資料3 医療的ケアを要する障がい児のレスパイト施策等の提言(案) 平成29年11月 福岡市障がい者等地域生活支援協議会 こども部会 目 次 1.はじめに 1ページ 2.医療的ケア児を支援するための既存資源の現状と課題の洗い出し  3ページ (1)福岡市の医療的ケア児の支援に関するレスパイト等の施策  (2)それぞれの施策の既存資源の現状と課題 (3)NICU入院時から在宅生活に至るまでの医療的ケア児に係る支援の現状と課題について 3.平成29年度以降の県・市の施策  8ページ (1)小児慢性特定疾病児童等レスパイト入院事業 (2)相談支援体制の見直し (3)地域生活支援拠点等整備 (4)医療型短期入所先へのコミュニケーション支援員の派遣 (5)長時間の訪問看護による自宅でのレスパイト (6)入院時コミュニケーション事業の単身者以外への拡大 4.課題解決のための具体的な提案  9ページ (1)宿泊を伴うレスパイト (2)コーディネーターの必要性 (3)中核病院における医療型短期入所実施 (4)「こどもレスパイトセンター」(仮称)の設置 5.課題解決に向けた事業所等の取り組み  12ページ (1)宿泊を伴うレスパイト (2)日中のレスパイト (3)相談支援 6.課題解決に向けて福岡市が支援すべきこと  14ページ (1)宿泊を伴うレスパイト (2)日中のレスパイト (3)相談支援 7.まとめ 16ページ 検討体制等 17ページ 1 はじめに 昨今、医療と医療機器の進歩により、人工呼吸器を始めとする様々な医療機器を自宅に持ち帰り、家族が医療的ケアを行いながら在宅生活をしている重症心身障害児が全国的に増えている。重症心身障害児とは重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した状態をいい、児童福祉法上の定義である。その判断基準は明示されていないが、一般的には「大島の分類」で判定される(「日本重症児福祉協会」社会保障審議会障害者部会ヒアリング資料(2008.8.20)参照。)また、従来の重症心身障害児だけでなく、運動や知的な遅れが重度ではないが、何らかの医療的ケアが必要なこどもも増えてきている。  平成28年度災害に備えた在宅人工呼吸器使用患者実態調査(調査基準日(H28.11.1)、県内の訪問看護ステーションが訪問看護を行っている患者のうち、気管切開による人工呼吸器使用患者または24時間の鼻マスク式人工呼吸器使用患者を対象に、調査に同意した人からの回答によるもの。有効回答84.8%)によると、福岡市で24時間人工呼吸器を装用している18歳未満児は18人、そのうち10歳未満児は14人となっている。また、そこまで重症ではないが、睡眠時のみ人工呼吸器装用、気管切開、在宅酸素、経管栄養、胃瘻、導尿なども含め様々な医療的ケアを必要とする児童は年々増えており、市内における児童の医療型短期入所の支給決定者数は26年度末190人、27年度末199人、28年度末204人となっており、増加傾向にある。 医療的ケア児(以下「医療的ケア児」という。)は在宅診療や訪問看護などの医療サービスで健康管理や医療的ケアを行っているが、24時間看護や介護が必要なため、家族の介護負担が大きく、医療的ケアができるヘルパーや医療型特定短期入所(日帰り預かり)などを利用しながら生活している家庭も少しずつ増えてきている。しかしながら、医療的ケアができるサービスの需要に対する供給が不足している上、サービスは主に昼間に提供されるため、介護者は慢性的な睡眠不足や過労になっており「月に1回でも良いのでゆっくり眠りたい。」との声が聴かれる。外出の際も様々な医療機器を持参して出かけるため、準備や道中など大きな負担がある。 そのうえ、小児の地域支援の特徴としては、医療、福祉、教育にまたがるさまざまな制度や法律が絡み合う非常に複雑な構造になっており、それらを相互に連携するための仕組みづくりが遅れている状況である。担い手となる医師の不足や、医療と福祉の連携とコーディネーターの未整備などが課題の一部として挙げられている。 また、医療的ケア児を育てている家庭に必要な、宿泊を伴う預け先や日中活動の場、在宅サービスなどの社会資源をコーディネートする相談支援の役割も重要である。 福岡市障がい者等地域生活支援協議会(以下「協議会」という。)では、地域課題のひとつとして、医療的ケア児の預け先がないなどの事例が複数上がって来ており、障がい児に重点をおいた協議、連携の場が欲しいとの意見が出されている。また、福岡県小児等在宅医療推進事業における取組みの中においても、医療的ケア児に関する医療、福祉、教育のさらなる連携のため、当該事業を実施する医療機関の協議会への参加が要請されている。  平成28年6月3日に改正された児童福祉法においても、障がい児支援のニーズの多様化へのきめ細かな対応のため、医療的ケア児について「人工呼吸器を装着している障害児その他の日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児」との定義を定めるとともに、「医療的ケア児が適切な支援を受けられるよう、自治体において保健・医療・福祉等の連携促進に努めるものとする」ことが定められた。 このような背景を踏まえ、医療的ケア児への適切な支援をはじめ、障がい児にかかる保健、医療、福祉、教育等の行政機関や事業所等の継続的な意見交換や情報共有を図る場として「福岡市障がい者等地域生活支援協議会こども部会(以下「こども部会」という。)を設置し、レスパイト施策を中心とした障がい児福祉施策の課題に関する事項を協議するとともに、関係機関のネットワークづくりを行い、連携の緊密化に努めることとした。 こども部会では、相談支援事業所、福祉事業所職員や医療関係者を中心に平成28年12月から平成29年7月の間に計8回の協議を行い、 (1)医療的ケア児を支援するための既存資源と課題の洗い出し (2)課題解決に向けて事業所として取り組めること (3)課題解決に向けて福岡市が支援すべきこと について検討を行ってきた。 協議会からこども部会に示された協議の方向性は、レスパイト施策を中心とした障がい児福祉施策の課題に関する事項を協議することであったが、部会では、主として重度(濃厚な医療的ケアを要し、医療的判断が多く必要でADLの低い)の医療的ケア児に対するレスパイトに関する専門施策(短期入所等)の議論を行い、その中で、日中活動一般や相談支援に関する課題も並行して協議した。 今回は、その検討結果を取りまとめ、提言として提出するものである。 2.医療的ケア児を支援するための既存資源の現状と課題の洗い出し (1)福岡市の医療的ケア児の支援に関するレスパイト等の施策  福岡市の医療的ケア児の支援に関する既存のレスパイト等の施策を下記のとおり整理する。 ・福岡市の医療的ケア児の支援に関するレスパイト等の施策 宿泊を伴うレスパイト  医療型短期入所 福祉型短期入所 日中のレスパイト  医療型特定短期入所  日中一時支援  (未就学児)医療型児童発達支援,児童発達支援  (学齢児)放課後等デイサービス,特別支援学校放課後等支援事業       居宅介護、訪問看護、訪問診療 相談支援  障がい児相談支援・特定相談支援 (2) それぞれの施策の既存資源の現状と課題 @ 宿泊を伴うレスパイト 現状 1.医療型短期入所 ・医療的ケア児を対象とし,実際に受け入れ実績のある事業所は、市内に1か所のみで、空床利用型のため定員に空きがなく新規での受け入れができない状況である。 ・市内施設は年齢制限があり、1歳未満となると受け入れできる事業所がない。 ・市外施設を利用する際、利用の前にお試し利用が必要で、遠隔地まで連れて行くことが困難な状況である。 ・医療的ケア児はケア方法に個別性が高いため、短期入所先が普段の医療的ケア児の様子を知らないと適切な対応が難しいが、医療的ケアの伝達が保護者のみからでは不十分なことがある。 2.福祉型短期入所 ・報酬単価が低いことから医療的ケア児の受け入れに難色を示す事業所が多い。 3.共通 ・事業所が、利用者の容体が急変するリスクを恐れたり、報酬が低い等の問題で受け入れおよび事業所数が増えていかない。 ・緊急時の利用については、どこの事業所も計画的なレスパイトの受け入れで埋まっており、受け入れ調整は困難を極めている。 課題 1.医療型短期入所 ・医療的ケア児に対応可能な医療型短期入所事業所の増加が必要。 ・日頃から関わる支援者を医療型短期入所事業所に派遣し、支援方法の伝達等を行う仕組みが必要。 2.福祉型短期入所 ・福祉型短期入所で医療的ケア児を受け入れた場合でも事業運営を可能とするための報酬体系などの仕組みが必要。 3.その他 ・医療機関において、レスパイトを目的とした入院も受け入れる仕組みが必要。 A 日中のレスパイト 現状 1.医療型特定短期入所 ・市内2か所の事業所で実施しているが、定員はどちらも一杯で預かれる日数が限られている。また、支援者の人員確保が困難であり、現状以上の受け入れが困難な状況である。 2.日中一時支援 ・看護師確保などの体制上の理由により受け入れが不十分な状況があり、人工呼吸器を常時装用している等の医療的ケア児は受け入れできないところが多い。 3.児童発達支援や放課後等デイサービス ・本来、療育目的の通園が、医療的ケア児を24時間介護し続けている介護者が日中に預けることで結果的にレスパイトとなっている現実がある。 ・医療的ケア児の受け入れを行っている事業所が少ない。 4.居宅介護や訪問看護 ・本来の目的はレスパイトではないが、特に外出が困難な重度の医療的ケア児を24時間介護している介護者にとっては、サービス利用中に、介護者が利用者と離れることができレスパイトが図れている現実がある。 ・居宅介護の未就学児の利用は特例となるため、申請に時間がかかってお り、スムーズなサービス利用につながっておらず、実際に医療的ケア児 に対応できる事業所も少ない。 ・ 訪問看護は1回あたり90分間の利用しかできず、長時間の派遣ができ ない。また、小児対象事業所が増えてきているものの、90分以内の報酬は変わらないため(30分でも90分でも報酬は同じ)、支援に時間も手間もかかる医療的ケア児を受け入れようとする事業所が少ない。 5.訪問診療 医療的ケア児を診療する小児科が少ない。 課題 1.医療型特定短期入所や日中一時支援 ・医療的ケア児に対応可能な事業所の増加と看護師等の人員確保や人材育成に対する支援が必要。 2.児童発達支援や放課後等デイサービス等 ・医療的ケア児の受け入れが可能となるよう、人員確保や人材育成の支援策が必要。 3.居宅介護や訪問看護 ・医療的ケア児の介護者のレスパイトを目的として利用できる仕組みが必要。   C.訪問診療 ・医療的ケア児を診療する小児科医の確保が必要。 B 相談支援 現状 ・障がい児の相談支援については、児童発達支援センターの相談支援事業所が未就学児を、障がい児相談支援事業所が学齢児を対象に、支援を行っている。 ・医療的ケア児の対応にあたっては、様々な医療的知識や社会資源の熟知と高度な専門性が必要であるが、適切な支援計画を作成できる相談支援専門員が少ない。 ・NICU退院前の、病院の地域医療連携室と児童発達支援センターや障がい児相談支援事業所との連携がうまくいかず、日程的に退院後の支援の調整が困難な場合がある。 ・サービス導入に当たって、利用の前提となる手帳がすぐに下りない、こどもの体調が安定せず入退院を繰り返す、保護者の障がい受容の問題等により、調整に時間がかかり十分対応できていない面もある。 課題 ・人員や体制の確保と研修等による医療の専門知識の向上及び訪問看護等の医療職との連携が必要である。 ・NICU入院時からの継続した支援ができるよう、医療、福祉、行政の連携体制の構築が必要である (3)NICU入院時から在宅生活に至るまでの医療的ケア児に係る支援の現状と課題について 医療的ケア児が実際に、NICU入院時から在宅生活に至るまでにどのような支援が行われているか、必要な支援、現状、課題を提示するもの。 医療的ケア児のNICU入院時から在宅生活までの必要な支援と現状 時期  NICU入院時〜入院中 必要な支援  ・家族の心理的サポート(こどもの状態についての正しい理解やどのように感じているか、今後どのように生活していきたいか、家族構成や協力者の有無など家族からしっかり話を聞きとり、不安軽減に努める)  ・在宅生活へのイメージづくり  ・本人の支援体制の検討 現状  ・主に病院の医療連携室が支援。  ・NICUでは付添をしないので、医療的ケアをしながら生活するイメージがわきにくい。母子入院で経験をするが、期間が短く、外泊の経験も少ないため自宅に帰ってからの生活に戸惑うことが多い。 時期  NICU退院検討時 必要な支援  ・退院後の在宅での生活についての情報提供  ・家族の不安軽減  ・本人の支援体制の検討 現状  ・医療関係者しか入っていない場合が多く、福祉サービスを含めた在宅での生活についての情報提供が不十分。 時期  在宅生活 必要な支援  ・実際のサービスの利用の調整、各関係機関への働きかけ 現状  ・手帳を持っていなければ、訪問看護事業所がメインで支援し、手帳が取れてから相談支援事業所が支援。 ・バギーや人工呼吸器等の在宅生活で必要な器具の準備が完了する前に退院している。 課題 ・現状では、こどもの置かれている場や成長に伴う状況に合わせてコーディネーター役(地域連携室・相談支援専門員など)が変わっていくため、家族の不安軽減等心理的サポートを第一とし、医療と福祉を連携させチームとして一貫して支援するコーディネーターが必要。 ・家族が退院後の生活を想像しやすくするよう、医療職だけではなく福祉職も含めた退院時の手厚い支援が必要。 ・退院直後からはじめて支援に入るとなると、親の不安の軽減や払拭が難しくなることから、入院中のできる限り早い段階での寄り添う支援が必要。 ・手帳を持っていない場合でも、福祉と連携していける窓口が必要。 ・計画相談支援事業所は報酬が少なく、事業運営上、積極的に支援に入れない現状があるため、報酬体系の改善が必要。 ・訪問療育や訪問リハビリ等の直接支援により、家族と支援者の関係を構築しやくする支援体制の改善が必要。 3.平成29年度以降の県・市の施策 平成29年度以降の医療的ケア児に関する県・市の施策 2に掲げる課題の解決策を提案する前提として、平成29年度以降の医療的ケア児に関する県及び市の施策を以下に述べる。 (1) 小児慢性特定疾病児童等レスパイト入院事業 人工呼吸器装着等の医療的ケアを必要とする小児慢性特定疾病児童を対象に、一時預かりを医療機関に委託して実施。 (2) 相談支援体制の見直し これまでは障がい種別ごとに相談支援センターを設置していたが、平成29年4月より市内14か所に全障がい一元化し、学齢以上の障がい児・者に対応する24時間対応可能な区障がい者基幹相談支援センターを設置する。 ※ 一次相談窓口として相談を受付け、適切な関係機関に繋ぐ役割。 (3) 地域生活支援拠点等整備 短期入所の空床確保により緊急時の受け入れ・対応を行う拠点を「重度身体障がい者(医療的ケア含む)」「強度行動障がい」「虐待・その他緊急対応」の受け入れ対象の類型別に市内に1か所以上整備し、緊急時の受け入れ調整や事前登録などを行う緊急対応コーディネーターを配置する。 ※ 上記「重度身体障がい者(医療的ケア含む)」では、福祉型短期入所で受け入れ可能な医療的ケア(介護職員が喀痰吸引等の研修を受けることで実施可能な、たんの吸引・経管栄養等)の方を想定。 (4) 医療型短期入所先へのコミュニケーション支援員の派遣 地域生活支援拠点等の緊急対応コーディネーターが調整を行い、真に必要な対象者について、医療型短期入所事業所に、普段利用している居宅介護事業所の職員等を派遣し、医療的ケアの伝達等を行う。 (5) 長時間の訪問看護による自宅でのレスパイト 地域生活支援拠点等の緊急対応コーディネーターが調整を行い、真に必要な対象者について、自宅へ看護師を派遣し、短期入所の利用が困難な障がい児・者の介護者のレスパイトを図る。 ※ 既存の、医師の指示による診療報酬で行う訪問看護ではなく新たなサービスとして実施予定。 (6) 入院時コミュニケーション事業の単身者以外への拡大 現在、単身者またはそれに準ずる世帯に属する者に限定している標記事業について、家族のレスパイトを図る観点から、対象者を拡大する。これにより、医療的ケア児が本事業の対象となる。 4.課題解決のための具体的な提案 2で洗い出された課題について、3の施策を踏まえて、解決に向けた具体的な取り組みを次のとおり提案する。本項の提案より事業所の取り組みや市に対する支援すべきことの推進を求めるもの。 (1) 宿泊を伴うレスパイト 2の課題で明らかになったように、宿泊を伴うレスパイトの資源は不足している。医療的ケア児と重度の医療的ケア児について緊急時(介護者の急病や事故等で緊急的に預かる場合)の利用と計画的な利用に分けて下記のとおり整理し、提案を行う。 特に、重度の医療的ケア児は本人の状態に慣れた支援者でなければ対応困難である現状を踏まえ、提案を行うもの。 緊急時の利用 重度の医療的ケア児・医療的ケア児 【提案A】 医療的ケア児の普段の様子を知らない、大学病院等の医療機関に、コミュニケーション支援員を派遣し、宿泊を伴うサービスを実施する。 計画的な利用 重度の医療的ケア児 【提案B】 訪問看護ステーション、訪問による介護事業所等の在宅の様子を理解している者が、他事業者の空いているスペースを間借りして宿泊を伴うサービスを実施する。 医療的ケア児 【提案C】 既存の短期入所施設、空きベッドのある医療機関に、コミュニケーション支援員を派遣し、宿泊を伴うサービスを実施する。 提案Aについて  大学病院等の医療機関が、必要に応じて、利用者が普段使っているヘルパー等をコミュニケーション支援員として活用しながら緊急時に利用者を受け入れる。  緊急時の利用は、小規模な事業所では対応が困難である場合が多いため、大学病院等の規模の大きな医療機関であることが望ましいと考えられる。 利用者及び家族からすると、医療的ケア児の普段の様子を知らない医療機関での宿泊には大きな不安が伴うため、普段の様子をよく知るコミュニケーション支援員が支援に入り、支援方法の伝達などにより医療機関が円滑に受け入れできる体制を作る。 なお、病院での受け入れは医療評価入院での入院や医療型短期入所での受け入れが想定される。 提案Bについて  訪問看護ステーション、居宅介護事業所等の在宅の様子を理解している者が、他事業者の空いているスペースを間借りして宿泊を伴うサービスを実施する。  本人の普段の様子がわかっている事業所が運営することで利用者の不安を軽減し、また、事業所も普段の様子がわかっているため、急変するリスクを抑えることができ、双方にメリットがある。 以下、二つの事業モデルを提案する。(T事業所は施設を保有 U、V事業所は未保有) @T事業所が宿泊サービスを提供する事業所として指定を受ける。 T事業所にU事業所が人員を派遣し、T・U事業所が共同で事業を実施する。 AU事業所が宿泊サービスを提供する事業所として指定を受ける。V事業所がU事業所に人員を派遣し共同で事業を実施する。T事業所にはU事業所から家賃を支払う。また、必要に応じてT事業所からもU事業所に人員を派遣する。 このような仕組みにすることで、児童が活用する施設基準の厳しい施設を持たなくても、事業所が関わっている重度の医療的ケア児を預かることが可能になる。また、一事業所だけで重度の医療的ケア児を預かるのは困難であるため、事業所間で人の行き来ができれば、事業展開がしやすく、早期の問題解決につながると考えられる。 提案Cについて  提案Aで述べたように、利用者及び家族からすると、医療的ケア児の普段の様子を知らない医療機関での宿泊には大きな不安が伴うため、利用者が普段使っているヘルパー等をコミュニケーション支援員として既存の医療型短期入所事業所や空きベッドのある病院に派遣し、支援方法の伝達などにより医療型短期入所事業所や医療機関が円滑に受け入れできる体制を作る。 2) コーディネーターの必要性 2の(3)NICU入院時から退院時に至るまでの医療的ケア児に係る支援の現状と課題より、医療と福祉を連携させ、チームとして一貫して支援するコーディネーターの必要性が明らかになったが、目指すべきコーディネーターの姿について提案するもの。    【コーディネーターの目指す姿】 ・本人・家族とできるだけ早い段階から関わりを持ち、本人や家族に寄り添い、家族の心理的サポートを行う。 ・退院前から、病院や訪問看護事業所、居宅介護事業、相談支援事業所、保健師等の関係者による支援チームを編成し、在宅生活をスムーズに送れるよう全体を調整する役割を担う。 ・きょうだいがいる場合や保護者に疾患がある場合等には、本人以外の家庭調整も行う。 ・専門的知識やマネジメント能力を有するプロフェッショナルなコーディネーターを目指す。 (3)中核病院における医療型短期入所実施 中核病院における医療型短期入所実施に際しては、医療的ケア児が入院していたNICU設置病院は、利用者の状態を把握し、NICU入院時から培った病院と保護者との信頼関係もあることから、リスクが少なく医療型短期入所事業を行える状況であるため、中核病院における医療型短期入所の実施が望まれる。   実施に向けて、病院毎にさまざまな課題があるとは思うが、受け入れ先が無い現状を踏まえると、少なくとも、各中核病院のNICUに入院していた医療的ケア児の受け入れを行う医療型短期入所の実施を中核病院でも進めるべきである。 (4)「こどもレスパイトセンター」(仮称)の設置 今後、益々医療的ケア児の課題は増え、レスパイトのニーズが膨れ上がろうとしている現状を考えれば、これまでの個々の事業所での対応に頼るのではなく、市の施策として、医療的ケア児の支援に関するセンター機関として「こどもレスパイトセンター」(仮称)の設置を検討する必要がある。 安心・安全に宿泊支援が行えるハードの整備や、訪問看護ステーションや居宅介護事業所などの普段関わりのある支援員とセンターで同時に支援を行う共同支援の実施により、個々の子どもたちの多様なケアへの対応、緊急時の受け入れや計画的なレスパイト対応を円滑に行うことが可能となる。さらに、専門的な知識をもったコーディネーターを配置し、病院を出て不安を抱えながら自宅で生活する医療的ケア児の家族に、必要な医療や福祉サービスの情報提供を行うことや、在宅生活を支援する関係者との調整などの相談支援を行うことで、「こどもレスパイトセンター」(仮称)に地域生活におけるハブ機能を持たせることができる。そうしたフレキシブルでシームレスな支援の提供こそが必要である。 5.課題解決に向けた事業所等の取り組み 2で示した課題について、3の新規事業等も踏まえ、事業所等がそれぞれの立場で取り組めることをまとめた。 (1) 宿泊を伴うレスパイト @ NICU設置の中核病院 入院時から関わっている医療関係者によるレスパイト支援に対する強い希望があることを踏まえ、まずは、市が実施する小児慢性特定疾病児童等レスパイト入院事業を活用し、受け入れ促進を図るとともに、退院直後限定のレスパイト機会を提供するため、医療型短期入所の指定を受けられないか検討する。 また、緊急時においては、医療評価入院や医療型短期入所で受け入れができないか、体制確保を含め検討する。 A 短期入所事業所 コミュニケーション支援員派遣事業の利用も視野に入れ、利用人員の拡大に努める。 また、定期的に医療的ケア児を受け入れている場合でも、緊急時にはその事業所を利用できるとは限らないため、区障がい者基幹相談支援センターや障がい児相談支援事業所、短期入所事業所等関係機関との連携を強化し、医療的ケア児の受け入れ機会の確保に協力する。 B 訪問看護事業所 日中活動に参加することのできない重度の医療的ケア児にとっては、短期入所の利用は現実的ではないため、居宅介護事業所と連携を図り、自宅でのレスパイト事業の実施に協力する。 また、福祉型短期入所事業所で(最重度ではない)医療的ケア児を受け入れる際、日常の健康状態をよく知り、日頃から支援を行っている職員を派遣することで福祉型短期入所事業所での医療的ケア児の受け入れ促進に協力する。 さらに、重度の医療的ケア児の計画的レスパイトとして、精神発達の面からも宿泊を伴う短期入所の支援が必要であるが、既存の短期入所では対応困難であるため、課題はあるが、日常のケアに慣れている居宅介護事業所や訪問看護ステーションで受け入れ可能な仕組みを構築し、重度の医療的ケア児の宿泊を伴うレスパイト事業に協力する。 C 居宅介護事業所 居宅介護を利用している利用者に対して、日常の支援に馴れたヘルパーが医療機関や短期入所の現場に付添い、介護方法を引き継ぐことを可能とするため、入院時コミュニケーション事業の拡大や、短期入所先へのコミュニケーション支援員派遣など、事業実施に協力する。 D 児童発達支援センター等    普段から関わっている職員による支援に対する強い希望があることを踏まえ、日中活動の事業者は、短期入所事業の実施を検討する。 (2) 日中のレスパイト @ 児童発達支援センター等    普段から関わっている職員による支援に対する強い希望があることを踏まえ、日中活動の事業者は、受け入れ体制の強化を図るとともに、医療型特定短期入所又は日中一時支援事業の実施を検討する。   また、平成30年4月からの訪問型児童発達支援の事業開始に向け、従来実施している事業の再構築も含め、実施を検討する。   (3) 相談支援 @ NICU設置の中核病院 中核病院としての役割を踏まえると、退院後、長期間にわたり支援を継続することは困難である。他の医療機関で支援が行えるようにするため、講師派遣など、コーディネーター養成に協力するとともに、在宅診療医に繋ぐなどし、退院後の主治医確保に努める。 また、コーディネーターや障がい児相談支援事業所と連携を密にし、入院時からの家族支援やサービス利用調整等に努めると共に、在宅生活に至るまでの支援体制の構築を検討する。 A 訪問看護事業所 重度の医療的ケア児についてはNICUから在宅移行を安全に実施するためには医療関係者による専門的な支援が欠かせない。相談支援専門員が研修等により、すぐに習得・習熟できるものではないため、医療の専門性を有する訪問看護事業所が、入院中の早い時期から、退院と同時に各種サービスが利用できるよう、支援計画の作成に協力する。 B 障がい児相談支援事業所・特定相談支援事業所 緊急時に備えた短期入所の複数利用や定期利用の必要性について、利用者に十分説明を行い、利用調整に努める。 また、医療的ケア児の相談支援向上のため、研修等による能力向上及び、医療機関や訪問看護等の医療職との連携を図る。 6.課題解決に向けて福岡市が支援すべきこと 3の平成29年度以降の県・市の施策や5に掲げるような民間事業者の取り組みがあっても、医療的ケア児のレスパイト等における課題はなお残る。5に掲げた取り組みに加え、福岡市が下記の取り組みを実施することを提案する。 事業実施に当たっては、持続性のあるサービスとするため、必要があれば財源確保にも併せて取り組まれたい。 (1)  宿泊を伴うレスパイト   @ 医療型短期入所事業所増と受け入れ増に向けた事業所指定申請勧奨 医療型短期入所事業所の増加については、NPO共同事業のおうちで暮らそうプロジェクトなどにより一定の成果が得られているが、医療的ケア児を受け入れる事業所は増えていない。 コミュニケーション支援員派遣事業の周知と共に、入院ベッドのある病院へ指定申請への働きかけを行う。併せて、既存の指定事業所に対しても、医療的ケア児の受け入れを行うよう、働きかけを行う。   A 福祉型短期入所への医療的ケアのある方の受け入れに対する経費補助 福祉型短期入所で医療的ケアのある方を受け入れた場合、看護師等の人員を増員する対応をしても事業運営が可能となるための福岡市の独自の加算新設を検討する。 B 単独型短期入所事業所設置拡大に向け、初期費用の一部補助 在宅の様子を理解している訪問看護事業所や居宅介護事業所等が短期入所を実施しやすくできるように、スプリンクラー設置などの初期費用の一部補助を検討する。   C 共同事業としてのレスパイト事業の新設 在宅の様子を理解している訪問看護ステーションや居宅介護事業所等と施設を保有している事業所が相互に人員や場所を提供しあい、複数の事業所が共同でレスパイト事業を実施できる仕組みづくりを検討する。 D 緊急時の一時受け入れ先の確保 平成29年度に始まる、小児慢性特定疾病児童等レスパイト入院事業や地域生活拠点等整備の実施状況を注視し、医療的ケア児が緊急時に一時受け入れができるよう体制の確保を図る。 E 医療型短期入所事業所拡大に向けた経費補助 今後の医療型短期入所事業所の設置状況を注視しながら、必要に応じて入院 費等診療報酬との差額について、福岡市独自の加算新設を検討する。 F 医療的ケア児の支援に関するセンター機関設置 市内の既存資源の状況や国のレスパイト施策の動向を注視しながら、医療的ケア児の地域生活におけるハブとなるセンターの設置を検討する。 (2) 日中のレスパイト @  児童発達支援事業所等での医療的ケア児の受入体制整備促進 児童発達支援や放課後等デイサービス等の各事業所における看護師の配置促進に努める。 A  人材育成支援 障がい児相談支援事業所を含む各事業所職員に対する医療的ケアの知識・技能習得のための研修を実施する。 B  国の財政支援強化への取組 平成29年度に国において実施予定の「医療的ケア児支援促進モデル事業」の実施状況なども踏まえ、上記看護師の配置や人材育成に対する国の財政支援が、児童発達支援等における報酬等に反映されるよう積極的に国に働きかける。 (3) 相談支援 @ コーディネーターの育成 重症心身障害児への支援を総合調整するコーディネーターについて、国のカリキュラムを活用若しくは市独自に研修を進め、プロフェッショナル育成を目指し、重症心身障害児への相談支援体制の強化を図る。 A 多職種の連携 コーディネーターを中心として、生まれた時から、多職種のチームで一貫して支援できる体制づくりを目指す。 B 児童発達支援センターの相談支援事業所での相談支援体制の充実 委託相談を受けている児童発達支援センターの相談支援事業所が、医療的ケア児に対し、計画相談が始まる前の入院時から積極的に介入し、相談支援を充実させるための体制構築に向けて支援する。それ以外の障がい児相談支援事業所も医療的ケア児の計画相談支援を担える様に、報酬の見直しを国に提起し、人員や体制の確保を行い、研修等による医療の専門知識やコミュニケーション能力等の向上を図る。 ? 7.まとめ 医療的ケア児のレスパイトは24時間介護に追われている介護者が一時の休息を得られ、地域で安心して生活を継続するために必要不可欠であり、現状の預け先が無い状況は喫緊に解決すべき課題である。  小児の地域支援を取り巻く環境としても医療、福祉、教育にまたがる様々な制度や法律が絡み合う非常に複雑な構造になっており、それらを相互に連携するための仕組みづくりが遅れている状況であるため、行政、医療、福祉、教育の関係者が協力し、地域で誰もが安心して生活する、市民全体の課題として推進する必要がある。 推進の前提としては、当事者の生活状況を想像し、他人事ではなく、我が事のように捉え、当事者の心に寄り添う姿勢が重要である。 また、今回の提言では「医療的ケア児におけるレスパイト」としてテーマを絞り込んだが、やがてこども達が成長していく将来を描く上で、こども達一人ひとりに向けた取り組みも重要である。成長における発達段階での療育的なアプローチや学齢期における教育の充実が求められ、さらに、「親なき後」のテーマとしてどのような住まい方ができるのか、その選択肢の整備も進めていかなければならない。既に小児から移行した「医療的ケア者」の課題は、今回の提言で取り上げることはできないが、喫緊に取組まなければならない課題でもある。 行政には今後も、医療、福祉、教育等関係機関の連携促進に努めるとともに、各施策の実施状況を見ながら、適宜事業を改善していくことが期待される。 検討体制等 この「こども部会」は福岡市障がい者等地域生活支援協議会設置運営要綱に基づき、協議会の専門部会として設置され、次のとおり協議を行った。 第1回 平成28年12月13日 協議会で決定した部会の企画・協議の方向性の説明、部会長・副部会長の選任、今後の進め方 第2回 平成29年1月17日 既存資源の確認、課題の洗い出し 第3回 平成29年2月21日 課題解決に向けて、事業所として取り組めること 第4回 平成29年3月14日 課題解決に向けて、福岡市が支援すべきこと 第5回 平成29年4月18日 協議会への提言書(案)の協議 第6回 平成29年5月16日 協議会への提言書(案)の協議 第7回 平成29年6月20日 協議会への提言書(案)の協議 第8回 平成29年7月25日 協議会への提言書(案)の協議 委員名簿 中核病院 落合 正行 九州大学病院 総合周産期母子医療センター新生児内科 医師 室岡 明美 九州大学病院 医療連携センター 社会福祉士 村山 順子 福岡大学病院 地域医療連携センター 看護師 柳田 茂 福岡市立こども病院 地域医療連携室副室長 竹内 千晶 福岡市立こども病院 地域医療連携室 医療ソーシャルワーカー 福岡地区小児科医会 下村 国寿 下村小児科医院 院長 医療型短期入所等 本荘 哲 国立病院機構 福岡病院 小児科医長 水野 英尚 医療法人にのさかクリニック 地域生活ケアセンター小さなたね 所長 訪問看護等 野田 洋子 アムナス博多訪問看護ステーション 田中 佐和子 株式会社エアーシップ 訪問看護ステーションかけはし 障がい児相談支援等 池田 顕吾 福岡市東区知的障がい者相談支援センター 相談支援機能強化専門員 森山 淳子 認定NPO法人ニコちゃんの会 江上 しのぶ 福岡市立心身障がい福祉センター 加納 洋子 福岡市立心身障がい福祉センター 小林 美佐子 福岡市立東部療育センター 川口 静乃 福岡市立西部療育センター 西 恭子 福岡市立西部療育センター 特別支援学校 西松 陽子 福岡市立屋形原特別支援学校 事務局 福岡市保健福祉局障がい者在宅支援課 福岡市こども未来局こども発達支援課