中央区人権啓発連絡会議だより こうろ 第34号 おもて面 発行/中央区人権啓発連絡会議 事務局/中央区総務部生涯学習推進課 電話 718-1068 ●知っていますか?「やさしい日本語」・「易しさ」と「優しさ」で、言葉と気持ちを伝えよう  “国際化”と言われるようになって久しいですが、外国人とのコミュニケーション手段は何かと聞かれたら、多くの方は「英語」を思い浮かべるのではないでしょうか。  その一方で、「言葉の壁」を理由に、外国人とのコミュニケーションに躊躇したり、難しいと感じたりする方も多いと思います。  では、「日本に住む外国人は、英語を話せる人より、日本語を話せる人の方が多い」と聞くと、いかがでしょうか。  日本に住む外国人を対象に行われた調査の結果をいくつかご紹介します。  国立国語研究所が行った2008年の調査によると、日常生活に困らない言語として「英語」を挙げた人は約4割であったのに対して「日本語」を挙げた人は6割を超えています。  また、東京都つながり創生財団による2022年の調査では、8割の人が日本語を不自由なく聞き取れる・だいたい聞き取れると回答しています。  このような中、「やさしい日本語」という言葉を聞く機会が増えています。  「やさしい日本語」とは、日本語を母語としない外国人に伝わりやすい日本語表現のこと。  先ほどの東京都つながり創生財団の同じ調査では、約7割の方が「日本人が話す日本語は難しい」と感じ、8割を超える人が「やさしい日本語」による情報発信を希望するなど、日本に住む外国人とのコミュニケーション手法として、その重要性は増しています。  そこで、日本語教師として教鞭をとりながら、「ふくおかやさしい日本語でつなぐ会」で「やさしい日本語」の普及に取り組み、西日本新聞の「やさしい日本語ニュース」の監修も手掛ける伊東佳代さんにお話をお聞きました。  やさしい日本語とは何ですか。  「日本人が使う日本語よりも簡単で、外国人にわかりやすい日本語です。   阪神・淡路大震災を契機に、災害時に日本にいる外国人に正確な情報を早く伝えるために生まれた考え方です。   今では災害時に限らず、日常の外国人への情報提供手段として、行政情報や生活情報、毎日のニュース発信など、さまざまな分野で広がっています。」  例えば、どのような表現ですか。  「簡単な言葉に言い換えます。  『立入禁止=入らないでください』、『開始します=始めます』、『更衣室=着替えの部屋』といった具合です。」  ポイントを教えてください。  「東京外国語大学の荒川洋平教授は、『はっきり・さいごまで・みじかく』の『はさみの法則』を提唱しています。   あいまいな表現をせず、最後まで言い切り、短く分けることが大切です。   例えば、『河川氾濫の恐れがあるため、今後の動向には十分警戒くださいますようお願いいたします。』という文章なら『川の水が多いです。水が家の近くに来るかもしれません。これから注意してください。』という感じです。   他にも、簡単な言葉を使う/敬語は使わず、です・ます調で/擬音語・擬態語は使わない/などに注意します。」  誰でもできますか。  「大丈夫です。『やさしい日本語』に正解はないので、伝わらなければ、また別の言葉に言い換えましょう。大事なのは伝えたいという気持ち。相手の理解度に応じてトライしてください。」  最後にメッセージをお願いします。  「『やさしい日本語』は、外国人に限らず、お子さんやご高齢の方、障がいがある方などにも分かりやすく、とても易しい、そして優しい表現です。   相手もあなたが伝えたいことを理解したいと思っています。相手に合わせた使い方と相手を思いやる気持ちがあれば、言葉も気持ちも伝わります。   ぜひ、『やさしい日本語』で『やさしい福岡』にしていきましょう!」  福岡市に住む外国人(登録人口)は、2023年12月末で約4万5千人。この10年で約1万8千人も増えています。  易しさと優しさで「伝えたい」と「理解したい」をつなぐ「やさしい日本語」。  情報伝達の手段にとどまらず、信頼や絆づくりなど、活躍の場がますます広がりそうです。  ふくおかやさしい日本語でつなぐ会のホームページ  https://www.fukuokayasasiinihongo.com ●中央区人権啓発連絡会議主催 令和5年度中央区人権を考えるつどい  中央区人権啓発連絡会議では、福岡市立中央市民センター・中央区役所との共催により、令和5年9月14日(木)、同センターホールにおいて、「中央区人権を考えるつどい」を開催しました。  当日は、部落解放同盟福岡市協議会書記長(現在は執行委員長)の池勝さんに「私はこんな差別をなくしたい・・・」をテーマにご講話いただくとともに、部落出身であることを隠し通す青年の苦悩と葛藤を描いた島崎藤村原作の映画「破戒」(2022年公開)を上映しました。  会場には3百名を超える大勢の方々にご参加いただき、大盛況の「つどい」となりました。 講話「私はこんな差別をなくしたい・・・」部落解放同盟福岡市協議会 池 勝 さん  福岡市内の被差別部落(同和地区)ご出身の池さん。  ご自身が受けた結婚差別の経験について話してくださいました。  お相手のご家族から、池さんの出身地や、将来生まれる子どもが差別されるかもしれない、あるいは家族の結婚に差し障るかもしれないといった不安などを理由に、結婚を反対されたそうです。  周囲の応援もあり、おふたりは結婚されますが、「彼女が一番つらかったと思います」と語られました。  また、池さんは「破戒の舞台は明治時代ですが、部落差別は昔の話なのでしょうか」と問いかけました。  福岡市では今も悪質で恫喝的な差別落書きが見つかっていること。また、インターネットでは、部落の地名・人名リストや、福岡市内を含む全国各地の部落を撮影した差別動画が公開されていること。  差別の現状について池さんのお話を聞くと、昔の話どころか、差別はより深刻化、陰湿化していると感じます。  最後に、池さんは「それでも、人権教育の手応えは感じています。ぜひ皆さんも『知ること・考えること』を続けてください」と来場者に呼びかけて講話を結びました。 映画「破戒」上映(島崎藤村 原作)前田和男監督作品・2022年公開  あらすじ  主人公の瀬川丑松は、亡き父からの強い戒めに従い、被差別部落出身ということを隠し、地元を離れてある小学校の教員となります。  生徒に慕われ、また、下宿先の女性・志保に心を焦がしながらも、差別の現実に心を乱し、出自を隠していることに苦悩する丑松。  友人の同僚教師・銀之助の支えはありますが、彼にも打ち明けることができません。  そんな中、学校では丑松の出自について、周囲が疑念を抱くようになり・・・。 参加者の声  ご参加いただいた方からの感想を一部ご紹介します。  池さんの話で、「破戒」の世界が今でも続いていることを受け止めたいと思いました。「人間は弱いから差別する」という言葉が響きます。  初めて部落の方の話を聞きました。池さんの話を聞いて「差別はいかん」ということが確信に近づきました。  今は昔ほど差別はないと思っていたが、池さんの話で今でもまだ続いていることを知り、恥ずかしい行為で腹立たしく思いました。  同和問題が現存する現状は決して許してはいけない。人間はすべて平等です。  知ること、考えることから始めていきたいと思います。差別が無くなるよう微力でも努力していきたいと思いました。  映画が静かに訴えかける言葉ひとつひとつが心に染み入りました。  最近福岡に引っ越してきて、部落問題についてほとんど知識がなかった。お話も映画も、部落問題を考えるきっかけになりました。 お詫び  当日は、機材不具合により映画の上映が中断し、申し訳ございませんでした。  改めてお詫びいたします。 中央区人権啓発連絡会議だより こうろ 第33号 うら面 ●第52福岡市人権を尊重する市民の集い  福岡市では、昭和23(1948)年12月10日に世界人権宣言が採択されたことにちなみ、毎年12月4日から10日までを「福岡市人権尊重週間」と定め、人権意識の高揚に向けた取り組みを行っています。 そのひとつとして、令和5年12二月9日(土)、福岡市人権尊重行事推進委員会主催の「人権を尊重する市民の集い」が中央市民センターで開かれ、NPO法人あなたのいばしょ理事長の大空幸星さんが講演されました。 望まない孤独をなくしたい〜自己責任社会にある「あなたのいばしょ」〜 特定非営利活動法人あなたのいばしょ 理事長 大空 幸星 さん  講演の2週間前に25歳になられたという大空さん。  大学在学中に設立した「あなたのいばしょ」が展開する相談窓口のお話や、活動に込める思いなどについてお話いただきました。  「望まない孤独」とは  私たち「あなたのいばしょ」が目指すのは「望まない孤独」をなくすことです。  「望まない孤独」は私たちの造語で、頼りたくても頼れない、話したくても話せない、という状況を表します。  社会のあらゆるところに蔓延している極めて深刻な問題で、悩みや困りごと、モヤモヤをより複雑にし、解決を困難にしています。  相談窓口の新しい形  「あなたのいばしょ」は、24時間・365日、誰でも無料・匿名で利用できるチャット(インターネットを介してリアルタイムに文字で会話するシステム)相談窓口を開設しており、相談件数は開設からの約3年半で80万件を超えています。  電話相談は、多くの方々の支えとなる一方で、「今の若者・子どもたちは電話をほとんど使わない」、「相談側の時間や場所が限られる」、「相談員の不足、特に相談も自殺も増える夜間の体制確保が困難」などの課題もあります。  「あなたのいばしょ」ではチャット相談、それも個人情報の登録も不要なので、スマホはもちろん、パソコンやタブレット端末、ゲーム機などから、いつでもどこでも相談できますし、夜間は時差を活用し、海外に住む相談員が活動することで24時間体制を実現しています。  相談員の大半はボランティアですが、活動はもちろんのこと、応募から採用までリモートで行うため、空き時間に活動することができます。  相談は1日で約1500件。チャットの文面からAIが緊急性を判断し、自殺やDVなどのリスクが高い相談は有給の専門職が、それ以外の相談は、書類選考・面談・研修を経た世界中のボランティア相談員が対応しています。  きっかけは原体験  活動のきっかけは、私の原体験にあります。  小学5年生の時に両親が離婚し、一緒に暮らす父から暴言や暴力を受けました。  その後、母に引き取られましたが、母は持病で働けなくなり、私が生活を支えざるをえない立場になりました。  情緒不安定な母との壮絶な確執と、生きるためのアルバイトに追われる毎日に追い詰められていきました。  苦しい日々が続くと、悟りを開いたような感覚になります。その悟りは美しいものではなく諦めた悟り。そこには「無」しかありません。  アルバイトから疲れて帰ったある夜、高校の担任の先生にメールを送りました。  「死にたい、学校へ行く時間も気力もなく、消えたい。」  朝、電話の音で目覚めると、先生が私の家まで来てくれていました。頼れる大人がいると初めて実感しました。  それで問題が解決するわけではありませんが、頼れる存在があるという安心感を得てから、私の人生は少しずつ動き始めました。  私は先生に出会えましたが、このような出会いを幸運や奇跡にしてはいけない。信頼できる人に確実にアクセスできる仕組みを作ろうと思ったことが、「あなたのいばしょ」の始まりです。  マイナスからゼロへ  私たちの支援は「マイナスからゼロへ」が基本です。  相談者は、最終的には悩みや苦しみの元である問題の解決、いわばプラスの状態を望んでいると思いますが、私たちの役割はプラスの状態にすることではありません。  「つらい、苦しい、死にたい」というマイナスの状況から、私たちが話を聞いて受け止め、共感、肯定することで、「とりあえず今日は死ぬのをやめよう」、「ちょっと苦しいけど生きてみよう」と思える瞬間まで持っていく。  このマイナスからゼロへの支援こそ私たちの役割です。  マイナスの状況で必要なのは、例えば行政に頼るといった具体策よりも、まず生きることを選んでもらうこと。このゼロを経ることで、初めてプラスに向かえるのです。  「マイナスからゼロ」は私たちのような広域的な受け皿が担い、「ゼロからプラス」は行政や専門機関が担う役割分担と連携が必要です。  「自己責任」への危機感  今の社会では、本来は「自分の人生は自分で決めて生きていく」という前向きな意味であるはずの「自己責任」が、単なる「自業自得」にすり替わり、望まない孤独の蔓延に拍車をかけています。  「すべて自分のせいだ、悪いのは自分だ」と思い詰め、話せない、頼れないと抱え込んでしまうのです。  特に危機的な状況にあるのが、子どもたちです。  国を挙げての自殺対策で自殺者数は減っています。  しかし、少子化で子どもの数は減っているのに、子どもの自殺は増え続けています。  今の相談や支援のあり方が、子どもたちが求める支援とかみ合っていないのです。  日本には民生委員制度という素晴らしい制度がありますが、現状として子どもたちに応える形になっているか疑問です。そこで、支援対象を子ども・若者に限定した「子ども・若者サポーター制度」の創設なども提言しているところです。  さいごに  皆さんには、つながりを大事にしてほしいと思います。  身近な人にちょっと手を差し伸べるだけでも、孤独の連鎖を防ぐことができます。  その時に大切なのは、自分の心を犠牲にしないこと。  自分の人生を大切にし、その余白で誰かに手を差し伸べる。これを「本気の他人事」と呼んでいます。  自分の犠牲ありきの支援は継続も広げるのも難しい。  ぜひ、「本気の他人事」の連鎖を広げていきましょう。  そして、皆さんも、苦しい時は誰かに頼ってください。 ●人権尊重作品中央区入選作品  12月4日から10日の福岡市人権尊重週間にあわせて、市が募集した標語やポスターの中から、中央区内の入選作品をご紹介します。(順不同) (標語の部) 左から  ・私の色 みんなの色が かがやく世界へ  警固中学校 2年 藤田 いりあ さん  ・大丈夫?」 小さな気づきが 誰かを救う  警固中学校 3年 井上 七海 さん  ・人と自分 比べる前に 認めよう  警固中学校 3年 海山 心瑚 さん (ポスターの部) 左から  ・赤坂小学校 6年  斧田 鞠恵 さん  ・舞鶴中学校 2年  寺田 愛和 さん  ・筑紫女学園中学校 3年 帆足 心希 さん ●中央区人権啓発連絡会議 構成機関・団体(順不同)  中央区人権啓発連絡会議は、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消を目指し、「中央区人権を考えるつどい」の開催や街頭啓発の実施、広報紙「こうろ」の発行など、人権を尊重し人の多様性を認め合う明るく住みよいまちづくりの実現に向けて活動しています。  ・中央区校区自治協議会等代表者会  ・中央区人権啓発地域推進組織(校区・地区人権尊重推進協議会14団体)  ・中央区体育振興連絡会  ・中央区交通安全推進協議会  ・中央区青少年育成連絡会  ・中央区民生委員児童委員協議会  ・中央区老人クラブ連合会  ・中央区公民館長会  ・中央区小学校長会  ・中央区小学校PTA連合会  ・中央区中学校長会  ・中央区中学校PTA連合会  ・中央区子ども会育成連合会  ・福岡市身体障害者福祉協会中央区支部  ・中央保護区保護司会  ・中央区男女共同参画連絡会  ・中央区役所 ●編集後記  叱責や反省の場で聞く「年甲斐もない」という言葉。「年甲斐」とは「年齢に相応しい思慮や分別」との意味だそうです。  でも、やりたいことも、また、できることも人それぞれ。  「○○歳にもなって…」と誰かのことを枠にはめたり、「いい大人だし」と自分に制約を設けたりせずに、誰もが自分らしく輝ける社会って素敵ですよね。  「年甲斐」の枠から一歩踏み出してみると、新しい景色が見えるかもしれません。  さて、ここで一首。  「五十路前 息子に張り合い 肉離れ 全治二か月 妻あきれ顔」  「年甲斐」のブレーキが必要な場面もあるようです(涙)。