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更新日: 2020年7月8日

福岡100食サミット

 開催日:21日 場所:Fukuoka Growth Next

100歳まで生きるのが当たり前になるといわれる時代。
そのなかで、生活にもっとも密着し、重要な役割を果たすのが「食」です。
これからの「人生100年時代」において、「食」の可能性を考える場として、先日
Fukuoka Growth Next福岡市中央区大名)で、「福岡100食サミット」が行われました。
スタートアップ、観光、健康、高齢者という4つの切り口で、各テーマに造詣が深いゲストを迎えて行われたトークセッション、事前に募集し選ばれた「#がめ煮つくろう」レシピコンテストの表彰式など、貴重な話題が盛りだくさんだったイベントの模様をご紹介します。



トークセッションⅢ「食×健康」

●モデレーター   
 「KEISUKE MATSUSHIMA」オーナーシェフ 松嶋 啓介氏
●パネリスト     
 (株)久原本家グループ本社 取締役 荒巻 和彦氏
 九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野 医学博士 保健師 吉田 大悟氏

「KEISUKE MATSUSHIMA」オーナーシェフ松嶋啓介氏の写真
特別講演を行った「KEISUKE MATSUSHIMA」オーナーシェフ 松嶋啓介氏が、今回はモデレーターとして登場。ともに久山町を拠点に活動する食品メーカー関係者、九州大学の研究者を迎え、食と健康の関係について、これからの食のあり方や向き合い方へのヒントとなる意見や提案を交換し合いました。


松嶋:「医食同源」という言葉がありますが、この言葉を念頭に日々食事をしている人は、それほど多くないように思います。目指す健康は、環境や状態によって人それぞれに違うので、答えも一つではありません。ですから、今日のセッションでは、何か一つの答えを出すのではなく、「食でより健康に、豊かになる」ためのヒントを得られるような、健康に対する意識を少しでも変えてもらえるようなセッションにしたいと思います。それでは、自己紹介を兼ねてお二人に、会社の紹介と、仕事の内容をご説明いただきましょう。



吉田:九州大学の吉田です。私は公衆衛生学を専門にしています。

「公衆」という言葉は、子供から大人まで、病気の人から健康な人まで「公の人全般」つまり、国民全員を指します。「衛生」は右から読むと「生」を「衛(まもる)」ということで、「生活」や「生命」を守るという意味です。つまり、公衆衛生学とは、病気を予防し、生活を守るためにはどうすればいいかを調べる学問です。また、僕は保健師でもあり、保健師として、みなさんの生活をいかによくするかという研究をライフワークにしています。

具体的には、久山町で1961年から「町と大学で町民の健康を守ろう」と行われている久山町方式の健康管理に10年以上携わっています。

この取り組みのポイントは、地域の住民の健康を、大学と、行政である町と、地域の開業医やさまざまな関係機関が、協力して一緒に見守っているということです。大学は,地域の人と向き合いその健康管理をしながら、病気を引き起こす原因を学術的に研究して、そこで得た知識を、世の中のみなさんに役立つ情報として、フィードバックしています。ここで重要なのは、まじめなアプローチだけではみんなあまり変わってくれないということです。

だから、最先端の技術や、面白いサービスを考えてくださる民間企業とも一緒に、健康づくりに取り組んでいます。

今、私たちが行っているのは、健診の結果をもとに、将来的な病気の起こりやすさを、数値や天気のようなマークで表示する、ITツールを使ったサービスです。少しでも血圧が下がったり、体重が減ったりすることで、将来どういう健康状態になるかを自分で見ることで、一人ひとりが自発的に、日々の行動を変えたり、食事を選択できるようになればと思っています。


荒巻:久原本家の荒巻です。

弊社も久山町にある会社で、くばらのあごだしや、明太子の椒房庵、茅乃舎の無添加だしなどの商品を作っています。前職の広告関係の会社から、24年前に弊社に来ました。

茅乃舎ができたのが15年ほど前なのですが、当時60名ほどだった従業員が、現在は1200名ほどになりました。それ以前はほとんどが下請け業で、納豆のタレや餃子のタレなどを作っていましたが、茅乃舎の「だし」の誕生で、私の人生も含めて、会社の展開が大きく変わりました。今日は、そんな茅乃舎の「だし」を通して私自身が感じた、世間のみなさんの食に対する思いなどをお話しできればと思います。


ー食と健康の関係は


松嶋:それでは、まず健康についてですが、健康について調べると、WHOの憲章にたどり着きます。憲章によると、「健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱が存在しないことではない」と記されています。病気でないということは、精神的にも不安がなく晴れやかな状況だといえます。それが町全体に広がると、地域の社会的健康度も上がってくると思います。

吉田先生は、久山町でそういう社会全体の健康状態も踏まえた研究をされていると思いますが、久山町とはまた違う環境で暮らす福岡市民に多い病気や、またその原因などがあれば教えてください。


九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野 医学博士保健師吉田大悟氏の写真
吉田:福岡市というより、福岡県全体の傾向でいえば、生活習慣病の糖尿病や高血圧、コレステロールなどが高くなる脂質異常症という病気が比較的多いですね。

特に脂質に関しては、全国的に悪いほうに入ります。糖や血圧も、全国の平均値と比べると、全体的に高めですが、平均寿命は変わりません。

食文化的に考えると、味付けがちょっと濃いめ。だから塩分や糖分の摂取量は高めですが、時代とともに減少はしています。

世代的には、40代~50代の男性を中心に少し栄養を取りすぎている傾向にあります。簡単に言えば、肥満やおなか周りが大きい人が多いです。ですから、そうなりがちな働き盛りの男性のライフスタイルには要注意であると感じています。


松嶋:旨味(UMAMI)があると塩分、糖分、脂質が抑えられるという話を、さきほどの特別講演でもしました。しかも、シイタケ、昆布、カツオなどの「UMAMI」を数種類組み合わせることで相乗効果があります。日本料理の基本調味料は、「さしすせそ」つまり、「砂糖、塩、酢、醤油、味噌」の順番で加えると家庭科で習いますが、これは科学的にはどうなのでしょう。


吉田:砂糖と塩はあまり良くないです。できれば、砂糖と塩の順番は下に回したいところですね(笑)。
 

松嶋:そういう食に対する教育がそもそも間違っているという問題はありますね。

また、福岡で好まれる薬味といえば、七味唐辛子やゆず胡椒などがあります。僕も九州に帰ってくると、ついついゆず胡椒を使いたくなるのですが、この二つが、ドンピシャで間違っているのではないかと、僕は思います。唐辛子は人間の舌に刺激を与え、この刺激をとりすぎると、味蕾という細胞が死んでいき、味覚が落ちてしまうのです。九州は特に、唐辛子を使った料理が多いと思いますが、そういう薬味の影響などは研究されているのでしょうか。

吉田:それは、福岡で研究するには難しいテーマですね。おっしゃる通り、唐辛子を使った地元の名産品もたくさんありますから(笑)。辛さには依存性もあるので、過剰にとると、味覚だけでなく、さまざまな臓器にも影響があるとは思います。ですから、薬味はアクセントとして適度に使いながら、食事全体でバランスをとるのがいいのではないでしょうか。


松嶋:茅乃舎を始めたのは15年前ということで、それほど歴史は古くないと聞き驚きました。僕も、よく嫁から「日本に行くなら茅乃舎の「だし」を買ってきて」と言われます。それくらい、茅乃舎は福岡だけでなく日本の味を支えるブランドになっていて、食に意識の高い人の多くが茅乃舎の「だし」を使っているのではないかと思います。

しかし、そもそもなぜ「だし」だけを売ろうと考えたのでしょう。




(株)久原本家グループ本社取締役荒巻和彦氏の写真
荒巻:久原本家は、もともと今年で創業127年目になる醤油屋です。味噌や酢も醸造していて、そこにつきものなのが「だし」でした。15年前それに気づいて、自社でも「だし」を商品としてもっておいたほうがいいということになったのです。

しかし、顆粒だしを作る技術もなかったので、それぞれの素材を粉末にして混ぜ合わせ、ティーバックにしたというのが始まりです。また、もともと下請けの仕事が多かったので、流通との付き合いもなく、直販するしかありませんでした。

そこで、明太子で少々実績のあった通信販売で、販売し始めたところ、なぜか売れる。スーパーに行けば、「だし」はいくらでも売っているのに、なぜこんなに通販で「だし」が売れるのかと不思議に思い、注文いただいたお客様に購入の理由をお尋ねしました。すると、昔から実家の母親やお姑さんに「「だし」だけはいいのを使いなさい」と言われ、もともと顆粒だしなど使っていないという60歳以上のお客さまがほとんどでした。今まで乾物でちゃんと「だし」をとっていたけれど、家族も少なくなったので、茅乃舎の「だし」なら無添加だし、毎日の料理に便利だというのです。

そういう事実を知って、「日本の食文化はまだ捨てたものではない」と思いました。

ただ、若い女性たちにはどうだろうと心配しましたが、女性は結婚して子供ができるとガラリと意識が変わることが多いのです。急に「だし」にも関心を持つようになって、「だし」はやっぱり無添加がいい、という意識になります。親御さんからのすすめもあると思いますが、そういうことで、若い世代にも茅乃舎の「だし」を使っていただくことが多いですね。



松嶋:確かに、子供のアレルギーが理由で、食に対する意識が高くなる母親は多いですね。消費者もそうですが、起業している人たちも、生活環境やライフスタイルが変わったときに、そういったことに気づく人が多いようです。

ちなみに、素材から「だし」をとるとどれくらいの時間がかかり、それが茅乃舎のパックなら何分くらいでできるのでしょう。
 

荒巻:当社のだしパックは、水から入れて3分くらいで「だし」がとれます。通常だとどうでしょう、カツオだけなら、さっととれるかもしれませんが、味に深みを出すために、そこに煮干し、昆布、シイタケなどの「だし」を合わせていくとなると、非常に手間と暇がかかるのではないでしょうか。その点、うちのだしパックは、最初からいろんな素材の「だし」を合わせているので便利だとは思います。
 

(ここで会場の和食関係者から、「だし」をとるには、通常1日くらいかかるという声が)


松嶋:普通だと丸1日かかるようないい「だし」を3分でとれるのなら、多くの人がより便利なものを使いたいと思うのは当たり前ですね。ただ便利なだけでは、人は成長しないとも思います。茅乃舎さんは、便利さにプラスαの食の提案などはお持ちですか。
 

荒巻:茅乃舎の通信販売購入者向けに季刊誌を出しているのですが、そのテーマは“てまひま”です。

先にお話した「出産を機に意識が変わる女性たちが多い」ということ、また松嶋さんが先ほどの講演会で言われた「食は栄養をとるだけの手段ではない」という話とも結びつくと思うのですが、料理を作るときに一番大きいのは、「誰かにおいしいものを食べさせたい、体にいいものを作ってあげたい」という思いではないでしょうか。一人暮らしで、買い物難民のお年寄りも、きっと便利さだけを求めているわけではありません。コミュニケーションを含め、体の栄養以上に心の栄養を提供したいと思っています。
 

松嶋:吉田さんは、公衆衛生的または保健師の立場で、食=栄養だけではないという観点かから、町に対する提案や、社会に対する提案はありますか。
 

吉田:保健師としてもちろん栄養の話はしなければいけません。しかしそれと同時に、その人が、どれだけ家族とコミュニケーションをとっているか、孤立していないかを知るために話を聞いています。

先ほど、「40代~50代男性の食生活が心配」という話をしましたが、その年代の男性は、おそらく自分の体を気にして食事を作ることが少ないので、一人で食事をする際には店屋物や外食で済ませることが多くなります。

ですから、それくらいの年代の男性と話をするときは、キーマンである奥様や家族を巻き込んで話をします。「旦那さんの健康のために、もうすこし食事を見てあげてほしい」という話をすると、奥様は家族全員の食事を作るので、旦那さんだけでなく、子供の食事状態もよくなります。

食事は、栄養だけでなく、お互いのいろんなところを見ながら、健康を高めていくためのツールだと思います。
同時に家族が話す場であり、ご近所同士が触れ合う場でもあります。一緒に食事をする場面を増やしていくことは、地域のなかでも大変意味があるので、実際にそういう場を作っていければと思っています。


ー地域の食と健康の関係は


松嶋:僕は、世界中いろんなところに行き、いろんなものを食べさせてもらいました。いろんな地域のお祭りにも参加させてもらったのですが、多くの場合、祭りの中心には食があり、その多くは保存食でした。保存食は、だいたい地域の食材を発酵させたものや乾燥させたものが多く、独自の「UMAMI」成分を持っています。

ちなみに、久山には、そういった地域の祭りや集まりはありますか。


荒巻:久山には、小さな祠などお参りする場所が多くて、そういった場所に集まり食事をするような催しも非常に多いですね。近所付き合いもいまだに多いと思います。


松嶋:最近、パリでは年に一度「隣人祭り」というものが行われます。今ではニースでも行われているのですが、アパート住民が、1階のロビーに、手料理を持ち寄って、わいわい食事をするのです。僕はシェフなので、かなりのプレッシャーですが(笑)、なんとか時間を作って参加すると、みんな喜んでくれ、住人との距離も近まります。さっき言ったように、祭りの中心にあるのは「UMAMI」で、そこに人が集まることで、いろんな相乗効果が生まれると考えると、通信販売だけでは、茅乃舎さんの商品の魅力の表層しか伝わらない気がします。もっとリアルに商品の良さが伝わるような展開は考えていらっしゃいますか。


荒巻:昨年、誤って通信販売の電話をとり、お客様とそこから2時間話し続けたことがあります。80歳くらいのおばあちゃんで、孫の自慢話が止まらないのです。“オレオレ詐欺”が頻発する理由がわかる気がしました。

そこで、こういう一人暮らしで寂しくされている方々に対して、何かコミュニティというか、家族を引き合わせる機会や場所をつくれないかと思い始めました。

うちはレストランや物販店もやっているので、そこに、家族の記念日に使ってもらえるような小さなパーティルームを作れないか。もちろん部屋には茅乃舎の調味料を全部置いて、自由に使ってもらう、またうちのスタッフが料理の手伝いをするなどして、楽しい食事の場を提供できないかと思っています。
 

吉田:いいアイデアですね。そこに健康につながるちょっとした内容が隠されていると、いいと思います。

健康にいい料理のレシピは簡単に作れますが、そこにおいしさや、心の豊かさがないと続けられません。

例えば、「九州の甘口醤油は、糖分が少し高めなので、「だし」と一緒に加減して使うと、おいしくて体にもいい」など、健康づくりのワンポイントとともに、食事の場を提供すると、よりハッピーな企画になるのではないでしょうか。


ーこれからの食と健康を考える


松嶋:そこで最後の質問です。そういう地域性や地理的な環境も含めて、九州・福岡に住む人への食と健康の提案を吉田さんから、「だし」を中心とする食品メーカーとして、食生活に取り入れたらいいと思う提案などがあれば荒巻さんから教えてください。
 

吉田:かつて、どういう食べ物や食べ方が日本人の健康にいいか調べた研究があります。

その結果をみますと、日本人の健康には、伝統的な和食が一番良さそうということが分かりました。ただ、エネルギー不足だった昔に比べて、今は少し栄養をとりすぎているので、肉は少なめ、ご飯の量もそこそこで、野菜や魚などをバランスよく食べるのがいいと思っています。また、地中海の食事は、世界的にみて健康にいいといわれていますが、日本人の食文化と一致しない部分もあり、必ずしも地中海料理が日本人の健康にいいとは限りません。

そんなふうに、地域の食と、住んでいる人の健康状態との関係性が分かってくれば、食は地域の財産になりえます。地域ごとに健康にいいレシピを考案して、比較してみるのも面白い。そうすれば、福岡の「がめ煮最強説」というものも出てくるかもしれません(笑)。
 

松嶋:地中海料理に関して補足すると、地中海の人たちは、時間をかけて食事をするので、それが健康にいいとも言われています。


吉田:確かに、早食いは健康にいろんな支障をきたすことが分かっています。一方、ゆっくり食べる人には、健康な人が多い。ゆっくり食べると、食を楽しめるし、満腹感を感じやすく、食べ過ぎないからだと思っていましたが、人と話をしながらゆっくり食べることでのリラックス効果も大きいかもしれません。
 

荒巻:多くの人が気にされるのが、塩分だと思います。我々も、若干海塩を入れている普通の「だし」と、まったく塩を入れていない減塩の「だし」を作っています。人間が、ちょうどいい旨味を感じられる塩分濃度は0.9%くらいだといわれ、これは血中の塩分濃度と同じです。

旨味と塩分は相乗効果があるので、旨味が上がれば、若干塩分を落としてもそれほどストレスなく食べられます。そういうことを考えながら、旨味と塩分をうまく組み合わせるとよいのではないでしょうか。

また、吉田さんがされている久山式健康管理でも、腸内健康は大きなテーマになっています。

腸は、人間の体の免疫能力の7割を占めているからです。そのため、ヨーグルトのような動物系の乳酸菌をとっている人も多いのですが、実は植物系の乳酸菌のほうが胃酸にも強く、腸まで届きやすいといわれています。我々も、発酵した漬物や味噌などの発酵食品を作っていますので、腸を健康にするような食べ物をもっとつくっていきたいと思っています。みなさんも、そういうことを意識して食事をされるといいのではないでしょうか。

久原本家グループ本社荒巻和彦氏と「KEISUKE MATSUSHIMA」松嶋啓介氏と九州大学大学院吉田大悟氏が並んだ写真

松嶋:福岡には水炊きという名物料理があります。ぜひ、週に1回は茅乃舎の「だし」を使って水炊きを作る「水炊きの日」というようなものを作るのはどうでしょう。「〇〇の日」というキャッチコピーを作ったほうが、認知されやすく、人の習慣を作りやすいですから。「だし」もそうですが、福岡はもともと商人の街で、アジアの玄関口として、いろんなところから、さまざまな保存食がたどり着きました。おかげで、福岡にはこんなに豊かな食文化が今育まれています。そういったことを忘れずに、これからも食と健康について考えていただければと思います。