見推進センター

電話 092-753-6450

FAX 092-734-2010

【場所】 中央区荒戸三丁目市民福祉プラザ3階

【開館時間】 火~土曜日午前9時~午後5時(祝休日を除く)

≪こんなとき、ご相談ください≫

▽お金を使い過ぎたり通帳を失くしたりして、お金のやりくりができない▽年金などの通知が来ても、どうしたらよいのか分からない▽悪徳な訪問販売業者などにだまされないか心配▽障がいのある子どもの将来が不安▽掃除や食事の準備がうまくできないので福祉サービスを利用したいーなどの悩みがあり、「成年後見制度」の利用を考えている人は、同センターにご相談ください。※地域包括支援センター「いきいきセンターふくおか」や各区障がい者基幹相談支援センターでも相談に応じます。

●成年後見相談会(予約制)

月に1回、弁護士や司法書士、社会福祉士が交代で相談に応じます。相談は無料です。

【日時】 第2火曜日午後1時~4時※1件45分。原則1回 

【申し込み】 電話か、ホームページ(「福岡市成年後見推進センター」で検索)の専用フォームでお申し込みください。


地域で高齢者を支える人たち

地域の身近な相談窓口「いきいきセンターふくおか」


市地域包括支援センター「いきいきセンターふくおか」は、市内57カ所に設置されています。おおむね65歳以上の高齢者が住み慣れた地域で安心して自分らしく暮らし続けられるよう、その人の状況に合ったアドバイスを行い、自立した生活の実現のため、さまざまな支援を行っています。

南第11地域包括支援センター(南区花畑一丁目)の管理者で、主任ケアマネジャーの栗田知子さんに話を聞きました。


コロナ禍でこの1~2年、活動量や人との交流が減ったためか、高齢者の転倒・骨折が増え、うつや認知症の悪化もみられました。高齢者の皆さんに会えない時期が続き、声を掛けられずとても気掛かりでした。声や顔つき、家の中の状況など、直接会うからこそ微妙な変化に気付くことができます。
 平成12年に介護保険制度がスタートし、介護を自己選択する時代になりました。医療・介護の仕事を30年続けてきましたが、子どもが親の面倒を見るのが当たり前だった頃から考えると、介護する側もされる側も、意識は大きく変化しています。
 誰の身にも、「老い」は必ず訪れます。けれども、その準備ができていない人が非常に多いのです。若い頃は、高齢になるイメージが湧かないのでしょう。元気なうちに将来に備えることは、自分の生き方を考える良い機会になります。何を食べたい、どこに行きたいなど、「私はこうしたい」という自分の意思を家族や周囲に伝えておいてください。認知の問題が出てからでは、しっかり伝えられないかもしれません。家族も、判断を悩まずに済みます。
 私たちへの相談は、家族から受けることが多いですが、できるだけ高齢者の望みを聞くようにしています。また、高齢者や家族の皆さんに頻繁に会うため、心の状態も含め、自分自身の健康管理にも気を付けています。
 地域包括支援センターだからこそできることがあります。医療機関、ケアマネジャー、行政、地域の皆さんが、チームとなって高齢者を支えていきます。どうぞ遠慮なくご相談ください。

地域の居場所 堤公民館「つつみカフェ」


お茶を飲みながら、参加者同士が自由に交流できる「地域カフェ」が市内各所で開催されています。
 城南区の堤公民館で、自治協議会やボランティア、介護事業所を中心に行う「つつみカフェ」が、10月26日に実施されました。

 相談窓口スタッフとして「つつみカフェ」に参加する上坂美紀代さんに話を聞きました。

 以前は月に1回開催していましたが、コロナ禍で現在は不定期で実施しています。久しぶりに皆さんの笑顔を見ることができました。
 この地域でケアプランを作成する仕事をしています。カフェに携わらせてもらっているので、たくさんの高齢者の皆さんが顔を覚えてくれました。地域の皆さんと顔見知りになり、ますますこのまちが好きになっています。住民として生活する中で感じる安心感は、出会ったたくさんの人たちが私にくれた宝物です。
 介護の仕事を始めた頃は、人手不足と古い体制の中で人として当たり前のことが雑に扱われ、これが福祉なのかと悩む日々が続きました。現在は介護事業所も自分で選べるようになり、優しく介護する技法「ユマニチュード」などの情報も広く知られるようになりました。高齢者の皆さんの笑顔に励まされ、以前にも増してやりがいを感じています。
 常連さんが来なくなると、連絡をしたり、訪問したりして近所の人が互いに支え合いながら暮らしています。これからは若い人たちにも、力仕事などを手伝ってもらえるとうれしいです。この風通しの良いカフェという空間が、相談しやすくしてくれます。皆さんも、ぜひ地域のカフェにお出掛けください。


誰もが自分らしく心豊かに

認知症フレンドリーシティ

市は、認知症の人やその家族が生き生きと暮らせる、認知症に優しいまち「認知症フレンドリーシティ」を目指します。

住み慣れた地域で安心して暮らすために

市は、認知症のコミュニケーション・ケア技法「ユマニチュード」の講習会の実施や、認知症カフェの開設促進、認知症の人の見守り実証実験を行うなど、環境整備を進めています。
 また、認知症の人が記憶に頼らず行動し、ストレスなく生活できるよう「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」を作成し、市ホームページ(「福岡市 認知症フレンドリーシティ」で検索)で紹介しています。

意欲や能力に応じて活躍を続けるために

産学官民がつながり、認知症の人や家族の活躍を応援する組織「福岡オレンジパートナーズ」と、認知症の人だけが登録できる「オレンジ人材バンク」が設立されました。市がコーディネーターとなって、認知症の人と企業をつなぐ仕組みを構築しています。
 認知症の人の意見を取り入れた商品開発や、認知症の人と企業が行動を共にすることで認知症の人のニーズに気付くプログラムの実施、認知症の人が企業で働く機会の創出など、さまざまな取り組みを進めています。

■問い合わせ先/認知症支援課

電話 092-711-4891

FAX 092-733-5587


優しさを伝えるケア技法「ユマニチュード(R)」

介護される人に「あなたのことを大切に思っています」という気持ちを伝えることで、穏やかにケアを受け入れてもらえるようになります。

見る

 できるだけ正面から水平に、長く相手の瞳を見つめる。

話す

 穏やかな声でゆっくりと前向きな言葉で正面から話し掛ける。

立つ

 ケアを行うときは、相手ができるだけ立つ時間を増やす。

触れる

 優しく、ゆっくりと広い面積で触れる。腕をつかんだり、引っ張ったりしない。優しく下から支える。

※本紙情報BOXで、毎号具体的な事例を紹介しています(今号は13面に掲載)。







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