参考資料5 令和7年度第1回 福岡100プロジェクト有識者会議 (令和7年9月17日開催) 福岡100 プロジェクト有識者会議とは ・人生100年時代を見据えた持続可能なまちをつくるプロジェクト「福岡100」の推進に関して、参考となる意見を収集するための会議 ・福祉、医療など幅広い分野の専門的知見を有する学識経験者等で構成 【委員意見要旨】 次期保健福祉総合計画に盛り込むべき視点 <多死社会におけるサービスの需要・供給の双方を意識した視点> ・福岡市の現状に関する説明があったが、これまでのような少子高齢化という視点だけでなく現状でもすでに多死社会になっているという認識を持ったうえで、保健福祉総合計画も策定すべきだろう。 ・例えば、アドバンス・ケア・プラニング(ACP)のあり方や成年後見制度の問題、遺産相続の一括管理等を検討しなければ福岡市の地域問題として噴出するのではないか。それらのガイドラインが必要だろう。 ・介護予防のような健康増進の延長線上にある取組だけでなく、医療と介護、住宅・施設の一体的な取組としての地域包括ケアシステムの強化策が必要だろう。 ・担い手確保の問題も検討していただきたい。ケア経済が本格的に起動する時代のなかで、高齢者ケア、教育、保育等、一人ひとりの状態を認識したうえでのサービス提供、人材確保をどのように成り立たせるのかという問題も出てくる。  単にサービスの受け手に対して行政や民間事業者がサービスを提供するだけでなく、「誰がサービスの担い手になるのか」という観点での誘導策(高齢者でも出番がある、若者が訓練を受けるなら〇〇の分野で成長してほしい等)が必要である。  サービスの提供に関する検討だけでは、サービスの担い手確保の問題が大きな課題になるだろう。保健福祉総合計画における担い手の確保に関する検討が十分でないように思う。  例えば、外国人も受け入れたうえでの地域共生社会の検討、新しいカテゴリーのICT、AI、介護ロボットをオペレーションできるような人材「アドバンスト・エッセンシャルワーカー(AEW)」の養成・確保の検討が考えられる。 ・人口構成や世帯構成の変化について共有していただいたが、要介護高齢者や認知症の人等の支援が必要な人の絶対数が増えていく一方で、医療・介護リソースを劇的に増やすことは難しい。  そのなかで限られた医療・介護資源を効果的に活用すること(必要な人に、適当なサービスを必要量提供すること)、必要最小限で必要とされるニーズを満たしていくことが重要だろう。  そのためには、住民のヘルスリテラシーの向上が最も重要である。 ・医療・介護については情報の非対称性が大きい。日本の場合フリーアクセスであることもあり、何が起こった際にどこに行けばよいかは住民が判断する必要がある。  そのため、軽症であるにも関わらず救急車を呼んでしまったり、適切なタイミングでの精密検査ができず進行性のがんを見逃してしまったりすることもある。 ・健康診断についても、二次的な治療につながっていないことがある。健康診断やプライマリーケアは非常に幅広く量も提供され、アクセシビリティも高いが、きちんと機能し結果を出せているかという点には疑問がある。  健康診断は受診率が目標にされているケースが多いが、問題が指摘され実際に二次的な治療につながっているのか。リスクの高い人・低い人に一律に同じ健康診断項目を同じ頻度で提供していることが合理的なのか。課題が多様である。  OECDからは、日本の健康診断は無駄が多く、有害とも言われている。先進地域から良い事例を出せると良いのではないか。住民、医療者、行政のヘルスリテラシーは重要である。 ・コロナ禍のPCRについても、感度、特異度、陽性的中率等があるなかで、「感度が高いと良い」と理解している人も多いが、偽陽性が多くなれば不利益も大きくなる。  合理的に数字を見て政策を検討すること、住民が合理的に判断できることが重要になってくるだろう。 ・日本では、安定的に相談できるインターフェースが不在している点も問題だろう。在宅医療では、私が総合診断医・主治医としてACPを含めて相談を受けることができる体制がある。  一方で、在宅医療の提供を受けていない方は、非常に難しい領域における判断を自分たちでしなければならない。ヘルパーに頼んだり、地域包括支援センターに相談したりすることで解決する問題に悩み、  会社を辞め、一生懸命ケアした先で自分自身もうつになり、一家が破綻するケースはまだある。住民のヘルスリテラシーの向上をはかりたい。また、その窓口となるゲートキーパー(伴走者)が必要である。  福岡市の医師会にも協力いただき、住民の方が病気はなくとも身近な診療所に相談できる体制づくりを検討してほしい。その際には、信頼して相談できるパートナー、多様な病気を一元的に診ることができる人材の育成・確保も必要だろう。 ・独居高齢者の問題も深刻である。今後75歳以上の独居高齢者が非常に増加する見込み。東京都では、年間7,000人程度が孤独死しており、男性の場合は発見までに10日間以上かかる人が2人に1人である。  プライバシーが守られた住みやすい街が、年をとると誰にも気づいてもらえない、支援が届かない状況を生んでいる。福岡市では様々な取組を重層的に実施しているため、地域で困ったときに、  誰かに・何かにSOSを出せる、あるいは困っていることについて誰かに気付いてもらえるようにしていく必要がある。  また、独居高齢者が増えると、1人暮らしが不安であるという理由で高齢者施設に入る人も増える。ただし、高齢者もいつかは減るため、ハコが余る時も来る。  そのため、在宅で生活できる人はできるだけ在宅生活を続けられたほうが良いが、独居高齢者を24時間在宅でしっかりサポートできる介護サービスはまだ圧倒的に不足している。  地域密着型サービスは様々あるが、ニーズに応えきれていなかったり、看護小規模多機能型居宅介護は経営が難しかったりする。このような部分を行政がサポートする、あるいは施設基準を要件に応じて緩和できると、  既存の建物を活用できる可能性もあるのではないか。 <保健福祉以外の分野との連携の視点> ・地域共生社会をどのように進めていくかという点については、保健福祉総合計画のなかで「子ども」の姿が見えてこない。また、福岡市は住民登録した市民だけの都市ではなく、  数多くの寓民・動民・遊民といわれるような一時的な行旅人に対する対策を講じる責務があるので、他の施策とどのように絡めるか、例えば外国人との共生に関する他の施策とどのように連携するか。  保健福祉のなかだけでの横断ではなく、他分野で取り組んでいる部分で連動する部分との横断についても検討が必要ではないか。 ・横串を意識していると理解したが、そのなかで「観光」の要素も含めると良いのではないか。例えば、田舎や郊外につながる最も簡単な方法はツーリズムである。  地域では登場人物が少なくなるなかで、新たな登場人物を加えることによる刺激やミッションの創出が地域の1つの活力になったり、コミュニティをつくるうえでのお題になったり、ポジティブな動きにつながるように思う。  北米からの観光客については年齢層が高い人も多い。そのような人が関心を持つのは、文化や伝統工芸等、地域に根付く伝統食や郷土料理である。  「趣味ステイ」という言葉もあり、趣味をきっかけに地域の同じ世代の人を訪れるネットワークもできており、それらをつなぐことも一案だろう。また、担い手も促進するような動きも必要であり、  コーディネーターの存在が重要である。観光と地域のコミュニケーションをとれるようなマネジャーの育成を新たな試みとしてチャレンジすることも良いのではないか。 ・カナダに住んでいる義理の母の85歳の誕生日パーティーを企画したが、80〜90代の方が着飾って子供にサポートしてもらいながら出てきてくれた。  「お世話になることが非常に増えているため、自分が必要とされていることが重要」と口をそろえて言っており、誕生日パーティーに参加するために、ドレスを考えたり、歩く準備をしたりしたという人もいた。  新たな登場人物を巻き込み、ミッションを与えることも検討すると良いのではないか。 ・保健福祉総合計画に含めづらい項目として「教育」や「生涯学習」があることは理解できるが、出来れば含めてほしい。どのように文化へのアクセスを保証していくか等についての議論は取り残さてしまう傾向にある。  我々は図書館をバリアフリーかつインクルーシブにしていくという取組 を推進しており、特に学校図書館や地域の公共図書館の活動をインクルーシブにしていく取組に注力している。  以前、学校図書館に関する調査をした際に、9割以上の学校図書館でバリアフリー関連の取組を1つもしていないとの結果が出た。今後、縦割りを超えた普遍主義的な取組が広がる際には、文化側面の検討もしてほしい。 <文化資本を意識した視点> ・これから大事になるウェルビーイングは何かという議論は進んでいるように思う。「市民がどのような生き方をしたいと思っているのか」を踏まえて、アップデートできると良いのではないか。  憲法第25条には「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあるが、「文化的な」要素があまりない印象である。例えば、「いきいきと生きる」「活躍する」「支え合う」を実現するにあたり、  福岡市の地域の文化や生き方の作法を踏まえて推進できないか。コロナ禍にコミュニティがなくなってしまったり、京都でも児童館が7割近く減ってしまったりしている。  福岡市内も同じような状況が考えられる。伝統的な文化をどのように継承するか、それを踏まえた自分らしさをどのように守るか、新しい文化をどのようにつくるのかは重要なキーワードになるのではないか。  有名なアート雑誌の編集長による「イオンモールは文化的でない」との発言が炎上したことがあるが、イオンモールは若い人の新しい文化の発信地点として非常に重要な役割を果たす側面もある。  そのような新たな生き方を支えていく環境づくりをどのように進めるのかを検討するにあたり、「文化」や「アート」というキーワードは非常に重要になるのではないか。  また、「自分らしい」は難しい。例えば、島根県の出雲人は「みんなが幸せだと自分も幸せ」という価値観を持っているため、「自分らしく生きる」ことに難しさがある。「自分らしい」という表現で本当に良いのか、  個を立てすぎずに「みんなとともに健やかに」といった表現の方が良い場合もある。 ・目標1・2におけるある種のコミュニティ的な人間関係、それに支えられて1人ひとりが自分の道を前向きに生きていくことは、ウェルビーイングの研究の中核となる結論である。 ・普段は心理学の世界にいるため、大変勉強になった。次期保健福祉総合計画で目標とされている目指す姿には、「支えられている」「いきいきと」「安心して」等の心理的な部分も多い。  そのため、心理指標があっても良いかもしれない。受診率等の実際の行動も重要だが、最終的な人々の感じ方や満足度、ウェルビーイングの定量化議論も注目を集めている。一般的に知られる満足度や幸せだけでなく、  様々な側面でのウェルビーイングも測定できるのではないか。文化の資本も、個々人の幸せを支える、社会のなかで再生産されるある程度自律的なシステムとして意味があるのではないかと思うが、定量的に測定した研究はまだ多くない。  福岡ならではの文化を前提にした、福岡ならではの強みを文化的資本として浮かび上がらせるためのデータ、ウェルビーイングを感じるための生活の条件等のデータをバロメーターとして活用することも考えられるのではないか。 ・「芸術とケア」という観点では、東京藝術大学とリサーチを進めている。生活のなかにアートを取り入れて、生活のなかに連続性のあるケアを取り入れる取組も進められている。  福岡市の場合、認知症フレンドリーセンターをはじめ、生活に役に立つア―トが取り入れられている点は素晴らしい。 <包摂性を検討するにあたり必要な視点> ・個人が社会を構成する1人として活躍できる社会(包摂的な社会)をどのようにつくっていくかを考えた際に、高齢者や障がいを持った人等を支える家族や市民、専門職をどのように支えていくかを検討する必要があるだろう。  特に認知症の人の生活や家族を支えるためにユマニチュードの地域リーダーの活動を数年にわたって実施している。ユマニチュードに関する市民講座を開催し、生活に困っている市民を支えたり、  小学校4年生にどのようなコミュニケーションをとることによって困っている人を助けることができるかを教えたりしている。 ・脆弱な方を支える社会があるということは、その方々を根っことして大きな花が咲くような様々な取組が行われることに他ならないが、来年様々な認知症や高齢者の施策を国際的に発信する機会が予定されていると聞いている。  そのなかで、福岡市と一緒に推進しているユマニチュードについても、国際会議のなかで発表できる予定であり、大変有難い。福岡市はユマニチュードの様々な場面での導入を進めているが、  その中で救急隊員にユマニチュードについて学んでもらう取組を7年程度実施している。  その取組の経験についても、全国の救急隊の学会で発表し受賞したと聞いている。国内外の活動の発信の1つとして、高齢者への福岡市の取組を示してもらっていることは大変嬉しく思っている。 ・「多様な人」がどこまでの人を指すのかは分からないが、50〜60代の女性を巻き込んでミッションを与えることができると良いのではないか。  50〜60代の結婚を経験したことがない女性の単身者が増えており、健康問題を抱えてマッサージやエステ、トレーニングに通うことが、かかりつけ医の代わりとなっていることを実感している。  かかりつけ医まではいかないが、身体について相談している場が広がっている。福岡市は女性比率も高く、未婚女性も多い。一方で、独立している女性が多いというよりは、あまり大きな消費は行わずに細長く生きていけるように生活している人が多い。  そのような人たちを、どのように地域に招き入れるかは今後の課題ではないか。自分たちはまだ動けて集まることもできるが、今後には大きな不安があり、家についてもどのようにしていけばよいか分からない予備軍が多いと思われる。 ・包括的な目標を立てようとする点は素晴らしい。保健福祉総合計画の場合、例えば雇用労働系と縦割りにしてしまうケースも多く、基礎自治体のなかで結びつけることはぜひ進めてほしい。  超短時間雇用モデル はもともと障がい者から生まれたものだが、普遍主義的な包摂をディーセント・ワークでつくっていき、雇い手と働き手をWin-Winの関係で、互いに大切にできる関係性を地域で生み出すことにつながる。  高齢かつ難病のある方や障がい者かつ刑余者が働く等も含む多様なケースが出てきている。基礎自治体として縦割りを超えようというタイミングでは、そのような目標を立てる大きな意味があるのではないか。 ・これまでの福岡100の流れのなかから高齢者に焦点をあてている点は、福岡市の特徴であり進めてほしい。一方で、国際的な潮流として、普遍主義的に排除されている対象を包摂していく施策が進んできているように思う。  「普遍主義的」とは、例えば高齢者・障がい者だけでなく、慢性疾患や難病のある人やひとり親の問題、介護が必要な世帯(介護をしている人の制約・制限も含む)、ひきこもり、外国人の問題等がある。  これらが「普遍主義的」に取り扱われる背景には、「交差性(インターセクショナリティ)」の問題がある。例えば、女性かつ障がい者、外国人かつ障がい者、難病かつひとり親等の交差性がある。  交差性の問題をどのように包摂するかについては、縦割りでの検討では対応できず、ワンストップ型の普遍主義的な対応が必要という流れが出てきている。普遍主義的に包摂するにあたっては、「高齢者の生きがい就労」ではなく、  働き甲斐のある「ディーセント・ワーク」という枠組みでくくったうえで、普遍主義的に高齢者、慢性疾患のある方、ひとり親等の多様な人が包摂されていくというトピックの立て方が必要になる。  かつ、現状この機能は基礎自治体しか持てないため、検討してほしい。  また、多様な人を包摂していく「ソーシャルファーム」や「労働統合型社会的企業(WISE)」を応援していく仕組みがあった方が良いように思う。  基本的には企業としてビジネスを展開しているだけではあるが、普遍主義的に取り残される対象を経営者として巻き込んでいくポリシーを持った会社を応援していくことは検討余地があるのではないか。  今回の保健福祉総合計画の特徴として、「生活困窮者」が含まれていない。普遍主義的包摂という観点から、「ディーセント・ワーク」や「ソーシャルファーム」が含まれるのであれば、生活困窮者も包摂していくことが可能だろう。 <AIの普及に伴う視点> ・今の時代の最大の地殻変動はAIだろう。AIについても触れてはどうか。資料にはAIという言葉は1つも出てきておらず、ICTの1つ程度の位置づけとなっている認識だが、言語が変わるのと同じくらいの変化がとてつもない速度で生じている認識である。  変化は脅威でもあるが、チャンスでもある。特にチャンスの度合いに着目した場合、今日の業務が回っていて変えることが難しい人よりも、ある程度時間に余裕のある高齢者の方が伸びしろがあるのではないか。  福岡市として、高齢者が最もAIで変わった町となるのは良いことではないか。AIは非常に安価で使用ができ、工夫次第で多様な使い方が可能である。人間とともに極めてクリエイティブな突破口を出すこともできる。  これまでは、人生や時間の制約により人が知れる範囲や極められる範囲は限られていたが、AIはその制約を超えることができ、専門家すら必要ない時代となってきている。  世の中の前提、社会の仕組み、仕事の方法、人生の過ごし方が地殻から大きく変わることを認識し、チャンスとしていくことが重要ではないか。  「高齢者であれば、〇〇しかできない」「〇〇しか分からない」という壁が全て取り払われ、輝きたい人、いきいきと過ごしたい人はどこまででも行けるようになるだろう。AIを使って、地域の人が自分は何ができるかを検討する場やWSも可能だろう。 ・AIを使って人にしかできないユマニチュード等のコミュニケーションのトレーニングを行う取組がある。AIを使ったリアルタイムでのフィードバックでのコミュニケーションやケアの技術の向上に関する取組は、既に福岡市内でも活用されている。  人にしかできないことを学ぶフィールドにAIを活用できるようになると良い。 福岡100プロジェクトで進めるべき取組み ・具体的な福岡100に資する取組みとしては、文化の伝承やアートが、それぞれ目標達成に対してどのようなロジックで貢献しそうかを検討すると良いのではないか。  最近では、図書館への投資が大きい自治体に住んでいる人は、要介護になりにくいという論文も出した。図書館は本を読むだけでなく、交流等多目的な施設にしていこうという動きがある一方で、  少子化に伴って小さな図書館を廃止していこうという動きもある。 ・福岡市には資源も多くあり、成功している活動事例も多くある認識である。そのなかで共生社会をつくるにあたり大切なのは、多様な人に「何をしたいか」を問いかける仕組みだろう。  一人ひとりのニーズが多様になってきており、そのニーズを丁寧に聞き、色々なサービスにつなぐ段階に入ってきているように思う。その問いかける際には、AIの技術は役に立つと思われる。  AIを活用しニーズを聞いていくことは、色々な自治体でも取り組み始めている。大阪府豊中市の市民協働フォーラムでは、小グループをつくってディスカッションする形式で意見交換会を実施し、その記録を基に一人ひとりのニーズを整理している。  高齢者の場合、AIスピーカー等のログから市のサービスにつないでいく取組みもある。高齢者のニーズや価値、好みを聞き、それらが認められ実現されていくことで、安心した社会が実現し、生きがいが生まれるモデルを描けると素敵ではないか。 ・委員から「交差性」についての言及があった。公衆衛生分野でも非常に重要な視点として注目を集めているが、日本ではほとんど研究がされていない。その背景には、データが不足していることがある。  マイノリティと呼ばれる人は、住民調査で回答しなかったり、そもそも国籍がなければ調査の対象者にならなかったりするためである。  これまでに福岡100プロジェクトのなかで、どのような人がどのような状態に置かれているのかを明らかにするプロジェクトがなければ、まずは実態把握から始めてみてはどうか。  コロナ禍では、中高生の女児の自殺が男児の自殺を超えたが、歴史上初めてのことだった。今までとは違う/これまで見過ごされていた弱い立場に置かれている人がいる。  それは1つの性別や年齢等の区切りでなく、複数のテーマで交差性のある人たちなのではないか。そのような人を紡ぎ出し、  その人とともにどのような街をつくっていくと良いかを検討(社会的インパクトアセスメント、ヘルスケアインパクトアセスメント)のように、ボトムアップで望ましい計画を検討できると良いのではないか。  福岡100に必要な新しい視点なのではないか。  困りごとの視点だけでは活動が福祉的になるが、1人ひとりの心華やぐような活動の醸成を目指すため、観光や文化等の福岡市が持つ文化資本を活用して底上げしていくようなところを積極的に推進するプロジェクトは非常に有益ではないか。  インバウンドの活用は、お金の面だけでなく、福岡市が自分たちの持つ文化資本の価値を再認識し、誇りをもって、そのなかで自分たちの活躍できる場を新たに見つけていくことにもつながるだろう。  兵庫県豊岡市に平田オリザ様という劇作家が芸術文化観光専門職大学をつくったが、地方の都市を盛り上げるにあたって、観光・文化・芸術は非常に重要な要素であると感じている。ぜひそのような成功事例をみながら、  新しいプロジェクトを検討できると良い。 ・外国籍の人やLGBTQの人の状況を把握するような取組は既に福岡市で実施しているのか。 ・外国籍の人やLGBTQの人等のマイノリティを対象とした実態調査の実施有無については、今のところ把握しているものはない。(福岡市) ・モニタリングせずに自然に任せて推進すると、社会的に力のある人が恩恵を受けやすい。「誰もが」という目指す姿を達成するためには、データをとりつつ戦略的に資源配分をしたり、活動の優先順位を付けたりする必要があるのではないか。  推進にあたり、「誰もが」という目指す姿を達成するためのデータ収集は計画に含める必要があるのではないか。 ・難しい課題が多くある。例えば、孤独死の問題についても一部の自治体の調査があるが、多くの自治体ではまだ把握できていない。LGBTQ等に関しての多重困難に関する統計的な数値を捉えることは非常に難しい。  地域包括支援センター等で捉えているような事例は見えてきているが、統計的にどの程度の意味があるかについては非常に難しい問題がある。また、ツーリズムそのものについても、観光統計で統一されたものはなく、推計値でしかない。  福岡100プロジェクトのなかで、ビッグデータ解析によってそのような項目に関する推計値を測定するようなプロジェクトが立ち上がるのであれば、福岡市の実態把握の第1歩としても期待したい。  いずれにしてもチャレンジングな問題であり、研究者の力も必要であり、発想の転換も必要な分野でもある。福岡100プロジェクトの1つとして取り組む意義はあるのではないか。 ・すべて一気に実施するのは難しいだろう。属性データの活用法はいくつかある。1つは施策全体をモニターするような国勢調査や住民調査のような位置づけのものであるが、活動する際の対象者の属性を把握し、  その活動の効果が一部の人に偏っていないかを評価することが重要だろう。後者は、色々な活動が大事な人を取り残していないかを評価しながら活動していくことになる。  また、活動単位で把握すればよく、ハードルは低い。経済産業省やAMEDとも予防健康づくりの評価戦略のなかでも議論しているが、医薬品と異なりサービスの効果は人の属性により異なるため、  格差を広げないようにモニタリングする異質性評価を必ず含めるべきだろう。  福岡100プロジェクトでもその点の取組みは始められると良い。プログラムを検討する際に、この活動が誰にどの程度インパクトがありそうかを予測するアセスメント会議を、当事者とともに実施することでポジティブ・ネガティブ双方の面を確認し、  どのように改善するかを提案していくスキームがある。合意形成の手段ではあるが、そのように当事者とともに、当事者のためになる活動を広げていくことも福岡100らしいプロジェクトになるのではないか。  非常に民主的なアプローチである。私自身も、社団法人安寧社会共創イニシアチブを立ち上げ、京都市京都府と京都の文化活動のヘルスケアインパクトアセスメントを進める計画を推進している。 今後検討が必要な事項 ・横串を入れて、全体で一体的に進めていく方向性は素晴らしい。医療・介護・福祉・市民生活を縦割りにすることによる弊害はあり、それを克服していこうという方針は賛成である。  一方で、どのように具体的に進めていくかはチャレンジングだろう。まずは、KPI等を定めずに先導的な事業「やってみる、トライしてみる」とのことだが、  「なぜ〇〇がゴールに資するのか」のロジックモデルの構築は早い段階で検討・実施したほうが良いだろう。具体的には、様々な取組がどのようなロジックで目標1・2・3に到達しうるのかを考える必要がある。 ・福岡100プロジェクトでは、KPIを設定せずに先導的な事業を「やってみる、トライしてみる」ものとしているが、保健福祉総合計画ではKPIを設定し、進捗を評価・管理する予定である。(福岡市) ・将来の課題はよく理解できたが、これまでに上手く機能していること、良い資源や成功例があれば紹介してほしい。参考資料2を確認すると、移動のしやすさや相談のしやすさ等では進捗が見られるため、  成功事例も積み重なっているのではないか。課題も重要だが、上手く機能していることに焦点をあてて検討していく、アセットベースに検討していくことも一案である。これらの評価は、市民の自己評価か。 ・市民へのアンケートや高齢者や障がい者の実態調査等を基にした結果である。(福岡市) ・市民の自己評価や幸福感、地域への愛着に関する評価は、主観的な幸福度を示す指標として1つの手掛かりになる。説明資料ではフレイル予防や就労等の目に見えるものに焦点をあてているが、  市民の声を基に幸福感を捉えてウェルビーイングについても把握することは可能だろう。  ただし主観評価になるため、もう少しどのような指標が良いのかという議論は必要である。  強みを見つけるような資料の活かし方をしていくことで、地域コミュニティ活動や民間資源、住民1人ひとりの経験やスキル等の上手く機能している強みを資産として認識し、文化資本のようなものから広げていくことで、  市民が主体的に参加するような計画につながるのではないか。 ・福岡市の保健福祉総合計画に関連して、これまでも福岡100プロジェクトにて今後取り組んでみたいアイデアが提示された。福岡100プロジェクトとして、ぜひ多くの市民や企業に知ってもらい、申請してもらい、取組みを進めてもらいたい。  それらの先駆的な取組みを、どのように保健福祉総合計画という行政計画に入れていくかについては、事務局としても検討が必要である。単に「〇〇という意見があった」というだけでなく、  「××のような宿題がある」「これまでの福岡100プロジェクトのなかでは△△のような効果があった」「今後▼▼に取り組みたい人は福岡100プロジェクトでの実践の機会がある」等、  それぞれの目標に合わせて保健福祉総合計画のなかで特記できるような書き方を検討していただきたい。より福岡100プロジェクトと保健福祉総合計画との連動性が出てくるだろう。 ・保健福祉総合計画と福岡100プロジェクトの構造的な関係性をしっかりと整理することが重要だろう。次期保健福祉総合計画の策定にも関与しているが、第1回委員会において、現場で活躍している委員からは、  前回の計画策定時よりも現場はかなり逼迫しているという印象を強く受けた。コロナ禍もあり、高齢化も着実に進行しているなかで、現場の逼迫はかなり厳しくなっている。  行政的な財政支出を増やしてほしいという一方的な要望に集約されてしまう可能性があるが、現実的ではない。  そのなかで、保健福祉総合計画と福岡100プロジェクトの相乗効果を持たせることにより、他にはない取組みができるのではないかと思っている。  経営学では、「両利きの経営」という言葉があり、既存の事業を深堀し着実に実行すると同時に、新しい事業や可能性を模索することをしなければ、組織としての成長や発展はないとの理論がある。  両利きの経営を、保健福祉総合計画と福岡100プロジェクトで進めていくことになるだろう。福岡100プロジェクトでは、かなり多様なプレーヤーを巻き込み、それぞれのステークホルダーがリソースを持ち寄ったり、  組み合わせを工夫したりすることで、実際の現場で何が効果的であるかを実証実験的に回しながら見極めていくチャレンジングな取組みを引き続き進めていくことができる。その場で得られたことを、  いかに上手く保健福祉総合計画等に接続性を持たせるかが鍵だろう。本日は、保健福祉総合計画に福岡100プロジェクトから流れ込んでくる多様な刺激や先進的な取組みののりしろをどのようにつくるかという議論だったと認識している。  のりしろとして、どのようなキーワードや構造的な構成にしておくべきか。次期保健福祉総合計画は分野を超えた取組みが大きな目標となっており、  今回頂いた意見をどのように保健福祉総合計画に吸収できそうかという観点で事務局では点検のうえ、今後の計画策定にいかしほしい。   以上