福岡市美術館
FUKUOKA ART MUSEUMアートのミカタ市美その4

市美術館が所蔵する約1万6千点のコレクションの中から、えりすぐりの逸品を紹介します。個性豊かな学芸員が、それぞれの見方で解説します。
高島 野十郎《寧楽(なら)の春》
1953年 油彩・画布
 高島野十郎は、東京帝国大学水産学科を首席で卒業するも、独学で絵の道に進み、つつましい暮らしをしながら各地の風景を描き続けました。彼の絵の特徴は、対象の本質をのぞき込むかのような写実描写です。
 鮮やかなツツジと満開の枝垂れ桜の向こうに、奈良・薬師寺東塔を描いた本作。興味深い点は、植物と東塔が重なっていることです。輪郭を際立たせるなら重なりは避けた方がいいはずですが、本作では前景と後景は重なり、互いに共鳴しています。
 マツの木々はどれも天に向かって伸びていますが、画面左上からすっと伸びる3本の枝は薬師寺東塔の三層の屋根と並行し、画面中央にある環状の枝垂れ桜は、塔の頂上を飾る透かし彫りの「水煙」と相似形を成しています。
 敬虔(けいけん)な仏教徒だった高島にとって、描くことは仏教の教えに通じていました。本作で高島は、生命力あふれる自然と、創建当時から変わらない薬師寺の姿を重ね合わせていたのかもしれません。
 ※作品は近現代美術室Cに展示しています。
 ■問い合わせ先/市美術館(中央区大濠公園) 電話 092-714-6051 FAX 092-714-6071

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