資料3 福岡市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例 逐条解説(案) 令和3年4月 福岡市保健福祉局障害者部障害者支援課 目  次 第1編 総論  第1 逐条解説の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1  第2 条例制定の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1  第3 条例の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 第2編 逐条解説  条例名・目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3  前文・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4  第1章 総則    第1条(目的)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5    第2条(定義)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6    第3条(市の責務)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9    第4条(事業者の役割)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9    第5条(市民の役割)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10  第2章 基本理念    第6条・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11  第3章 障害を理由とする差別の禁止    第7条(不当な差別的取扱いの禁止)・・・・・・・・・・・・・・・・ 14    第8条(合理的配慮の提供)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19  第4章 障害を理由とする差別を解消するための施策等   第1節 基本的な施策    第9条(啓発活動等)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21    第10条(交流の推進)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22    第11条(相談体制の充実)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22    第12条(表彰)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23    第13条(財政上の措置)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24   第2節 障害を理由とする差別に関する相談等    第14条(相談)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25    第15条(市長への申出)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26    第16条(指導又は助言等)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27    第17条(審査会への諮問)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 28    第18条(勧告)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29    第19条(公表)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29  第5章 福岡市障害者差別解消推進会議    第20条(設置)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31    第21条(所掌事務)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32    第22条(組織及び委員)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33    第23条(部会)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34    第24条(参考人の出席)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34    第25条(推進会議への委任)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35  第6章 福岡市障害者差別解消審査会    第26条(設置)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36    第27条(所掌事務)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36    第28条(組織及び委員)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37    第29条(専門委員)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37    第30条(参考人の出席等)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38    第31条(審査会への委任)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39  第7章 雑則    第32条(罰則)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40    第33条(規則への委任)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40  附 則   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 第3編 資料  第1 日本国憲法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42  第2 条約     ○ 障害者の権利に関する条約(抄)・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43  第3 法律等     ○ 障害者基本法(抄)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47   ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律・・・・・・・・・・ 49   ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針・・・・・・・・ 58   ○ 障害者の雇用の促進等に関する法律(抄)・・・・・・・・・・・・・ 70     第4 福岡市例規関係   ○ 福岡市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73   ○ 福岡市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例施行規則・・・・・・・・・・・・・・・・ 84   ○ 福岡市障害者差別解消推進会議運営要領・・・・・・・・・・・・・ 87   ○ 福岡市障害者差別解消審査会運営要領・・・・・・・・・・・・・・ 90   ○ 福岡市障害を理由とする差別に関する相談等に係る事務実施要綱・・ 95   ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する福岡市職員対応要領・・ 98   第1編 総論  第1 逐条解説の目的   「福岡市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例」(通称:福岡市障害者差別解消条例)は、約2年という時間をかけて、障害当事者をはじめ、事業者や市民など様々な立場の方々から意見を聴き、議論を重ねながら内容を検討してきました。それは、この条例が、福岡市で生活するすべての人にかかわりのあるものだからです。   条文の一つ一つには、様々な立場の方々の考えや想いが込められていますが、条文だけを見ても、普段、法律や条例などに触れる機会の少ない方にとっては、ややわかりにくい面があるかもしれません。このことは、条例というものの特性上、やむを得ない面もありますが、長い時間をかけて制定した条例が絵に描いた餅になっては意味がありません。   この逐条解説では、なるべくわかりやすい言葉で解説を行うことで、普段、あまり法律や条例などに触れる機会のない市民の皆様に、条例の趣旨や考え方について理解を深めていただくことを目的としています。それによって、障害のある人もない人も相互に人格と個性を尊重し合いながら共に生きるまちづくりの実現に少しでも近づくことを願っています。     第2 条例制定の経緯   障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として平成18年に国連において障害者権利条約が採択されました。また、国において障害者基本法の改正や、障害者差別解消推進法の制定などの取組みがなされていく中で、福岡市内40を超す障害関係団体が集まり、「福岡市に障害者差別禁止条例をつくる会」が発足し、アンケート調査による実態調査などが行われました。福岡市においては、平成28年度から、障害を理由とする差別を解消するための条例の制定に向けた具体的な検討が始まりましたが、その後の検討経過は、以下のとおりです。     H28.7     福岡市保健福祉審議会へ諮問  H28.8〜H29.3 福岡市障害を理由とする差別を解消するための条例検討会議         (全8回) ※有識者4名、当事者6名、事業者3名、市民等5名  H29.9〜11   福岡市保健福祉審議会障害者保健福祉専門分科会(全2回)  H29.12    福岡市議会(第2委員会)報告  H30.1〜2   パブリック・コメント、タウンミーティング  H30.4     福岡市保健福祉審議会障害者保健福祉専門分科会  H30.5     福岡市保健福祉審議会総会  H30.6     福岡市議会 条例案可決  H31.1〜    条例施行 第3 条例の構成   この条例は、大きく分けて3つの分野から成り立っています。   1つ目は、第1章(第1条〜第5条)と第2章(第6条)で、ここでは条例全体に共通する総則的な内容を規定しています。   2つ目は、第3章(第7条・第8条)と第4章(第9条〜第19条)で、ここでは障害を理由とする差別を解消するための具体的な規制や施策等を規定しています。   3つ目は、第5章(第20条〜第25条)と第6章(第26条〜第31条)で、ここではこの条例に基づき設置する2つの附属機関について規定しています。 第2編 逐条解説 条例名・目次 福岡市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例 目次 前文 第1章 総則(第1条―第5条) 第2章 基本理念(第6条) 第3章 障害を理由とする差別の禁止(第7条・第8条) 第4章 障害を理由とする差別を解消するための施策等  第1節 基本的な施策(第9条―第13条)  第2節 障害を理由とする差別に関する相談等(第14条―第19条) 第5章 福岡市障害者差別解消推進会議(第20条―第25条) 第6章 福岡市障害者差別解消審査会(第26条―第31条) 第7章 雑則(第32条・第33条) 附則 【趣旨・解説】 福岡市の市政の柱の一つである「ユニバーサル都市・福岡」の趣旨を踏まえるとともに、「福岡市障害を理由とする差別を解消するための条例検討会議」や「福岡市保健福祉審議会(障害者保健福祉専門分科会)」における委員の意見に基づき、条例の題名を「福岡市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例」としました。 なお、条例名が長いことを踏まえ、通称としては「福岡市障害者差別解消条例」という名称を使用しています。    前文 【趣旨・解説】 ○ 前文とは、条例の制定の背景、理念、決意等を述べる文章のことをいいます。 ○ ここでは、条例を制定することとなった経緯や条例の必要性を述べるとともに、障害者の置かれている実態や条約、日本国憲法、障害者基本法、障害者差別解消法等を踏まえ、今後、福岡市が市民や事業者と一体となって差別解消に取り組んでいく決意を述べています。 ○ 「すべての人が個人として尊重される社会」は、「障害者の権利に関する条約」や「日本国憲法」などでも謳われている重要な原理です。 第1章  総則 第1条(目的) (目的) 第1条 この条例は、障害を理由とする差別の解消の推進に関し、基本理念を定め、市の責務並びに事業者及び市民の役割を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定めることにより、障害者が、社会を構成する主体の一員として、自らの意思で社会のあらゆる分野における活動に参画し政策決定に関わることができる環境を構築し、もってすべての人が相互に人格と個性を尊重し合いながら共に生きる社会の実現に資することを目的とする。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、この条例の目的を定めています。目的規定は、条例の立法目的を簡潔に表現したもので、条例全体の解釈・運用の指針となるものです。 ○ 「障害を理由とする差別」については、第2条第3号に規定するとおりです。 ○ 「基本理念」については、第6条各号に規定するとおりです。 ○ 「市の責務」については第3条、「事業者の役割」については第4条、「市民の役割」については第5条にそれぞれ規定するとおりです。 ○ 「障害者」については、第2条第1号に規定するとおりです。 ○ 「障害者が…政策決定に関わることができる環境を構築」することの一環として、第22条第2項では、この条例に基づき設置する附属機関である「福岡市障害者差別解消推進会議」(以下「推進会議」という。)の委員に、障害者が任命されることを規定しています。 ○ 「社会を構成する主体の一員」については、障害者が保護の対象ではなく、権利の主体であることを確認するため規定しています。 ○ 「自らの意思で」については、あらゆる意思伝達手段を用いて本人が意思を表明する(本人の意思の表明が困難な場合には、その家族や支援者が本人を補佐する場合を含みます)ことが重要です。また、そのための環境を整えることが大切です。 ○ 「社会のあらゆる分野における活動に参画」及び「共に生きる社会」(=共生する社会)については、障害者基本法第3条などにおいても規定されています。  第2条(定義)  (定義) 第2条 この条例において使用する用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 (1) 障害者 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的、断続的又は周期的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 (2) 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 (3) 障害を理由とする差別 客観的に正当かつやむを得ないと認められる特別の事情がないにもかかわらず、不当な差別的取扱いを行い、又は合理的配慮をしないことをいう。 (4) 不当な差別的取扱い 正当な理由なく、障害を理由として、障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすることをいう。 (5) 合理的配慮 障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じた社会的障壁の除去のための必要かつ合理的な現状の変更又は調整をいう。 (6) 事業者 市内で事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体(地方公営企業法(昭和27年法律第292号)第3章の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業を除く。)及び地方独立行政法人を除く。)をいう。 (7) 独立行政法人等 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)第2条第5号に規定する独立行政法人等をいう。 (8) 地方独立行政法人 法第2条第6号に規定する地方独立行政法人をいう。 【趣旨・解説】 本条は、この条例における用語の定義を定めています。 第1号 ○ 「障害者」は、障害者手帳や療育手帳等の所持者に限られず、また、障害のある児童も含まれます。 ○ 障害者基本法や障害者差別解消法では、「発達障害」については「精神障害(発達障害を含む。)」と規定しており、「難病」については個別に規定せず「その他の心身の機能の障害」に含まれるとされています。   この条例では、「発達障害」と「難病」がともに「心身の機能の障害」の例示であることを示すため、「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病その他の心身の機能の障害」と規定しています。 ○ 「心身の機能の障害」には、「身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病」に限らず、慢性疾患による心身の機能の障害などを広く含みます。 ○ 障害者基本法や障害者差別解消法では、「継続的」とのみ規定されていますが、「断続的」や「周期的」といった意味も含まれると考えられるため、この条例では「継続的、断続的又は周期的」と規定しています。ただし、足の捻挫・骨折や風邪など、一時的な怪我や疾患などは除かれます。 ○ 「日常生活」とは、主に日常の衣食住に関する生活をいいます。 ○ 「社会生活」とは、主に社会の一員として地域社会と関わる生活をいいます。具体例としては、職業生活やボランティア活動、地域コミュニティでの活動等が挙げられます。また、趣味や余暇活動も含まれます。 第2号 ○ 「社会的障壁」とは、障害のある方にとって、日常生活や社会生活を送る上で障壁となるような、社会における事物(通行、利用しにくい施設、設備など)、制度(利用しにくい制度など)、慣行(障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など)、観念(障害のある方への偏見など)その他一切のものをいいます。 ○ 「その他一切のもの」とあるように、障害者が日常生活や社会生活を送る上で支障となるあらゆるものが対象となります。これは、障害者が日常生活や社会生活で制限を受ける原因が、個人の心身機能の障害のみにあるのではなく、例えば、車いすの方が通りにくくなる道路の段差など、社会の構造側にあるとする、いわゆる「社会モデル」の考え方に基づくものです。社会モデルの考え方は、障害者権利条約で初めて採用されたもので、障害者基本法や障害者差別解消法でも採用されています。 第3号 ○ 「障害を理由とする差別」として、「不当な差別的取扱いを行うこと」と「合理的配慮をしないこと」の2種類を規定しています。 ○ 個別の事案で特定の行為が差別に該当するか否かは、それぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 第4号 ○ 「不当な差別的取扱い」とは、例えば、正当な理由なく、障害を理由として、サービスや各種機会を提供しない、場所・時間帯などを制限する、障害者だけに条件を付けることなどをいいます。 ○ 「正当な理由」の有無は、それぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。判断基準については、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)の「第2 行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項」の「2 不当な差別的取扱い (2)正当な理由の判断の視点」に記載してあるとおりです(資料編63ページ参照)。 第5号 ○ 「合理的配慮」という概念は、障害者権利条約で採用されており、障害者基本法や障害者差別解消法でもこの条約の趣旨を取り込んだ規定が置かれています。「社会的障壁の除去のための」とあるように、この合理的配慮というのは、第2号で説明した「社会モデル」の考え方を基礎にしています。つまり、社会の側が障害者にとっての障壁(バリア)を生み出しているのであれば、それを除去するための取組みを行うこともまた社会の務めであるという考え方です。 具体的には、乗り物への乗車に当たっての職員等による手助けや、筆談、読み上げ等の障害の特性に応じたコミュニケーション手段による対応、段差の解消のための渡し板の提供などがこれに当たります。 ○ 「必要かつ合理的」であるか否かは、それぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 第6号 ○ 「事業」とは、営利目的か非営利目的かを問わず、反復継続して行われる同種の行為であり、対価を得ない無報酬の事業、社会福祉法人や特定非営利活動法人の行う非営利事業も含まれます。 ○ 町内会や自治会など、市内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体も、原則として「事業者」に当たります(事業形態や規模等から「事業者」とはいえないような例外的な場合は除きます)。 ○ 地方公共団体から「地方公共団体の経営する企業」が除外されているのは、根拠法である地方公営企業法で「常に企業の経済性を発揮する」ことが求められていることや、原則として業務に要する費用を事業収入で賄うことが前提とされていることから、「事業者」として扱うことが適当であるためです。 第7号 ○ 「独立行政法人等」には、学校法人や社会福祉法人は含まれず、「事業者」に含まれます。  第3条(市の責務) (市の責務) 第3条 市は、第6条の基本理念にのっとり、障害、障害者及び障害を理由とする差別の解消に対する理解の促進を図るとともに、障害を理由とする差別の解消に関する施策を策定し、及びこれを実施するものとする。 【趣旨・解説】 ○ 市の責務として、差別解消に対する理解の促進を図ることと、差別解消に関する施策を策定し実施することを規定しています。 ○ 「市」には、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会などは含まれますが、市から委託を受けた指定管理者や事業者などは含まれません。 ○ 市の基本的な施策については、第9条〜第13条に規定しています。  第4条(事業者の役割) (事業者の役割) 第4条 事業者は、第6条の基本理念にのっとり、障害を理由とする差別の解消のための取組みを積極的に行うとともに、市が実施する障害を理由とする差別の解消に関する施策に協力するよう努めるものとする。 【趣旨・解説】 ○ 「市、事業者及び市民が一体となって努力していくことが必要である」と規定した前文の趣旨を踏まえ、事業者の役割を規定しています。  第5条(市民の役割) (市民の役割) 第5条 市民は、次条の基本理念にのっとり、障害を理由とする差別をなくすよう努めるとともに、すべての人が相互に人格と個性を尊重し合いながら共に生きる社会の構築に寄与するよう努めるものとする。 【趣旨・解説】 ○ 「市、事業者及び市民が一体となって努力していくことが必要である」と規定した前文の趣旨を踏まえ、市民の役割を規定しています。 ○ 「市民」には、「障害者」と「障害者でない者」の両方が含まれています。 ○ 障害者が居住している地域で差別が起こった場合、その障害者にとっては生活の継続が困難になるなど重大な影響を及ぼすものです。したがって、差別をなくすために市民が果たす役割も重要です。 第2章 基本理念 第6条 第6条 障害を理由とする差別の解消の推進は、次に掲げる基本理念に基づき行うものとする。 (1) すべての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有すること。 (2) 何人も、障害を理由とする差別により障害者の権利利益を侵害してはならないこと。 (3) 社会的障壁の除去のためには、合理的配慮を行うことが促進される必要があること。 (4) 何人も、障害者との交流を通じて障害又は障害者に対する理解を深めていくこと。 (5) 障害を理由とする差別に関する紛争が発生した場合には、相手方の立場を踏まえた建設的な対話を行うことにより解決することを基本とすること。 (6) すべての障害者は、どこで誰と生活するかについての選択の機会が保障され、地域社会において他の人々とともに暮らす権利を有すること。 (7) すべての障害者は、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段及び情報の取得又は利用のための手段を選択する機会が保障される権利を有するとともに、障害者に対しては、コミュニケーション及び意思決定の支援並びにこれらの選択の機会を保障する必要があること。 (8) 女性である障害者は、障害に加えて女性であることにより複合的に困難な状況に置かれている場合があること、及び児童である障害者に対しては、年齢に応じた適切な支援が必要であることを踏まえること。 (9) 非常災害時において障害者の安全を確保するため、非常災害に備えた地域における支援体制の整備及び非常災害発生時における適切な支援が求められること。 【趣旨・解説】 本条は、この条例全体に共通する基本原理(強調したい理念や方針)を規定しています。条例全体に共通する内容であるため、本来は「第1章 総則」に規定すべきとも思われますが、本条の重要性を考慮して、独立して1章を設けることとしました。   第1号 ○ 障害者基本法第3条に規定されているように、障害の有無にかかわらず、すべての人は、個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有しますが、本条は、すべての障害者がこの権利を有することを確認するために規定したものです。 第2号 ○ 障害の有無にかかわらず、すべての人は、他者の権利利益を侵害してはならないのが原則ですが、本条は、誰もが障害を理由とする差別によって障害者の権利利益を侵害してはならないという理念を特に規定しています。差別をなくすためには行政・事業者・市民の積極的な関わりが必要であり、差別のない社会づくりを目指していく必要があります。 ○ 「障害を理由とする差別」には、第2条第3号の定義のとおり、「不当な差別的取扱いを行うこと」と「合理的配慮をしないこと」の両方が含まれます。 ○ 本号を具体化する規定として、第7条と第8条があります。本号では「何人も」と規定しており、市民を含めたすべての人が対象となっていますが、第7条と第8条では、「市」と「事業者」のみが対象となっています。それは、この条例が、「差別をする側」と「差別をされる側」という対立構造を生み出すことが目的なのではなく、建設的対話や相互理解が重要であり、市民に対して規制をしていると受け取られるような条例にすべきではないと考えたためです。   ただし、障害を理由とする差別の解消に向けた強いメッセージを示すことも重要であることから、基本理念を規定する本条においては「何人も」と規定し、すべての人が差別によって障害者の権利利益を侵害してはならないとしています。 第3号 ○ 障害者が日常生活や社会生活で制限を受ける原因が、個人の心身機能の障害のみにあるのではなく、社会の構造側にあるとする、いわゆる「社会モデル」の考え方に基づき、社会全体で合理的配慮を行うことを促進していくという理念を規定しています。 第4号 ○ 障害者に対する誤解、無理解、偏見などは、障害者との交流の機会が少ないという社会背景があると考えられることから、交流を通じて理解を深めていくという理念を規定しています。これは、福岡市が市政の柱の一つとして推進している「みんながやさしい、みんなにやさしいユニバーサル都市・福岡」の考え方にも通じるものです。 第5号 ○ 障害者と障害者でない者の間で争いとなる前に、お互いを理解し合うよう努めることが大事ですが、もし争いとなってしまった場合でも、お互いが自己の立場からのみ主張しあうのではなく、相手の立場に配慮しながら建設的な対話を行うことを通じて解決すべきであるという理念を規定しています。 ○ 「建設的な対話」とは、例えば、障害者の希望や代替措置、事業者がとり得る方法を話し合うなど、相互理解を深めながらより良い解決策を模索していくための対話のことをいいます。 第6号 ○ 障害の有無にかかわらず、すべての人は、どこで誰と生活するかを選ぶことができ、地域社会で他の人々とともに暮らす権利がありますが、本条は、すべての障害者がこの権利を有することを確認するために規定したものです。同様の趣旨の規定が、障害者権利条約第19条、障害者基本法第3条第2号に謳われています。 第7号 ○ 障害者は、情報の送受信の場面で不利な立場になることがあることから、意思を伝達したりコミュニケーションをとったりする場面で不利な立場に置かれることがあってはならないという理念を規定したものです。同様の趣旨の規定としては、障害者権利条約第21条があります。 第8号 ○ 障害者である女性や児童については、障害者権利条約や基本方針でも言及されており、差別解消の推進の観点から重要と考えて規定しています。 第9号 ○ 非常災害時における障害者の安全を確保する観点から、事前の体制整備や災害時の支援について規定しています。 第3章 障害を理由とする差別の禁止 第7条(不当な差別的取扱いの禁止) (不当な差別的取扱いの禁止) 第7条 市(市が設立した地方独立行政法人を含む。次条第1項及び第21条第3号において同じ。)及び事業者は、その事務又は事業を行うに当たり、次に掲げる取扱いその他の不当な差別的取扱いにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 (1) 福祉サービスの分野における次に掲げる取扱い ア 第三者の生命、身体又は財産を保護するためやむを得ない場合その他の客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、福祉サービスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付すること。 イ 福祉サービスの利用に関する適切な相談及び支援が行われることなく、障害者の意思に反して、障害者支援施設(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)第5条第11項に規定する障害者支援施設をいう。)その他の福祉サービスを行う施設における生活を強制すること。 (2) 医療の分野における次に掲げる取扱い ア 第三者の生命、身体又は財産を保護するためやむを得ない場合その他の客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、医療の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付すること。 イ 他の法令に特別の定めがある場合を除き、障害者の意思に反して、入院その他の医療を受けることを強制し、又は自由な行動を制限すること。 (3) 教育、療育及び保育の分野における次に掲げる取扱い ア 客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、教育、療育若しくは保育を行うことを拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付すること。  イ 障害者若しくはその保護者(学校教育法(昭和22年法律第26号)第16条に規定する保護者をいい、同条に規定する保護者のない場合における里親(児童福祉法(昭和22年法律第164号)第27条第1項第3号の規定により委託を受けた里親をいい、里親のない場合における当該子女の監護及び教育をしている者を含む。)を含む。)の意見を聴かず、若しくは意思を尊重せず、又はこれらの者に必要な説明を行わずに、障害者が就学する学校(学校教育法第1条に規定する小学校、中学校、中等教育学校(前期課程に限る。)又は特別支援学校(小学部及び中学部に限る。)をいう。)を決定すること。 (4) 雇用の分野における次に掲げる取扱い ア 業務の性質上やむを得ない場合その他の客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、障害者の応募若しくは採用を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付すること。 イ 合理的配慮をしてもなお業務の遂行が困難な場合その他の客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、賃金、労働時間、配置、昇進、教育訓練、福利厚生その他の労働条件について障害者でない者と異なる不利益な取扱いをし、又は解雇若しくは退職を強制すること。 (5) 建物及び公共交通機関の分野における次に掲げる取扱い ア 建物の構造上やむを得ないと認められる場合その他の客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、不特定多数の者の利用に供される建物の利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付すること。 イ 旅客施設(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)第2条第5号に規定する旅客施設をいう。)又は車両等(同条第7号に規定する車両等をいう。)の構造上やむを得ないと認められる場合その他の客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、公共交通機関(交通機関の用に供する電車、バス、船舶、タクシー及び飛行機をいう。)の利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付すること。 (6) 情報の提供及び意思表示の受領の分野における次に掲げる取扱い ア 障害者から情報の提供を求められた場合において、当該情報の提供により他の者の権利利益を侵害するおそれがあると認められるときその他の客観的に合理的な理由があるときを除き、障害を理由として、当該情報の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付すること。 イ 障害者が意思を表示する場合において、その選択した意思表示の方法によっては当該意思を確認することに著しい支障があるときその他の客観的に合理的な理由があるときを除き、障害を理由として、当該意思表示の受領を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付すること。 (7) 商品の販売等及び不動産の売買等の分野における次に掲げる取扱い ア 客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、商品の販売若しくはサービス(福祉サービスを除く。)の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付すること。 イ 建物の構造上やむを得ないと認められる場合その他の客観的に合理的な理由がある場合を除き、障害を理由として、不動産の売買、賃貸、転貸若しくは賃借権の譲渡を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付すること。 【趣旨・解説】 第6条第2号の基本理念を具体化するため、市と事業者に対して、不当な差別的取扱いをすることによって、障害者の権利利益を侵害することを禁止しています。 本条各号は、不当な差別的取扱いの例示として規定しているため、これらに該当しない場合であっても不当な差別的取扱いに該当することはあり得ます。 なお、障害者に対して、やむを得ない場合、客観的な理由がある場合においては、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取り扱いが認められる場合があります。これについては、基本方針の「第2 行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項」の「2 不当な差別的取扱い (2)正当な理由の判断の視点」に記載してあります(資料編63ページ参照)。 第1号 ○ 「福祉サービス」には、障害福祉サービスをはじめ、児童福祉や高齢者福祉など様々なものがあり、この条例でも幅広く対象となります。また、「福祉サービス」に該当しないサービスについては、本条第7号アの対象となります。 ○ 「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「第三者の生命、身体又は財産を保護するためやむを得ない場合」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ 「障害者支援施設」とは、「障害者につき、施設入所支援を行うとともに、施設入所支援以外の施設障害福祉サービスを行う施設」のことをいいます。 ○ 「拒否、制限、条件を附する」の考え方については、基本方針の「第2 行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項」の「2 不当な差別的取扱い (1)不当な差別的取扱いの基本的な考え方」に記載してあります。 ○ 福祉サービスの分野における不当な差別的取扱いの例としては、次のようなケースが考えられます。  ・正当な理由なく、仮の利用期間を設けたり、他の利用者の同意を求めるなど、他の利用者と異なる条件を課す。 第2号 ○ 「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「第三者の生命、身体又は財産を保護するためやむを得ない場合」を規定しています。 ○ 「他の法令に特別の定めがある場合」とは、例えば、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」第29条に規定されている入院措置などが挙げられます。 ○ 医療の分野における不当な差別的取扱いの例としては、次のようなケースが考えられます。  ・正当な理由なく、保護者や支援者・介助者の同伴を診察・治療・調剤等の条件とする。 第3号 ○ 「療育」とは、障害児が医療的配慮のもとで育成されることを意味します。 ○ 「客観的に合理的な理由がある場合」とは、例えば、学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者である利用者に障害の状況等を確認することなどが考えられます。 ○ 「保護者」とは、「子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)」のことをいいます。「保護者」には、「里親」や「里親がいない場合に子どもを監護・教育する者」を含みます。 ○ 教育、療育及び保育の分野における不当な差別的取扱いの例としては、次のようなケースが考えられます。  ・正当な理由なく、入学(入所)出願、受験、入学(入所 )、授業等の受講や、研究指導、実習等校外教育活動、式典への参加などを拒否する。 第4号 ○ アの「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「業務の性質上やむを得ない場合」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ イの「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「合理的配慮をしてもなお業務の遂行が困難な場合」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ なお、雇用関係については、別に「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律第123号)があり、障害者に対する差別の禁止等についての規定も置かれています。雇用の分野における不当な差別的取扱いの相談については、ハローワーク等の窓口で受け付けるほか、福岡市の相談窓口でも受け付けています。 ○ 雇用の分野における不当な差別的取扱いの例としては、次のようなケースが考えられます。  ・職務遂行上運転免許証が必須ではないにもかかわらず、障害者のみを対象として、運転免許証を所持していることを採用条件とすること。 第5号 ○ アの「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「建物の構造上やむを得ないと認められる場合」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ イの「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「旅客施設又は車両等の構造上やむを得ないと認められる場合」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ 「旅客施設」とは、鉄道施設、バスターミナル、航空旅客ターミナル施設などの施設で、公共交通機関を利用する旅客の乗降、待合いその他の用に供するもののことをいいます。 ○ 「車両等」とは、公共交通事業者等が旅客の運送を行うためその事業の用に供する車両、自動車、船舶及び航空機のことをいいます。 ○ 建物および公共交通機関の分野における不当な差別的取扱いの例としては、次のようなケースが考えられます。  ・身体障害者補助犬の帯同を理由に乗車を拒否する。  ・障害があることを理由に、乗車を拒否する。 第6号 ○ アの「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「当該情報の提供により他の者の権利利益を侵害するおそれがあると認められるとき」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ イの「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「障害者の選択した意思表示の方法によっては当該意思を確認することに著しい支障があるとき」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ 情報の提供及び意思表示の受領の分野における不当な差別的取扱いの例としては、次のようなケースが考えられます。 ・障害者から窓口で情報の提供を求められたが、窓口が混雑していることを理由 に情報を提供しない。 ・本人を無視して、介助者や支援者、付き添いの人だけに話しかける。 第7号 ○ アの「客観的に合理的な理由がある場合」とは、例えば、映画館、劇場、コンサートホールなどで、障害特性のために大声をあげてしまう場合などが考えられます。 ○ イの「客観的に合理的な理由がある場合」の例として、「建物の構造上やむを得ないと認められる場合」を規定しています。該当するかどうかはそれぞれの事案に応じて個別具体的に判断されます。 ○ 商品の販売等及び不動産の売買等の分野における不当な差別的取扱いの例としては、次のようなケースが考えられます。  ・障害者向けの物件は扱っていないと門前払いする。 第8条(合理的配慮) (合理的配慮の提供) 第8条 市は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者及びその家族その他の関係者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、合理的配慮をしなければならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者及びその家族その他の関係者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、合理的配慮をするように努めなければならない。 【趣旨・解説】  第6条第2号の基本理念を具体化するため、合理的配慮の提供について、市に対しては法的義務を、事業者に対しては努力義務を課しています。  なお、事業者の合理的配慮の提供については、何をしなければならないのかが具体的場面等によって異なるため、努力義務としていますが、事業者にも積極的な役割が求められることは、前文や第4条に規定しているとおりです。 ○ 「合理的配慮」とは、比較的新しい概念であり、その考え方については基本方針の「第2 行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項」の「3 合理的配慮 (1)合理的配慮の基本的な考え方」に記載されています。合理的配慮は、それを受ける側に特別の優越的な地位を与えるようなものではなく、無理のない範囲で等しく平等な関係になるようにするためのものをいいます。 ○ 「合理的配慮」は、障害者等が利用することを想定して事前に実施される建築物のバリアフリー化などの事前的改善措置の状況など、その時々の状況により内容が変わります。 ○ 市民においても、第5条や第6条第3項を踏まえて、可能な限り合理的配慮を行っていくことが望まれます。 ○ 「その他の関係者」には、障害者の家族や支援者だけでなく、障害者の意思を代わりに伝えられる者を広く含みます。これは、下記のとおり、障害者等からの「意思の表明」を要件としていることとの関係で、合理的配慮を行うべき場面が不当に限定されてしまわないよう、「その他の関係者」を広く解釈することによりバランスをとるためのものです。 ○ 「意思の表明」には、言語(手話を含む。)だけでなく、筆談や身振り手振りなどが広く含まれます。 ○ 「意思の表明」を要件としているのは、具体的に誰がどのような社会的障壁の除去を必要としているかはっきりしない場合にまで、条例で合理的配慮を義務づけることは困難と考えられるためです。ただし、障害者等からの意思の表明がない場合でも、障害者の様子などから社会的障壁の除去が必要と考えられる場合には、自主的に適切な配慮を行うことが望ましいと考えられます。 ○ どのような場合に「実施に伴う負担が過重でないとき」といえるかについては、個別の事案ごとに、事業等の規模やその規模から見た負担の程度、財政状況、業務遂行に及ぼす影響といった要素を考慮し、具体的場面や状況を踏まえて判断することになります。   なお、国においては、所管事業ごとに主務大臣が「障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」を作成しており、過重な負担の考え方などが記載されています。 ○ 合理的配慮を行うことが難しい場合は、その理由や事情を障害者等に対して説明する必要があります。 ○ 合理的配慮の具体例は、次のとおりです。  ・行政機関などにおいて、書類記入の依頼時に、記入方法等を本人の目の前で示したり、わかりやすい記述で伝達したりする。  ・学校などにおいて、意思疎通のために絵や写真カード、ICT機器(タブレット端末等)等を活用する。  ・病院などにおいて、施設内放送を文字化したり、電光表示板で表示したりする。  ・交通機関において、券売機の利用が難しい場合、操作を手伝ったり、窓口で対応したりする。  ・不動産業において、物件案内時に携帯スロープを用意したり、車いすを押して案内したりする。  ・銀行などにおいて、取引、相談等の手段を、非対面の手段を含めて複数用意する。  ・小売店などにおいて、注文や問い合わせ等に際し、インターネット画面への入力によるものだけでなく電話等でも対応できるようにする。  ・飲食店などにおいて、メニューをわかりやすく説明したり、写真を活用したりする。 第4章 障害を理由とする差別を解消するための施策等 第1節 基本的な施策 第9条(啓発活動等) (啓発活動等) 第9条 市は、事業者及び市民の、障害、障害者及び障害を理由とする差別の解消に対する理解を深めるために必要な啓発活動を行うとともに、事業者が障害を理由とする差別の解消のための取組みを積極的に行うことができるよう、事業者に対し、情報の提供を行うものとする。 2 市長は、職員に対し、障害、障害者及び障害を理由とする差別の解消に対する理解を深めるための研修の機会を確保するものとする。 【趣旨・解説】 ○ 障害を理由とする差別をなくすための市の施策として、啓発活動や情報提供の実施について定めています。 ○ 「啓発活動」とは、例えば、出前講座を実施したり、パンフレットの配布やホームページの掲載などを行ったりすることで、この条例や障害者差別解消法の考え方を説明することなどが考えられます。 ○ 「情報の提供」とは、例えば、市の広報媒体を通じて合理的配慮の好事例を発信していくことなどが考えられますが、提供する情報の内容や手段は、推進会議で検討することになります。 ○ 「職員」とは、地方公務員法第3条第2項に規定する一般職に属するすべての職員をいい、具体的には、いわゆる一般行政職のほか、教員、消防職員、地方公営企業職員などが含まれます。 ○ 市の職員への研修については、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する福岡市職員対応要領」第8条でも規定しています(資料編102ページ参照)。この要領は、障害者差別解消法第10条第1項で、「地方公共団体の機関…は、基本方針に即して、第7条に規定する事項に関し、当該地方公共団体の機関…の職員が適切に対応するために必要な要領を定めるよう努めるものとする」とされているもので、福岡市でも、障害者差別解消法にあわせて平成28年4月から施行しています。 ○ 障害を理由とする差別が発生する背景には、障害や障害者に対する誤解・偏見・無理解等があります。これらを解消し、差別をなくすためには、研修とともに啓発活動が必要です。特に合理的配慮については新しい考え方であるため、市民や事業者の理解を深めるために、障害当事者も参加する啓発活動などを行っていくことなどが考えられます。  第10条(交流の推進) (交流の推進) 第10条 市は、障害者と障害者でない者の交流の推進に必要な施策を実施するものとする。   【趣旨・解説】 ○ 第6条第4号の基本理念を具体化するため、市が交流の推進に必要な施策を実施することとしています。 ○ 「交流の推進に必要な施策」とは、障害や障害者への理解を深めるため、例えば、毎年12月に実施している「障害者週間記念の集い」のようなイベントで、障害のある方とない方のステージ共演を実施したり、タウンミーティングのようなイベントで障害のある方とない方のグループディスカッションを実施したりするなど、様々な方法が考えられます。どのような方法が望ましいかについては、推進会議で様々な立場の委員から意見を聴きながら検討することになります。 ○ 子どもの時から障害への理解を根付かせるためのインクルーシブ教育の推進な ども重要です。  第11条(相談体制の充実) (相談体制の充実) 第11条 市は、第6条の基本理念にのっとり、障害を理由とする差別に関する相談に的確に応じるための体制の充実を図るものとする。 2 市は、前項の体制を整備するに当たっては、当該体制が次の各号のいずれにも該当するよう考慮するものとする。  (1) 相談をする人にとって身近に相談窓口があること。  (2) 障害及び障害者に関し専門的知識を有する者が相談を受けること。 【趣旨・解説】 ○ 第6条第5号では、「相手方の立場を踏まえた建設的な対話を行うことにより解決することを基本とする」という基本理念を規定しています。当事者同士の話し合いで解決できればよいのですが、必ずしも話し合いがうまくいくとは限りません。そのような場合に、当事者が安心して相談でき、建設的な対話を促してくれる機関が必要となります。第1項は、このような趣旨で規定しています。 ○ 差別を受けたという体験は、障害者やその家族等の心を深く傷つけ、他者に相談することには大きなハードルがあると考えられることから、身近に気軽に相談できる環境が必要です。また、相談を受ける人が障害や障害者に関して知識が乏しかったり、事業者等との間に立って調整する能力に乏しかったりすると、的確な対応をとることができません。このようなことから、第2項は、市が相談体制を整備するに当たっては、「身近さ」と「専門性」が両立するよう考慮するとしています。 ○ 相談窓口等の詳細については、「福岡市障害を理由とする差別に関する相談等に係る事務実施要綱」で定めています。 ○ 相談体制の充実のためには、相談に丁寧に対応し、たらいまわしにしない人的体制と研修を通じての相談員の人材づくりが必要です。相談員には、障害特性に配慮して相談を受ける技術や、差別をしたと主張する側と主張される側との間に立って調整する能力などが求められます。  第12条(表彰) (表彰) 第12条 市長は、合理的配慮をすることに関して功績のあった者に対し、表彰を行うことができる。 【趣旨・解説】 ○ 合理的配慮という考え方は、比較的新しい考え方であり、社会全体にこの考え方が浸透するには少し時間がかかると考えられます。第9条では、市が様々な啓発活動や情報提供をしていくことを規定していますが、これに加えて、合理的配慮に関して優れた取組みを行った事業者などを表彰することにより、その取組みの継続を後押ししていくとともに、合理的配慮の好事例を周知することで、合理的配慮の考え方を広く地域社会に浸透させていきたいという趣旨で規定しています。 ○ どのような場合に表彰の対象となるのかについては、「福岡市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例施行規則」(以下「施行規則」という。)第3条で定めています。また、選考に当たっては、幅広い見地から公正な選考となるよう、推進会議の意見を聴くことを予定しています。 第13条(財政上の措置) (財政上の措置) 第13条 市長は、障害を理由とする差別の解消に関する施策を実施するため、予算の範囲内において、必要な財政上の措置を講じるものとする。 【趣旨・解説】 ○ 第3条(市の責務)の規定を具体化するため、差別の解消に関する施策を実施するための必要な財政上の措置について規定しています。 ○ 「必要な財政上の措置」については、推進会議で様々な立場の委員から意見を聴きながら検討を行うことを予定しています。 第2節 障害を理由とする差別に関する相談等 第14条(相談) (相談) 第14条 障害者及びその家族その他の関係者又は事業者は、市に対し、障害を理由とする差別に関する相談をすることができる。 2 市は、前項の規定による相談(以下「個別相談」という。)を受けた場合は、必要に応じて次に掲げる対応を行うものとする。 (1) 必要な説明、情報の提供その他の障害を理由とする差別を解消するために必要な支援 (2) 個別相談に係る事案の関係者間の調整又はあっせん (3) 関係行政機関に対する通告、通報その他の通知 (4) 次条第1項の規定による申出をするために必要な支援 【趣旨・解説】 ○ 本条〜第19条では、相談に関する一連の流れを規定しています。 ○ 「相談」とは、福岡市内で発生した差別に関する相談をいいます。 ○ 第8条と同じく、「その他の関係者」には、障害者の家族や支援者、障害者のコミュニケーションを補佐できる者を広く含みます。 ○ 障害者やその家族、関係者だけでなく、事業者からも相談をすることができるとしています。これは、第6条第5号で「建設的な対話を行うことにより解決することを基本とする」と規定していることを踏まえ、紛争等の円滑な解決を望む事業者の側からも相談をすることができるようにすべきと考えたためです。 ○ 「市」には、市が委託した相談機関も含まれます。 ○ 「障害を理由とする差別に関する相談」には、障害を理由とする差別に関するあらゆる相談が含まれます。 ただし、一般私人間(隣人関係、家族関係など)の事案については、第2項第2号に規定する「調整・あっせん」、第15条に規定する「市長への申出」、第16条に規定する「指導・助言」の対象とはなりません。一般私人間の事案は、原則として私人間の話し合いで解決するのが望ましいと考えられるからです。 ○ 「障害を理由とする差別を解消するために必要な支援」には、条例の趣旨の説明、相談内容の解決に必要な事実確認、問題解決に向けた方向性の提示、他に適当な解決機関があればその機関の紹介などが含まれます。 ○ 「調整・あっせん」とは、第16条の「指導・助言」に至らない程度のものです。「指導・助言」は、いわゆる一般的なイメージの行政指導で、相手方に対しある行為をすること(しないこと)について任意の協力を求めるものです。 ○ 相談者が匿名を希望する場合、事実確認等が困難であるため、原則として「調整・あっせん」は行いません。 ○ 「関係行政機関」としては、例えば、法務局の人権擁護部署、労働局・労働基準監督署、障害者虐待防止センター、こども総合相談センター、発達教育センターなどが挙げられます。 第15条(市長への申出) (市長への申出) 第15条 個別相談をした障害者及びその家族その他の関係者は、前条第2項の対応により解決が図られない事案について、市長に対し、必要な措置を講じ、又は指導若しくは助言をするよう申出をすることができる。ただし、当該申出をすることが当該障害者の意思に反することが明らかであるときは、当該障害者の家族その他の関係者は、当該申出をすることができない。 2 市長は、前項の規定による申出があったときは、当該申出に係る事実について必要な調査を行うことができる。 3 第1項の規定による申出に係る事業者は、前項の調査が行われるときは、これに誠実に協力しなければならない。 4 市長は、第1項の規定による申出があったときは、処理の経過及び結果を当該申出をした者に通知するものとする。ただし、第17条の規定により当該申出に係る事案を福岡市障害者差別解消審査会に諮問したときその他特別の理由があるときは、この限りでない。 【趣旨・解説】 ○ 本条例は、第6条第5号に規定しているように、紛争が発生した場合でも当事者間の建設的な対話による解決を基本としていますので、第14条第2項の対応の段階で解決されることが望ましいといえます。しかし、当事者間の調整等を行ったにもかかわらず、解決が図られなかった場合、相談を行った障害者等は、次の段階として、市長に対し指導・助言等の申出をすることができます。 なお、第14条の解説で述べたとおり、一般私人間(隣人関係、家族関係など)の事案については、本条の対象とはなりません。 ○ 「必要な措置」とは、市が障害を理由とする差別を行った場合に、市が自ら行うべき是正措置のことをいいます。これに対し、「指導若しくは助言」とは、事業者が障害を理由とする差別を行った場合に、市が当該事業者に対して行う行政指導をいいます。 ○ 第14条の解説で述べたとおり、「障害者及びその家族その他の関係者」は広く解釈されますが、他方で、障害者本人の意思を無視して本条の申出がなされることがあってはならないため、第1項ただし書を規定しています。 ○ 「必要な調査」とは、例えば、当事者からのヒアリング、現地調査、当事者間の話合いの場への同席などが挙げられます。 ○ 第3項で、事業者には調査への協力義務を課していますので、例えば、正当な理由がないのにヒアリング調査を拒むといったことは許されません。 ○ 申出に対しては、処理の経過や結果を申出者に通知しますが、「福岡市障害者差別審査会」に諮問がなされた場合は、この審査会の会議が原則として非公開であることから、通知は行わないこととしています。それ以外の特別の理由がある場合も同様です。 ○ 申出の方式等については、施行規則第4条で詳細に定めています。申出は、原則として書面で行うこととしています。  第16条(指導又は助言等) (指導又は助言等) 第16条 市長は、前条第2項の調査の結果、前条第1項の規定による申出に相当の理由があると認めるときは、福岡市障害者差別解消推進会議の意見を聴いたうえで、必要な措置を講じ、又は指導若しくは助言をするものとする。 【趣旨・解説】 ○ 指導・助言等の申出があり、調査の結果、申出に相当の理由があると認めるときは、推進会議の意見を聴いた上で、必要な措置を講じたり、指導・助言を行っていくことになります。 ○ 推進会議は、いわゆる諮問機関ですので、その意見を市長は尊重することになります。 ○ 第14条の解説で述べたとおり、一般私人間(隣人関係、家族関係など)の事案については、本条の対象とはなりません。 第17条(審査会への諮問) (審査会への諮問) 第17条 市長は、前条の規定による指導又は助言(第7条の規定に違反することを理由としてなされたものに限る。)をした場合において、当該指導又は助言を受けた事業者(以下「特定事業者」という。)が正当な理由なく当該指導又は助言に従わないときは、福岡市障害者差別解消審査会に諮問することができる。 【趣旨・解説】 ○ 事業者が正当な理由なく指導・助言に従わない場合には、指導・助言の次の段階として、勧告を行うかどうかを検討する段階へと移ります。 ○ 勧告も行政指導の一種ですが、第19条に規定しているように、勧告がなされると最終的には公表という手段がとられる可能性があります。事業者にとって、勧告に従わないという理由で事業者名等が公表されることは、重大な影響が出てくる可能性がありますので、行政の恣意的な運用によって事業者側の利益が侵害されないように、慎重な手続きを踏む必要があります。そこで、第三者の目で適正なチェックを実施するため、「福岡市障害者差別解消審査会」という機関に諮問する(意見を聴く)ということにしています。 ○ 第16条の指導・助言については、不当な差別的取扱い(第7条)か合理的配慮の不提供(第8条)かを問わず対象となりますが、本条では、「(第7条の規定に違反することを理由としてなされたものに限る。)」として、不当な差別的取扱いに関する事案のみが諮問の対象となる旨を規定しています。合理的配慮の不提供の事案が対象となっていない理由は、事業者の合理的配慮の提供が法的義務ではなく努力義務となっているためです(第8条第2項)。すなわち、上記のとおり、勧告や公表という手段は、それを受けた事業者にとっては重大な影響が生じ得るものですが、努力義務であるものについてそのような効果を与えることは妥当でないことから、勧告の前提となる諮問の対象となる事案を不当な差別的取扱いの事案に限定しているものです。   なお、市が行った不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供の事案が対象となっていない理由は、市については第16条の「必要な措置を講じ」た段階で解決することが当然と考えられるためです。  第18条(勧告) (勧告) 第18条 市長は、次の各号のいずれかに該当する場合は、特定事業者に対し、障害者の権利利益を侵害しないための具体的な措置を示して勧告することができる。  (1) 福岡市障害者差別解消審査会が勧告の必要があると認めたとき。  (2) 特定事業者が正当な理由なく第30条の規定による出席の求めに応じず、又は虚偽の説明をし、若しくは資料を提出したとき。  (3) 特定事業者が指導又は助言に従わないことにより、障害を理由とする差別の解消の推進に支障が発生し、又は拡大するおそれがあり、これらを防止するため緊急の必要があると認めるとき。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、一定の要件を充たした場合には、市長が事業者に対し勧告をすることができる旨を規定しています。 ○ 「勧告」も行政指導の一種ですが、第17条に規定しているように、「指導・助言」に正当な理由なく従わないことが前提となっています。その上で、本条第1号から第3号に定める3つの要件のいずれかを充たす必要があります。   すなわち、@福岡市障害者差別解消審査会が勧告の必要があると認めたときはもちろんですが、A事業者が正当な理由なく審査会の求めに応じなかったり、虚偽の説明・資料提出を行ったりした場合も、悪質性が認められますので勧告の対象となります。また、@やAのような事情がない場合でも、緊急の必要性がある場合には審査会の判断等を待たずに直ちに勧告という手段がとれるよう、Bの要件を規定しています。 ○ 「勧告」の方式については、施行規則第5条で定めており、書面で行うこととしています。これは、第17条の解説で述べたように、勧告や公表という手段がとられると、事業者にとって重大な影響が出てくる可能性がありますので、書面という形式を求めることで慎重な手続きを踏むようにするためです。 第19条(公表) (公表) 第19条 市長は、前条の規定による勧告を受けた者が、正当な理由なく当該勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。 2 市長は、前項の規定による公表をしようとする場合には、あらかじめ、当該公表をされるべき者に対しその理由を通知し、意見を述べる機会を与えなければならない。 【趣旨・解説】 ○ 第1項は、勧告を受けた事業者が正当な理由なく勧告に従わないときに、その事実や事業者名などを市長が公表することができることを規定しています。この「公表」は、指導・助言や勧告などの行政指導について、正当な理由がないにもかかわらず事業者が従わない場合になされるものであることから、そのような事業者に対する社会的制裁という意味があるとともに、そのような事業者の存在を広く市民に情報提供するという意味があります。   なお、公表の方法等については、施行規則第6条で規定しており、ホームページへの掲載等によって行うこととしています。 ○ 第2項は、「公表」という手段をとる前に、意見陳述の機会を与えなければならないことを規定しています。本条の「公表」を含め、「指導・助言」や「勧告」などの行政指導は、いわゆる行政処分には該当しないため、福岡市行政手続条例に定める「聴聞」や「弁明の機会の付与」の対象とはなりません。しかし、第17条の解説で述べたように、公表という手段がとられると、事業者にとって重大な影響が出てくる可能性があります。そこで、第2項では、慎重な手続きを踏むことを目的として、事前に理由を通知することと意見を述べる機会を与えることを規定しています。   なお、意見陳述の方法については、施行規則第7条で規定しており、原則として書面で行うこととしています。 第5章 福岡市障害者差別解消推進会議 第20条(設置) (設置) 第20条 市長の附属機関として、福岡市障害者差別解消推進会議(以下「推進会議」という。)を置く。 2 推進会議は、法第17条第1項に規定する障害者差別解消支援地域協議会を兼ねるものとする。   【趣旨・解説】 ○ 本条は、福岡市に附属機関として推進会議を設置する旨を規定しています。 ○ 「附属機関」とは、行政機関に附置される機関のことで、調停、審査、諮問又は調査を行うためのものです。この条例では、2つの附属機関を設置することとしており、その1つが推進会議です。 ○ 「障害者差別解消支援地域協議会」とは、障害者差別解消法第17条第1項で、「当該地方公共団体の区域において関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、関係機関により構成される」機関と規定されているものです。   福岡市でも、障害者差別解消法の施行にあわせて、平成28年4月からこの協議会を設置していましたが、第2項で推進会議が障害者差別解消支援地域協議会を兼ねると規定したため、現在は障害者差別解消支援地域協議会という名称の機関はなくなっています。 第21条(所掌事務) (所掌事務) 第21条 推進会議は、次に掲げる事務を行う。 (1) 障害を理由とする差別の解消に関し必要と認められる事項について調査審議すること。 (2) 法第18条第1項に規定する事務 (3) 第16条の規定に基づき、市長から意見を求められた事案について、意見を述べること(市が第7条又は第8条第1項の規定に違反した場合にその事実を公表することを求めることを含む。)。  (4) 前3号に掲げるもののほか、障害を理由とする差別を解消するために必要な事務 2 推進会議は、障害を理由とする差別の解消に関する重要な施策に関し、市長に対し、意見を述べることができる。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、推進会議の所掌事務を規定しています。 ○ 第2号の「法第18条第1項に規定する事務」とは、関係機関との情報共有など、障害者差別解消法に規定する障害者差別解消支援地域協議会の事務のことをいいます。具体的には、以下のとおりです。 @複数の機関等によって紛争の防止や解決を図る事案の共有 A関係機関等が対応した相談事例の共有 B障害者差別に関する相談体制の整備 C障害者差別の解消に資する取組みの共有・分析 D構成機関等におけるあっせん・調整等の様々な取組みによる紛争解決の後押し E障害者差別の解消に資する取組みの周知・発信や障害特性の理解のための研修・啓発 ○ 第3号では、第16条で「福岡市障害者差別解消推進会議の意見を聴いたうえで」と規定していることから、市長から指導・助言を行うべきかどうかの意見を求められた場合に意見を述べる旨を規定しています。 ○ 第3号かっこ書きは、上記の「意見」に、市が障害を理由とする差別を行った事実を公表することを求めることが含まれる旨を規定しています。すなわち、第17条の解説で述べたように、仮に市が障害を理由とする差別を行った場合、第16条の「必要な措置を講じ」た段階で解決することが当然であり、そこで解決しないことはそもそも想定されないため、この条例上、(事業者とは異なり)勧告や公表という手続には進まないこととなっています。しかし、それでは、市が極めて悪質な差別を行ったような場合に、最終的に事業者名などが公表される事業者とのバランスを欠くため、推進会議から市に対し、「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の不提供」を行った事実の公表を求めることができる旨を規定しています。 ○ 「福岡市障害者差別解消推進会議運営要領」第3条において、「推進会議は、部会の決議をもって、推進会議の決議とすることができる」としており、第3号に関する事項は、実際上は「福岡市障害者差別解消推進会議相談部会」(以下「相談部会」という。)の所掌事務となっています。 ○ 第4号では、第1号から第3号までに該当しないものであっても、「障害を理由とする差別を解消するために必要な事務」であれば、推進会議の所掌事務となることを規定しています。具体的には、施行規則第1条で定めており、@障害を理由とする差別を解消するための取組みを担う人材の育成について検討すること、A合理的配慮をすることに関して功績のあった者に対する表彰について検討すること、Bこの条例の規定について検討することがこれに当たります。 ○ 第2項では、第1項第3号のように、市長から意見を求められた事案以外でも、障害を理由とする差別の解消に関する重要な施策については、市長に対し意見を述べることができる旨を規定しています。 第22条(組織及び委員) (組織及び委員) 第22条 推進会議は、委員30人以内をもって組織する。 2 委員は、障害者並びに福祉、医療、教育、雇用その他障害者の権利の擁護について優れた識見及び実務経験を有する者のうちから、市長が任命する。 3 委員は、職務上知ることができた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また同様とする。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、推進会議の組織と委員について規定しています。 ○ 第1項で、推進会議の委員数は30人以内と規定していますが、令和2年3月現在、委員数は22人となっています。 ○ 第2項では、委員の任命について規定しています。推進会議は、障害を理由とする差別を解消するための施策等について、障害当事者をはじめとして様々な立場の方から幅広く意見を聴くことを目的としているため、「障害者」や「障害者の権利の擁護について優れた識見及び実務経験を有する者」のうちから委員を任命することとしています。   また、上記の目的を実効化するため、施行規則第8条第1項では、「推進会議の委員の任命に当たっては、推進会議の委員の構成が、障害を理由とする差別の解消に関する多様な意見が適切に反映されるものとなるよう配慮する」こととしています。 ○ 第3項では、委員の秘密保持義務について規定しています。推進会議では、障害を理由とする差別に関連して、個人のプライバシーや事業者の営業秘密等の情報を知ることがあり得るため、委員に対し秘密保持義務を課しています。また、秘密保持義務違反については、この条例の第32条で罰則を科しています。  第23条(部会) (部会) 第23条 推進会議は、必要に応じて、部会を置くことができる。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、推進会議に部会を置くことができる旨を規定するものです。 ○ 令和2年3月現在、推進会議の部会としては、個別相談について問題解決に向けた分析や助言を行うことなどを目的とする相談部会を設置しています。相談部会の所掌事務などの詳細については、「福岡市障害者差別解消推進会議運営要領」で規定しています。  第24条(参考人の出席) (参考人の出席) 第24条 推進会議は、必要があると認めるときは、会議に参考人の出席を求め、意見を聴くことができる。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、推進会議が必要と判断した場合に、その会議に参考人の出席を求め、意見を聴くことができる旨を規定するものです。具体的な手続については、「福岡市障害者差別解消推進会議運営要領」第6条で規定しています。 ○ 「参考人」には、個別相談の関係者が含まれるのはもちろんですが、個別相談の関係者以外でも、推進会議の所掌事務を遂行するに当たって必要な範囲であれば、広く「参考人」に含まれます。  第25条(推進会議への委任) (推進会議への委任) 第25条 この章及び第33条の規定に基づく規則に定めるもののほか、推進会議の運営に関し必要な事項は、推進会議が定める。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、この条例や施行規則で定める事項以外の、推進会議の運営に関し必要な事項については、推進会議自身が定める旨を規定しています。これを受けて、推進会議は、「福岡市障害者差別解消推進会議運営要領」を定めています。 第6章 福岡市障害者差別解消審査会   第26条(設置) (設置) 第26条 市長の附属機関として、福岡市障害者差別解消審査会(以下「審査会」という。)を置く。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、福岡市に附属機関として「福岡市障害者差別解消審査会」(以下「審査会」という。)を設置する旨を規定しています。 ○ 「附属機関」とは、行政機関に附置される機関のことで、調停、審査、諮問又は調査を行うためのものです。この条例では、2つの附属機関を設置することとしており、その1つが審査会です。  第27条(所掌事務) (所掌事務) 第27条 審査会は、第17条の規定による諮問に応じ、当該諮問に係る事案について調査審議を行う。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、審査会の所掌事務を規定しています。審査会の詳細については、「福岡市障害者差別解消審査会運営要領」で規定しています。 ○ 審査会の所掌事務は1つだけで、「第17条の規定による諮問に応じ、当該諮問に係る事案について調査審議を行う」ことです。「第17条の規定による諮問」とは、指導・助言を受けた事業者が、正当な理由なく指導・助言に従わない場合に、市長が審査会に対し、当該事業者への勧告を行うべきかどうかの意見を求めるものです。  第28条(組織及び委員) (組織及び委員) 第28条 審査会は、委員5人以内をもって組織する。 2 委員は、障害者並びに審査会の権限に属する事項に関し公正な判断をすることができ、かつ、法律、行政又は障害者の権利の擁護について優れた識見及び実務経験を有する者のうちから、市長が任命する。 3 第22条第3項の規定は、審査会の委員について準用する。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、審査会の組織と委員について規定しています。 ○ 第1項で、審査会の委員数は5人以内と規定していますが、令和2年3月現在、委員数は4人となっています。 ○ 第2項では、委員の任命について規定しています。審査会は、事業者に重大な影響を生じさせかねない勧告という手段をとるべきかどうかについて、専門的な見地から第三者の意見を聴くことを目的としているため、「障害者」や「審査会の権限に属する事項に関し公正な判断をすることができ、かつ、法律、行政又は障害者の権利の擁護について優れた識見及び実務経験を有する者」のうちから委員を任命することとしています。   また、施行規則第11条では、同規則第8条を準用しており、「審査会の委員の任命に当たっては、審査会の委員の構成が、障害を理由とする差別の解消に関する多様な意見が適切に反映されるものとなるよう配慮する」こととなっています。 ○ 第3項では、第22条第3項を準用しており、委員の秘密保持義務について推進会議の委員と同様の規定となっています。 第29条(専門委員) (専門委員) 第29条 審査会に、専門の事項を調査させるため、専門委員を置くことができる。 2 専門委員は、障害者の権利の擁護その他の専門の事項に関し優れた識見及び実務経験を有する者のうちから、市長が任命する。 3 専門委員は、当該専門の事項に関する調査が終了したときは、解任されるものとする。 4 第22条第3項の規定は、専門委員について準用する。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、審査会に専門委員を置くことができること、専門委員の任命、解任及び専門委員の秘密保持義務について規定しています。 ○ 審査会の委員には、法律、行政又は障害者の権利擁護に関する有識者等が任命されていますが、すべての案件についての専門分野を少数の委員でカバーすることは困難と考えられます。そこで、必要に応じ、専門的知識を有する者を調査審議に活用するため、専門委員を置くことができるようにしています。 ○ 第2項は、専門委員の任命について規定しています。「障害者の権利の擁護」というのは例示で、「専門の事項に関し優れた識見及び実務経験を有する者」のうちから委員を任命することとしています。なお、専門委員の数の上限については定めていません。 ○ 第3項は、専門委員の解任について規定しています。専門委員は、審査会が調査審議を行うに当たり、専門的知識を有する者を臨時的に活用するものですので、任期は定めておらず、その者の任命に係る当該専門の事項に関する調査が終了したときは、解任されることとしています。 ○ 第4項は、専門委員の秘密保持義務についての規定です。専門委員についても、個人のプライバシーや事業者の営業秘密等の情報を漏らしてはならないことは当然ですので、推進会議の委員の秘密保持義務についての規定(第22条第3項)を準用しています。  第30条(参考人の出席等) (参考人の出席等) 第30条 審査会は、必要があると認めるときは、会議に参考人の出席を求め、説明若しくは意見を聴き、又は資料の提出を求めることができる。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、審査会が必要と判断した場合に、その会議に参考人の出席を求めて意見を聴いたり、資料の提出を求めたりすることができる旨を規定するものです。 ○ 「参考人」には、個別相談の関係者が含まれるのはもちろんですが、個別相談の関係者以外でも、推進会議の所掌事務を遂行するに当たって必要な範囲であれば、広く「参考人」に含まれます。  第31条(審査会への委任) (審査会への委任) 第31条 この章及び第33条の規定に基づく規則に定めるもののほか、審査会の運営に関し必要な事項は、審査会が定める。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、この条例や施行規則で定める事項以外の、審査会の運営に関し必要な事項については、審査会自身が定める旨を規定しています。これを受けて、審査会は、「福岡市障害者差別解消審査会運営要領」を定めています。 第7章 雑則  第32条(罰則)  (罰則) 第32条 第22条第3項(第28条第3項及び第29条第4項において準用する場合を含む。)の規定に違反して秘密を漏らした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、推進会議の委員、審査会の委員及び専門委員の秘密保持義務違反に対する罰則を定めています。 ○ 本条の罰則は、障害者差別解消法第25条に規定する障害者差別解消支援地域協議会の構成員の秘密保持義務違反に対する罰則と同じものとしています。  第33条(規則への委任)  (規則への委任) 第33条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。 【趣旨・解説】 ○ 本条は、この条例の施行のために必要な事項について、規則で定めることを規定しています。これを受けて、施行規則を制定しています。 附則    附 則  (施行期日) 1 この条例は、平成31年1月1日から施行する。  (準備行為) 2 市は、この条例の施行の日(以下「施行日」という。)前においても、第11条の規定の例により、障害を理由とする差別に関する相談体制を整備することができる。 3 市長は、施行日前においても、第5章の規定の例により、推進会議の委員の任命並びに組織及び運営に関し必要な行為をすることができる。 4 市長は、施行日前においても、第6章の規定の例により、審査会の委員の任命並びに組織及び運営に関し必要な行為をすることができる。  (検討) 5 市は、この条例の施行後3年を経過した場合において、この条例の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づき必要な措置を講じるものとする。 【趣旨・解説】 ○ 附則第1項では、この条例の施行期日を規定しています。 ○ 附則第2項から第4項では、準備行為として、この条例の施行日前でも行うことができる行為を規定しています。第2項が相談体制の整備、第3項が推進会議の委員の任命や組織等に関し必要な行為、第4項が審査会の委員の任命や組織等に関し必要な行為です。 ○ 附則第5項では、この条例の施行状況の検討を踏まえた規定の見直しについて規定しています。   条例の施行状況を踏まえた見直しを行うためには、ある程度の期間の運用実績の蓄積を待つ必要があるため、この条例の施行後3年を経過した場合に見直しの検討を行うことにしています。 この条例の検討段階においては、「市や事業者だけでなくすべての人に差別を禁止する旨を規定すべきだ。」、「事業者の合理的配慮を努力義務ではなく法的義務とすべきだ。」、「地域での障害を理由とする差別の実態を調査し、第7条各号に規定する項目の一つとして、地域での取扱いを盛り込むことを検討すべきだ。」といった意見などがありました。見直しの検討においては、これらの意見をはじめとして、3年間の運用実績を勘案して見直しが必要と考えられる事項を抽出し、推進会議等で検討していく必要があると考えられます。