空想のふくおか【最終回】
時間を旅する鳥瞰図 昭和11(1936)年頃の空想

 この連載では、かつて構想された、さまざまな都市計画などを紹介していきます。
 「観光乃福岡市」(前田虹映作)は、同じ空間に福岡の過去、現在、未来が入り混じる不思議な図です。昭和11年ごろに福岡商工会議所が観光鳥瞰図(ちょうかんず)の制作を発注しており、この図も同じ頃に制作されたものと考えられます。制作の狙いは、同年開催の築港博覧会に合わせた観光振興にあったようです。
 題名の通り、この図は観光都市としての福岡の姿を表現しています。古くから知られる史跡、寺社、公園が紹介される中で、ひときわ目立つのが百道浜の沖に描かれたモンゴル軍の船です。大正9(1920)年に西新で発見された元寇防塁が、新しい名所になっています。近くの愛宕山には、陸と海で行われる激しい戦闘の模様を眺める人が立っています。
 この他、濡衣塚(ぬれぎぬづか)や貝原益軒の墓などには、当時の人物がさもそこに立ち現れたかのように描かれ、人々の想像力をかき立てます。
 このような観光都市・福岡の振興を後押ししたのは、交通機関の発達ではないでしょうか。昭和11年に福岡第一飛行場(図中の福岡国際飛行場)が雁の巣に開港しました。近年の研究で、この空港の発着便数、旅客数、貨物数は、東京、大阪を全て上回っていたことが分かっています。図中の飛行機の大きさが、空港への期待の現れにも見えます。
 図が描かれる契機となった築港博覧会は、もともと博多港の修築を記念して開催されたもので、同時期には博多湾築港計画により、箱崎でも埋め立てが進みました。図には箱崎地区の海岸沿いに倉庫や工場が林立していますが、描かれた当時はほとんどが更地でした。ここにも未来の福岡が描かれていたのです。
 福岡市の工業都市としての発展を強く求めた構想は、昭和中期まで続きました。その裏で、交通の発達を見越した観光都市としての発展を望む潮流があったことを、過去・現在・未来が同居するこの図が、教えてくれています。
 (市博物館市史編さん室 鮓本高志)

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