現在位置:福岡市ホームの中の健康・医療・福祉の中の健康・医療・年金の中の福岡100から福岡100食サミット(トークセッションⅣ「食×高齢者」)
更新日: 2020年7月8日

福岡100食サミット

 開催日:21日 場所:Fukuoka Growth Next

100歳まで生きるのが当たり前になるといわれる時代。
そのなかで、生活にもっとも密着し、重要な役割を果たすのが「食」です。
これからの「人生100年時代」において、「食」の可能性を考える場として、先日
Fukuoka Growth Next福岡市中央区大名)で、「福岡100食サミット」が行われました。
スタートアップ、観光、健康、高齢者という4つの切り口で、各テーマに造詣が深いゲストを迎えて行われたトークセッション、事前に募集し選ばれた「#がめ煮つくろう」レシピコンテストの表彰式など、貴重な話題が盛りだくさんだったイベントの模様をご紹介します。



トークセッションⅣ「食×高齢者」


●モデレーター   
 福岡女子大学国際文理学部 講師 梅木 陽子氏
●パネリスト       
 特別養護老人ホーム飛鳥 栄養科 管理栄養士 曽根田 佳代氏
 つきやま歯科医院 専門医療クリニック天神 院長 築山 鉄平氏

 福岡女子大学国際文理学部講師 梅木陽子氏の写真
加齢による身体機能の低下で食への関心が薄れ、低栄養になり、介護が必要な状態になる高齢者が少なくありません。高齢者の食生活は、心身両面の健康を保つためにも重要です。そこで、高齢者がいつまでも食を楽しめる方法や、イノベーションの可能性を探るのが、このセッションです。モデレーターを務めるのは、食育の実践方法と効果についての研究を続け、最近では、主に幼児期の食育や、フランスと日本で行われる味覚教育について研究をされている梅木陽子氏。学生と共に、学童教育の食育や、老人福祉センターや公民館での高齢者向け栄養教室なども行っています。


梅木:2023年で100周年を迎える東区の福岡女子大学にある、国際文理学部 食・健康学科で栄養教育論を担当しています。

研究の傍ら、子供が自分で食事をつくれるような料理教室や、「いきいき“幸”齢者セミナー」というハッピーな高齢期を迎えるための食事教室などの実践活動も、学生や地域の人たちと一緒に行っています。

本日は、高齢者の栄養管理や食事作りをなさっている特別養護老人ホーム飛鳥の管理栄養士・曽根田先生と、福岡で歯の健康を守る予防歯科に尽力されているつきやま歯科医院の築山先生をお迎えして、高齢者の食事や歯の問題について、話を聞いていきたいと思います。

それでは、自己紹介をしていただきながら、普段の仕事の様子を教えてください。


曽根田:社会福祉法人とりかいの曽根田と申します。本日は「食と高齢者」ということで、大変大きく難しいテーマですが、高齢者施設の現場で働くものとして、実際の取り組みを交え、お話ができればと思います。

社会福祉法人とりかいは、鳥飼病院を母体として、平成11年に城南区鳥飼に設立され、昨年で20周年を迎えました。すぐ向かいに鳥飼病院があり、緊急時の体制も整っています。私も管理栄養士ですが、開設当初の初代施設長が管理栄養士だったということもあり、食事のことは非常に大切に考えている施設です。場所は、七隈線別府駅の近くで8階建。1階にデイサービスセンター、2階に事務所・厨房・飛鳥ケアプランサービス、3階から6階に特別養護老人ホームとショートステイ、7階・8階にケアハウスしらさぎという施設が入っています。ケアハウスは、高齢者の食事付きワンルームマンションのようなもので、平均年齢85歳以上のおおむね自立した方が入居されています。

当施設で出している料理の写真をいくつかご覧ください。(スライドを見せながら)この日の献立は、鮭のバター焼き、きんぴらごぼう、和え物、かきたま汁です。献立は、一汁三菜の和食を基本にしています。他にも、ちらしずし、夏場は冷やしそうめん、月に2回はカレーライスも出します。博多ということもあり、とんこつラーメンを出すこともあります。

病院は医療の場ですが、高齢者施設は生活の場です。高齢者施設に入るからといって、好きなものを食べられなくなるということがないように、みなさんに楽しんでもらえるメニューを心がけています。
 

梅木:おいしそうな料理が多いですね。それでは、続いて築山先生お願いします。
 

築山:私は予防歯科というジャンルをメインにしています。九州大学を卒業後、外科でトレーニングを受けて、その後、アメリカのボストンで5年ほど、患者さんを見ながら、先進国の歯科事情と日本の歯科事情を比較し勉強する機会を得ました。現在は、国内外で教鞭をとりながら、これまでに得た知見を活かしながら福岡で活動しています。

驚かれるかもしれませんが、私たちは「生命の寿命と歯の寿命は逆転する」という理念のもとに、予防歯科に取り組んでいます。「歯は、年をとるとなくなるものだ」と思っている人も多いかもしれませんが、きちんと予防すれば、ほとんどの歯を残すことができます。90歳になってもきれいな歯の人はたくさんいます。

当院と他の歯科医院の違うところは、まず歯科衛生士が1人に1台治療用ユニットを持っていて、そこでは予防の患者しか見ないことです。1人の歯科衛生士が約500人の患者を担当していて、しかも一人の患者を同じ歯科衛生士がずっと担当します。当院は、中規模クリニックですが、歯科衛生士が20名いて、歯医者より歯科衛生士のほうが多いのが特徴です。また、一般的な歯科医院では、治療も予防も同じフロアで行いますが、当院は、健康な人が予防のために来る2階と、不健康な人が治療を受けに来る1階とフロアを分けることで、患者さんにも「予防歯科」という意識を高めてもらうようにしています。

というのも、予防で歯科に通院するのが世界的にはグローバルスタンダードだからです。ですから福岡でも、そんな世界標準に近い、歯科医療サービスを提供できるように努めています。

今日は、そんな予防歯科の立場から、高齢者の食について楽しくディスカッションしていければと思います。


画像:高齢者単独世帯数の推移と将来設計のグラフ。高齢者単独世帯数は2015年との比較で2040年には2.2倍に増加し,単独世帯数の3分の1が高齢者世帯となる見込み。
梅木:ここで、今日の課題の共有をしたいと思います。

まずは、福岡市の高齢者の現状です。2019年の福岡市の高齢化率(65歳以上が人口に占める割合)は21.6%で、全国が28.4%なので、全国的にみると福岡の高齢化はまだ低いほうだといえます。しかし、 2040年の推定値では、現在の1.6倍の31.0%になる見込みです。

また、一人暮らしの高齢者の数は、2015年に比べると2.2倍に増える見込みで、将来的には、一人暮らしの世帯で高齢者の占める割合は、33.3%まで上がると推定されます。私の両親は、現在元気に暮らしていますが、あと5年~10年もすれば後期高齢者になり、介護が必要になる可能性がありますし、2040年には自分も高齢者となります。2040年というとまだ先のようですが、自分や家族のことを考えると、高齢者の問題は非常に身近な問題です。




ー高齢者の食生活の課題


梅木:「食べることは生きること」という言葉があるように、「元気に食べて、自分らしい人生を送る」ことは多くの人の理想です。そのためにも、いつまでも食を楽しめる方法を考えていきたいのですが、まずは高齢期になると、どんな食の悩みや問題がでてくるのでしょう。


築山:分かりやすく説明すると、噛んで飲み込むという動作は、餅つきの動作に似ています。餅が口のなかに入ってきた食べ物だとすると、臼と杵が歯、こねる手が頬っぺた、餅をついている人が噛む筋肉で、合いの手で餅を湿らせるのが唾液です。

若くて元気な人は、こうした作業を口の中で効率的に行い、食べ物を食道に送り込めますが、高齢になると、この一連の動作がうまくできない人が多くなります。というのも、高齢期になると、歯の本数が減ってくる人も多く、歯の状態が悪いと、物を咀嚼して飲み込むことが難しくなるからです。同時に、歯がないことで噛むための筋肉も弱ってしまいます。

年をとって口元がシワシワになるのは、表情筋や口の周りの細い筋肉が痩せていくからです。そうなると、食べ物を口に入れることさえがおぼつかなくなります。また、咀嚼できないので、食べ物が大きな塊のまま入ってしまい、喉に詰まらせやすくなります。また、そもそもそれを食べ物として認識できるかという認知の問題も重要になります。

歯と、歯の周りの筋肉環境、それから食べ物を認識する力の衰えが、高齢者の食の大きな課題ではないかと思います。


特別養護老人ホーム飛鳥栄養科管理栄養士 曽根田佳代氏の写真
曽根田:老人施設での食事に関する困りごとは、まず固いものが噛めないことです。次に、さらさらとした水分にむせてしまうことです。また、一生懸命作った義歯が合わないことも問題です。口の筋肉が痩せてきて合わない人もいれば、入れると痛いという人もいます。できれば歯科医の方に、入れ歯で食べている姿を見ていただきたいと思うほど、高齢者にとって歯の問題は非常に大きいですね。


梅木:噛めない人や、飲み込みが難しくてむせてしまう人が多いという話がありましたが、施設では食事にどんな工夫をしているのでしょう。


曽根田:当施設では、歯が悪くて噛めなくなった人には、柔らかい食事(軟菜)を出すようにしています。軟菜でも形があると食べにくいという場合には、さらにきざんでお出しします。また、飲み込みが難しい人には、ミキサー状やムース状にするなど、スムーズに飲み込めるような形で食事を提供しています。例えば、餃子と、切り干し大根と、和え物を出す場合、きざみ食やミキサー食でも、全部一緒に刻んだり、ミキサーにかけたりせず、「今日は餃子だ」と分かるように、元の形を残して提供しています。また、鮭などもきちんと鮭そのものの色を残して、見た目を大事に食欲がわくように工夫しています。


梅木:施設の食事は、いろんな工夫をして提供されているのですね。ただ、家ではそういう調整は難しいですよね。家で食事を用意する場合は、どんな工夫をすればよいでしょう。

 
曽根田:さきほど「がめ煮」のレシピコンテストが行われていましたが、がめ煮には、ゴボウ、レンコン、こんにゃく、たけのこなど、高齢者には噛みづらい食品が入っています。

同じがめ煮でも、野菜を柔らかく煮た大根やサトイモに変えると食べやすくなります。それから、パンやゆで卵などパサついたものは、水分が奪われ、食べにくいですし、べたつきが多い餅、口や喉に張り付きやすい海苔なども、高齢者には難しい食べ物です。また、高齢者が食べ物をのどに詰まらせると、水などを飲ませようとしますが、さらさらした水は、間違って気管に入る恐れがあるので、非常に危険です。

そういうときは調理の工夫として、水や吸い物にとろみをつけてあげるのがいいと思います。そうすると喉を通るスピードがゆるやかになり、誤嚥(ごえん)する危険性も低くなります。

まずは柔らかく調理する。また、刻んだ食事などは、飲み込む際に、食塊を形成しやすいように、上から少しあんをかけるとか、マヨネーズや油を使ってまとまりやすくするなどの工夫をすると、高齢者には食べやすくなると思います。
 

梅木:高齢期には、もう一つ認知症の問題も大きいと思います。さきほど、築山先生も「認知能力が衰えた高齢者は、食べ物を食べ物として認識できない」とおっしゃっていましたが、認知症の人は、口腔機能の面でどういうところに注意すればいいでしょうか。



つきやま歯科医院専門医療クリニック天神院長 築山鉄平氏の写真
築山:それは、福岡市全体で解決しなければならないくらい、とても難しい質問です。

高齢者が窒息しやすい食べ物は、1位がお餅、2位がご飯、3位が飴、4位がパン、5位が寿司、6位がおかゆです。

窒息する原因のトップは、奥歯がなく咀嚼ができないことです。ですから、適切な硬さや大きさで、食べ物を口のなかに入れられない認知症の人が、一人で食事をするのは好ましくないといえます。

また、認知機能が低下した人には、食べ物を食べ物として認識するところから勝負が始まります。だから、色のコントラストでご飯を認識しやすい器を使ったり、使いやすいスプーンを使ったりする工夫が必要です。

また食べ物を口の中に入れた時の「熱い」「冷たい」という感覚や、それが食べ物かどうかの認識も低下するので、誰かが声掛けをしながら、これは安全なものだと分からせて、食べてもらうことが重要です。さきほどの松嶋さんの話には相反するかもしれませんが、少し味を濃い目にして、「これは食べ物だ」と認識しやすくすることも必要だと思います。


梅木:施設では、認知症の人に対して、どういう対応をしていますか。


曽根田:おっしゃる通り、認知症の人には、食べ物を食べ物として認識してもらうことが大事なので、まず見た目、彩、香りが伝わりやすいような料理を心がけています。

例えば、見た目にも楽しい駅弁スタイルで食事を出すことも多いですね。食事をしながら昔のことを思い出したり、「高知といえば、カツオ」という食文化にも触れられるような高知のカツオのたたき弁当を出したり。全国の駅弁地図を貼って、次回のお知らせをしたりと,食事を楽しみにしてもらう工夫もしています。

他にも、がめ煮とおきゅうとなどの郷土料理や、高齢者が食べやすいようにやわらかく加工したお肉を使ったトンカツで名古屋の味噌カツ、長崎県のご当地グルメ・トルコライスなどを出すことで、「今日はいつもと違う」という喜びを持ってもらえるようにしています。またケアハウスでは、天ぷらバイキングをしたり、目の前で握った寿司をふるまったり、作業療法を兼ねて、梅干しづくりや、春のぼた餅づくり、秋のおはぎづくりなどの行事も行っています。



ーこれからの高齢者と食について
 

梅木:単に食事の調整をするだけではなく、そういった食文化や食の経験といった刺激からも、認知症の人の食事を工夫されているのですね。

最後に、高齢者になると、食べ物の面でもいろいろな問題が出てくると思いますが、それぞれの立場から、それらを解消するような工夫やアイデア、また将来的なビジョンがあれば教えてください。
 

築山:北欧のフィンランドという国には、子供を身ごもって、出産して、その子供の学童期までを、食や成長や勉強も含めて、地域の人々が一貫して見守っていくというしくみがあります。一人の保健師が、生まれた時から学童期まで一人の子供に寄り添うのです。

日本にも、ボランティアを主体にする民生委員はいますが、定期的に交代されるので、結局成長を見届けられません。予防や育成には、しっかりとその人を理解している人が、担当制で携わり、見守っていくということが重要だと考えています。同様に、高齢者にとっても、社会で孤立しないためのネットワークづくりが大切です。

ただ一人の医師が、すべてをジャッジするのは不可能です。例えば、脳梗塞で倒れて入院した人の病院食は柔らかめであることが多く、その食事の固さは、退院後の施設の食事などにも引き継がれがちです。本来なら、リハビリをして健康度を上げていかなければならないのに、病院と施設とで情報が共有できていないために、退院後に体力が弱まる方向へと進んでしまう場合があります。

それを防ぐために、しかるべきアクセス権を持った人が、患者の情報を共有できる、オンラインやプラットフォームの整備が必要ではないでしょうか。ただ、ネット上の情報だけでは、その人との関係が希薄になってしまうので、地域で食の祭典や体操会などを設けて、交流の場を増やしていくことが望ましいと思います。

また、最近は、歯科でも本人や家族に口の中の状態を撮影してもらい、その写真とチェック項目をもとに、その人の噛む能力を診断することができます。やがてそれはAIでもチェック可能になるでしょう。そうなれば、よりその人の噛む力に応じたメニューを提供していけるようになるのではないかと思います。

曽根田:病気になれば病院に行きますが、高齢者施設にはご家族が入所することになって、初めて来られる人がほとんどです。そこで当施設では、一般の方にも来ていただく機会をつくり、高齢者施設を身近に感じてもらうために、地域の体操教室を行ったり、高齢者が集まる場所として2階のフロアを貸したりしています。



特別養護老人ホーム飛鳥曽根田佳代氏と福岡女子大学国際文理学部講師梅木陽子氏とつきやま歯科医院専門医療クリニック天神築山鉄平氏が並んだ写真

梅木:今日は、高齢者の食のために、いろんなアイデアをいただきありがとうございました。

曽根田さんからは高齢者の食事づくりの事例や工夫をお聞きし、大変勉強になりました。

また築山さんからは、高齢になっても歯は健康な状態に保つことができるとお聞きし、歯を自分でケアして、整えていくことの大切さを実感しました。

医療の場と施設のネットワーク構築や、地域の取り組みで高齢者を孤立させないことは本当に大事だと思います。みんなで力を合わせて、私たちが住む福岡を、幸せな高齢期を迎えられる街にしていきたいですね。