医行為の必要な障がい者の福祉型短期入所への受け入れ促進に関する提言書 平成25年12月 福岡市障がい者等地域生活支援協議会福祉型短期入所部会 1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 2.福祉型短期入所で受け入れ可能な医行為の種類や程度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 3.福祉型短期入所で医行為の必要な障がい者の受入数増加の為に,事業所が取り組むべきこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 4.福祉型短期入所で医行為の必要な障がい者の受入数増加の為に,福岡市が事業所に対し支援すべきこと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 5.まとめ(要約)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 1.はじめに 福岡市障がい者等地域生活支援協議会(以下,協議会と称す)では,医行為の必要な障がい者への支援の課題として,短期入所施設の不足について協議されている。この課題は,協議会の前身である福岡市早良・西自立支援協議会(平成19年6月発足)に設置されたサブ協議会においても「重度重複障がい児・者の地域生活支援」をテーマにアンケート調査,シンポジウムが行われ,提言の1つとして医行為の必要な障がい者は短期入所を利用しにくい状況にあり早急な解決策の模索が必要であることが挙げられている。医行為の必要な障がい者の短期入所先については,相談支援を行う上でも大きな課題となっており早期の課題解決を図ることの必要性を痛切に感じている。 医療型短期入所の増加については,福岡市が「おうちで暮そうプロジェクト」事業で取り組みを行っているところだが,平成25年度第1回協議会において「福祉の事業所は,医行為の必要な障がい者を積極的に受け入れる姿勢を見せることが必要」との意見も踏まえ,福祉型短期入所において,医行為の必要な障がい者を多く受け入れる為に必要な取り組み等を協議する為に専門部会である「福祉型短期入所部会」を設置した。当部会では,福祉施設職員や医療関係者を中心に平成25年9月〜11月の間に計6回の協議を行い,(1)福祉型短期入所で受け入れ可能な医行為の種類や程度,(2)受入数増加の為に事業所として取り組めること,(3)受入数増加の為に事業所に対して福岡市が支援すべきこと,(4)前各号に掲げるもののほか,目的を達成する為に必要な事項に関すること,について検討を行ってきた。なお,検討を行うにあたっては,協議会から示された協議の方向性(1.日中活動の場の延長としての短期入所,2.居宅介護利用者の短期入所のあり方,3.どの事業所でも応用可能な方法の検討)に基づいたものである。今回はその検討結果を取りまとめ提言(案)として提出するものである。 2.福祉型短期入所で受け入れ可能な医行為の種類や程度 福祉型短期入所で受け入れ可能な医行為の種類と程度は,介護職員が喀痰吸引等の研修を受けることで実施可能な医療的ケア(たんの吸引・経管栄養)を基本とし,看護職員が行うその他の医行為については厳密に種類を限定せず,利用者の状態の安定度で判断する。あくまでも安定度が重要であり,状態が不安定な利用者,治療行為の必要な利用者は対象外と考える。 状態の安定とは,服薬や導尿,経管栄養やたんの吸引など常時の医行為の頻度及び程度が一定であることをいう。 ただし,短期入所の利用にあたっては,主治医が認める必要がある。 3.福祉型短期入所で医行為の必要な障がい者の受入数増加の為に,事業所が取り組むべきこと (1)生活介護事業所が取り組むべきこと @法人全体で短期入所に取り組む方針を持つ。 通所サービスは,障害者自立支援法の施行から第2種社会福祉事業となり,在宅サービスとして位置付けられるようになった。 在宅サービスのうち利用者ニーズの高いものの1つに,短期入所があげられる。 利用者の日中活動の場を提供する者は,利用者が困った時には支えなければならないという社会福祉の精神を持ち,利用者ニーズの高い短期入所を実施することが事業所の使命と考えることが重要である。 そして,短期入所事業だけで職員を揃えると考えるのではなく,法人全体で夜間のサービスを実施していくという方針の下,日中活動や居宅介護に従事する職員が交替で夜勤を行う体制を作ることが必要であり,そのために,職員の意識を高める取り組みが重要である。 A喀痰吸引等研修に職員を積極的に参加させ,研修を修了した介護職員を配置する。 「利用者の状態が安定していれば,医療的ケアも含めて日常必要なことは介護職員で行うことが可能である」「医行為が必要な障がい者であっても日常的に支援していれば,支援にも慣れ,日常の状態との違いを見極めることもできる」との本部会の意見により,短期入所で支援する職員は,利用者の状態の変化に気づきやすい,利用者の日常の状態をよく知っている支援者が対応することが必要である。そのため,事業所が積極的に介護職員を喀痰吸引等研修に参加させ,短期入所に配置することが重要である。 B看護師の常勤雇用を促進する。 生活介護事業における看護師の配置は,「配置基準上1以上」という基準があるだけで非常勤でも可となっているが,各生活介護事業所は看護師の常勤化を目指し,利用者の日常の状態をよく知っている看護師を短期入所に夜間・早朝スポット的に配置して,定時の導尿などの医行為ができるようにすることが重要である。 C医療連携体制加算を活用する。 医療連携体制加算は,生活介護事業所に配置している看護師を短期入所に夜間・早朝スポット的に配置し医行為を行う場合,配置医師の指示に基づく支援を行っていれば加算の対象にすることができる。なお,医行為の内容についてはあくまでも医師の指示書に示されたものに限る。 また,看護師派遣を委託する場合は,利用者の日常の状態をよく知っている介護職員を配置すれば,利用者の日常の状態を知らない外部の看護師が派遣されたとしても,引継ぎを行いながら支援することが可能になる。 D主治医との連携を強化する。 事業所は短期入所の利用契約にあたり,主治医の意見を十分考慮して利用の可否を判断する。主治医には,必要な医行為(医療的ケアを含む)の内容・留意点・状態の安定さ,緊急時の対応や医療機関との連絡体制について確認し,指示書に記入してもらう。聞き取る内容については,「医療的ケア指示書(福岡市身体障害者福祉協会作成)」(資料1を参照)を参照すると良い。利用者の状態像は変化する為,指示書は毎年更新することが望ましい。 もしも,事業所が望む情報を主治医から得られない場合には,訪問看護の看護師等から詳細な情報の収集を試みると良い。 E夜間専門の職員配置を検討する。 短期入所には夜間専門のパート職員の配置も検討して良い。その場合は,生活介護で利用者の日常の状態をよく知っている短期入所の職員が,夜間専門職員に利用者の状態を引継ぐ。なお,夜間専門職員にも喀痰吸引等研修を積極的に受けさせることが必要である。 F事業所が登録研修機関となり,喀痰吸引等研修の機会を増やす。 3−Aにおいて介護職員に喀痰吸引等研修を積極的に参加させることの必要性について述べたが,現在研修の機会そのものが少なく,福岡会場,北九州会場合計しても年間200名程度しか受講できない。また,介護現場としては1度に多くの職員を受講させると日常業務に差し支えるため,研修の機会を増やさなければ受講者を増やすことは難しい。 喀痰吸引等研修を行うことができるのは,県のほかは県によって認められた民間の登録研修機関である。そのため,事業所が登録研修機関となり研修機会を増やすことが重要である。 G事業所間の連携を強化する。 ある事業所が医行為の必要な利用者を定期的に受け入れている場合でも,緊急に短期入所が必要になった時には,必ずしもその事業所を利用できるとは限らない。支援者は利用者の日常の状態を知っておくことが必要であるため,利用者は普段から複数の生活介護事業所,短期入所を利用しておくことが望ましい。そのため,指定特定相談支援事業所とも連携し,事業所間の連携を強化する必要がある。 (2)居宅介護事業所の短期入所のあり方 短期入所事業は報酬面で日中の評価が低く,生活介護等の日中活動の事業と組み合わせなければ運営が難しい。 居宅介護事業所は,次ページに述べる共同支援という支援形態が市により認められれば,居宅介護だけを利用している利用者に対して,日常の支援に馴れたヘルパーが短期入所の現場に付添い,短期入所の職員に介護方法を引き継ぐことが可能となる。 更に,日中活動に参加することのできない最重度の障がい者にとっては,短期入所の利用は現実的ではない。介護者の負担軽減のためには,後に述べる自宅への訪問型レスパイト事業の実施を検討することも重要である。 4.福祉型短期入所で医行為の必要な障がい者の受入数増加の為に,福岡市が事業所に対し支援すべきこと @生活介護事業所等による短期入所事業実施を促す為の啓発・説明会 3−@において,短期入所事業所を増やす為に,事業所が法人全体で短期入所に取り組む方針を持つことの重要性が述べたが,そのことを後押しするため,福岡市は生活介護事業所等への短期入所事業の実施を促す為の啓発・説明会を行うことが必要である。 A緊急時に備えた短期入所の複数利用や,定期利用の必要性に関する啓発 医療型であっても福祉型であっても,普段利用していない短期入所を飛び込みで利用することは難しい。利用者にとっても緊急時に初めて利用するよりも,定期的な利用を行い,場所や人に慣れておくと安心して利用できる。 また,医行為が必要な利用者が緊急に短期入所を利用しようとする場合,普段利用している事業所が1つしかないと,ちょうどその日は他の利用者が利用中ということもある。そのため日中活動も含めて,複数の事業所を普段から計画的に利用しておくことが緊急時利用の安心につながる。 このような必要性について,福岡市は利用者及びその家族,関係機関に広く周知するとともに,利用者と事業所をつなぐ役割を担う指定特定相談支援事業所の利用を促すことが重要である。 B他法人の事業所の利用者を受け入れる場合の共同支援の創設を検討する。 医行為の必要な利用者にとっては,短期入所を利用したくても,利用者の日常の状態を知らない職員から支援を受けることは非常に不安である。一方で,事業所の職員もそのような利用者を受け入れることは非常に不安である。福岡市は,双方の不安を解消し,短期入所の受け入れを促進するため,強度行動障がい者支援事業で行っている共同支援と同趣旨の制度の創設を検討することが必要である。 例えば,利用者が,普段利用している生活介護や短期入所とは別法人の事業所で短期入所を利用しようとする場合は,普段利用している事業所の職員が,別法人の短期入所事業所を訪問し,その場で支援の引継ぎを行うことができるようにすれば,緊急時に備えた複数の短期入所事業所の利用が可能となる。 また,居宅介護のみを利用している利用者であっても,居宅介護事業所とは別法人の事業所で短期入所を利用しようとする場合,居宅介護事業所のヘルパーが別法人の短期入所事業所を訪問し,その場で支援の引継ぎを行うことができるようにすることにより,介護者のレスパイトを図ることができる。 なお,共同支援は支援を引き継ぐための制度であるため,予め利用回数を規定しておくことも重要である。 さらに共同支援は,職員を派遣する側と受け入れる側の双方の事業所が,職員の配置等を予め計画して行うため,指定特定相談支援事業所と連携して実施する必要がある。 C看護師配置に係る福岡市独自の加算を検討する。 生活介護事業所が短期入所のために,生活介護サービス提供時間外においても看護師を常時配置した場合に,医療連携体制加算を最大限に活用しても,当該看護師の人件費を確保することが困難な場合は,福岡市は独自加算を検討することが必要である。 D重点型短期入所の設置及び助成を検討する。 @からCの支援を行っても福祉型短期入所が増えず,医行為の必要な障がい者の短期入所利用が進まない場合には,福岡市は,以下の要件を満たす福祉型短期入所事業所を「重点型短期入所事業所」と位置付けて,運営費の助成を検討することが必要である。 ●常時看護師を配置する。 ●全ての利用者に送迎サービスを実施する。 ●認定特定行為業務従事者の認定を受けた常勤の介護職員を配置している。 ●短期入所サービス特別重度支援加算(T)又は(U)(資料2を参照)に該当する利用者を対象とする。 E訪問型レスパイト事業の創設について検討する。 最重度の利用者の中には,状態は安定しているにもかかわらず,移動ができないなどの事情により短期入所の利用が困難な者がいる。そのような利用者の介護者のレスパイトを図るため,福岡市は,居宅介護事業所等による自宅への訪問型レスパイト事業の創設を検討することが重要である。 5.まとめ これまで述べたことを要約すると以下のようになる。 1福祉型短期入所で受け入れ可能な医行為の種類や程度 医療的ケア(たんの吸引,経管栄養)を基本とし,その他の医行為については種類を限定せず,利用者の状態が安定していれば受け入れる。 2生活介護事業所が取り組むべきこと @法人全体で短期入所に取り組む方針を持ち,職員の意識を高める取組みをする。 A法人職員を喀痰吸引等研修に積極的に参加させ,医療的ケアの実施可能な職員数を増やす。 B日中勤務の看護師を常勤化し,短期入所に夜間・早朝スポット的にも配置する。 C夜間配置職員の人件費ねん出のため,医療連携体制加算を最大限に活用する。 D利用者の緊急時の対応に備えて,主治医との連携を強化する。 E夜間専門に働く職員の配置も検討する。 F事業所が登録研修機関となり,喀痰吸引等研修の回数を増やす。 G緊急時の円滑な受入れのために,利用者に複数の事業所を普段から定期的に利用してもらうよう,事業所間の連携を強化する。 3福岡市が生活介護事業所等に対し支援すべきこと @生活介護事業所等が短期入所を開設するように促すための啓発・説明会を実施する。 A利用者に対し,緊急時の受け入れを円滑にできるように,普段から短期入所の複数利用や定期的な利用を行うように啓発する。 B強度行動障がい者支援事業を参考に,利用者の日常の介護をよく知る生活介護事業所の職員や居宅介護事業所のヘルパーを,異なる法人の短期入所に派遣し,支援の引き継ぎを行うための「共同支援事業」を創設することを検討する。 C生活介護事業所が短期入所のために,生活介護サービス提供時間外においても看護師を常時配置し,その人件費の確保が困難な場合は,市の独自加算を検討する。 D福祉型短期入所が増えず,利用者ニーズがどうしても満たせない場合は,一部の短期入所事業所を「重点型短期入所事業所」として,運営費の助成を検討する。 E短期入所が利用できないような最重度の医行為の必要な障がい者のために,居宅介護事業所による「訪問型レスパイト事業」の創設を検討する。 検討体制等 この「福祉型短期入所部会」は福岡市障がい者等地域生活支援協議会設置運営要綱に基づき,協議会の専門部会として設置され,次のとおり協議を行った。 第1回 平成25年9月18日  協議会で決定した部会の企画・協議の方向性の説明,部会長・副部会長の選任,福祉型短期入所で受入れ可能な医行為の種類や程度 第2回 平成25年9月26日  受入れ数増加の為に事業所として取り組めること等 第3回 平成25年10月16日  受入れ数増加の為に事業所として取り組めること等 第4回 平成25年10月31日 第1〜3回までの意見の整理,福岡市が支援すべきこと等 第5回 平成25年11月13日 協議会への提言書骨子(案)の提案と協議 第6回 平成25年11月28日 修正版提言書骨子(案)の提案と協議 委員名簿 末松忠弘(部会長) 福岡市民間障害施設協議会 重度重複部会長 福岡市障がい者等地域生活支援協議会 委員 石田照年(副部会長) 福岡市身体障害者福祉協会 事務局長 阿部矢都子  ぴあすまいる東センター管理者 金ケ江和美  ぴあすまいる西センター管理者 西村ゆかり  福岡市立博多障がい者フレンドホーム看護師 溝口伸之  株式会社きらきら代表取締役社長 京極新治  小さな診療所所長 事務局  福岡市東区知的障がい者相談支援センター  福岡市保健福祉局障がい者部障がい者在宅支援課