現在位置:福岡市ホームの中の健康・医療・福祉の中の健康・医療・年金の中の福岡100から福岡100食サミット(特別講演「食からのルネッサンス」)
更新日: 2020年7月8日

福岡100食サミット

 開催日:21日 場所:Fukuoka Growth Next

100歳まで生きるのが当たり前になるといわれる時代。
そのなかで、生活にもっとも密着し、重要な役割を果たすのが「食」です。
これからの「人生100年時代」において、「食」の可能性を考える場として、先日
Fukuoka Growth Next福岡市中央区大名)で、「福岡100食サミット」が行われました。
スタートアップ、観光、健康、高齢者という4つの切り口で、各テーマに造詣が深いゲストを迎えて行われたトークセッション、事前に募集し選ばれた「#がめ煮つくろう」レシピコンテストの表彰式など、貴重な話題が盛りだくさんだったイベントの模様をご紹介します。



特別講演「食からのルネッサンス」

「KEISUKE MATSUSHIMA」オーナーシェフ松嶋啓介氏の写真
「KEISUKE MATSUSHIMA」オーナーシェフ 松嶋 啓介氏

●プロフィール
1977年福岡市生まれ。小学生の頃より、料理人を夢見て、二十歳でフランスへ。各地で修業を重ねたのち、25歳でフランスのニースにフレンチレストランをオープン。28歳の時に外国人としてミシュランの一つ星評価を獲得。福岡市が取り組んでいる、福岡の郷土料理・がめ煮作りを通して、家庭や地域での食と健康への関心を広めていく「#がめ煮つくろう」プロジェクトの監修も行っている。


みなさん、こんにちは。松嶋啓介です。

今朝、フランスから帰ってきたばかりで、まだ時差ボケ中です(笑)。みなさんも、お昼を食べた直後で少々眠くなるかもしれませんが、僕の話にどうぞお付き合いください。

今日は、「食からのルネッサンス」というテーマでお話をしたいと思います。“ルネッサンス”というのは、 “リターン”の“re”、“生まれる”の“naissance”が一緒になった言葉で、「再び生まれる」「新しく生まれ変わる」という意味です。ということで、テーマは「もう一度、食を見直しましょう」という意味です。

ご紹介の通り、僕はフランスでミシュランの賞をいただきました。ミシュランの星をとるようなレストランは、値段も高く、誰もがそう簡単に行けるものではありません。もともと僕がフランスに行った理由は、フランスの母の味を学ぶためでした。それなのに、賞をもらったことで、一時期は贅沢産業に走っていたという反省もあります。そこで、フランスで育まれた食、つまり家庭料理や地域の食を、もう一度見直したいと思い、現在は、僕自身も“ルネッサンス”という気持ちで、食の活動をしています。そして、レストランでも「食べると、ホッとする味とは何だ」と自分に問いながら料理を作っています。

現代の社会にはいろんな問題がありますが、そのなかで食に特化した問題をあげてみると、「個食」「孤独」「生活習慣病」などがあるのではないかと思います。では、そういった問題を解決するには、何をしなければいけないのか。僕らは飲食店(レストラン)をしていますが、そこでは、ビジネスが生まれる場面や、カップルが付き合い始める瞬間、そして、恋人たちのプロポーズの現場を数多く見てきました。つまり、食事の場で生まれる人間関係は、非常に多いということです。たとえ、問題があっても、それを言い合える関係を食事のなかでつくり、食事をしながら会話していけば、解決できることも多いのではないかと思います。


ー何が起こっても、原点に戻って始める

これは,福岡出身者で、スペイン・バルセロナにあるサグラダファミリアの主任彫刻家をしている外尾悦郎さんの言葉です。バルセロナは、フランスのニースから、車で5・6時間のところにあります。飛行機だと1時間半ほどで行けるので、定期的にサグラダファミリアに行っては、ヨーロッパで仕事をしている同郷の大先輩・外尾さんに会い、いろんな話をしています。


「食」という漢字は、「人」を「良くする」と書きます。と発表している松嶋啓介氏の写真

そもそも食の原点とは何でしょう。「食」という漢字は、「人」を「良くする」と書きます。

中学生1年生の中間テストで、漢字の点数が100点中10点だった僕が、漢字の話をしていいのかと思いますが、最近は中国に行って漢字の勉強をし、食を通した漢字についても教えています。漢字を理解しなおすことが、「食」においても大きなチャンスになるのではないかと思っているからです。

さきほども言いましたが、「人を良くする」と書いて「食」。そして、「人を良くする事」と書くと「食事」になります。僕は一人で食事をするのが大嫌いで、一人で食べるくらいならご飯を食べなくていいと思うこともよくあります。食事中はいろんな話ができるし、一緒に食事をすると、相手の熱も感じ、自分の熱も伝わります。

つまり、僕たちは、食事を通して、物理的な栄養だけではなく、会話という心の栄養を得ているのです。だから、食事は一番大切な人と、たくさんするほうがいい。僕の場合、昼はスタッフと食事をしますが、夜7時には必ず家に帰って、家族でご飯を食べています。また、昔はおばあちゃんが食卓にいることも多くて、食事はおばあちゃんの知恵を得られる場でもありました。僕もかなりおばあちゃんの知恵を聞いて育ったところがあります。そんなおばあちゃんや、年長者の知恵を聞ける機会が食事ですが、最近はそういういう機会はどんどん減ってきているように思います。

また、食事を通して、僕らは愛情とか友情とかいう「熱」を伝え合っています。そして、人はそういう「熱」(温度)に育まれて成長してきました。僕は料理人として、料理に思いを込めて、思いという「熱」を、料理を通して伝えられればと思っています。そういう「熱」がこもった料理を食べて育った人は、やはり人情や情熱が豊かな人になるのではないでしょうか。

僕は二十歳で海外に出ました。よく人から、「そんな年で、どうして海外に出たのか」聞かれますが、それは、毎日、朝・昼・晩と手作りのご飯を作ってくれた母親のおかげです。失敗したら、また母親のところ戻ればいいという安心感があったからです。母親が、この会場にいたら恥ずかしくて言えませんが、母が作ってくれた食事と、そこに込められた思いが、自分の性格や人間性を作ってきたのではないかと思います。そして、もう一つ、僕の人間形成に大きく影響を与えたのは、福岡の食文化だと思います。

横並びで食べるから、人のあたたかさを感じやすい屋台。みんなでつつきあって食べられる水炊きやもつ鍋。福岡にずっと住んでいる人には分からないかもしれませんが、福岡の人は、余計なおせっかいが好きな人が多いと思います。フランスに住んでいる僕が、福岡まで帰ってきて、こんな食の話をしていること自体が、完全に余計なおせっかいです(笑)。

僕らは、食べ物によってずっと脳に刺激を受けています。だから、その土地の食べ物が、そこに住む人たちの性格や気質に影響を与えることは多分にあります。どういう食事をしているかは、その人の考え方にも関係してくるのです。


ー旨味(UMAMI)の原点とは


発表中の松嶋啓介氏の写真
ここで味覚の話を少しさせてください。味覚というのは、視覚・聴覚・触覚・味覚・聴覚という五感のひとつで、食事は本来、五感すべてを使って楽しむものです。また、味覚には、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味という五基本味というものがあります。

日本では、1908年から旨味という言葉が使われてきましたが、旨味(UMAMI)が世界的に認められたのは、つい最近で、2000年になってからの話です。僕らは、この「UMAMI」という言葉をよく使いますが、実は,その本質に気づいている人はほとんどいません。「UMAMI」には、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などいろいろな種類があって、そのなかには、神経に働きかけ、脳をリラックスしてくれる効能もあるのです。

だから、僕らが食材のなかにある「UMAMI」の正体をちゃんと理解できれば、「UMAMI」を利用したいろんな提案を、世界中にすることができると思います。なぜなら、「UMAMI」が入った食材や調味料は世界中にあり、「UMAMI」がその国、その地域のコミュニティを形成しているといっても過言ではないからです。

赤ちゃんが生まれてきて、最初に口にするのは母乳で、母乳には「UMAMI」であるグルタミン酸がたくさん入っています。だから赤ちゃんは、母乳をやると泣き止みます。また「UMAMI」は、舌だけでなく、胃の中でも感じられます。私たちが「だし」の効いたスープを飲んで「はぁ~っ」と落ち着くのはそのためです。人は、「UMAMI」に服従しています。だから、世界中に独自の「UMAMI」を含む調味料や保存食があるのです。




ー福岡の原点「がめ煮」

「ハッシュタグ がめ煮つくろう」プロジェクトの写真
そこで、福岡の「がめ煮」です。

福岡の人たちが、人懐こくて、面倒くさそうにしているけれど、実はやさしくて、余計なおせっかいが大好きなのは、福岡の郷土料理「がめ煮」に関係があるのではないかと思います。

がめ煮には、かつおだしがいっぱい入っていて、人によっては、いりこや、干しシイタケを入れたりします。そういったダシでゆっくり炊き合わせた料理は、ほっとする味がします。また、レンコンやタケノコなどが入っていて、触感がいいので、噛んでそしゃくすることで唾液が分泌されます。実は、唾液と一緒に、やさしくなれるホルモンが分泌されることも研究で分かっています。

だから、福岡市民が老若男女関係なく全員、がめ煮をつくれるようになれば、福岡は世界に対して、日本を代表する、そしてアジアを代表するもっとやさしい国になれると思うのです。福岡人の余計なおせっかいは、いわば、おもてなし精神のあらわれです。そういう福岡の食文化を守っていきたいという思いから、「#がめ煮つくろう」プロジェクトに携わっています。

「口」の「未来」と書いて「味」です。食事をちゃんと味わうことは、人類にとっては本当に大切です。みなさん、忙しさを理由に、伝統食や伝統の味を忘れかけていませんか。

「忙しい」という字は、「心を亡くす」と書きます。ということで、「喰い改めよ」。せっかく、福岡のような豊かな土地で暮らしているのだから、もう一度、郷土の味、そして食と食事の大切さを、改めて考え直してみていただければと思います。