事例番号1から導かれる地域課題として、「医行為の必要な重度身体障がい者の入所施設の不足」があげられます。 これに対応する社会資源の状況は下記のとおりです。 1 医行為の定義 医行為は,医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし,又は危害を及ぼすおそれのある行為であるとされている(平成17年7月26日付厚生労働省医政局長通知 医政発第0726005号「医師法第17条,歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」)。 ※介護職員が実施可能な医療的ケア 医行為のうち,たんの吸引(口腔内,鼻腔内,気管カニューレ内部)及び経管栄養(胃ろう,腸ろう,経鼻経管栄養)については,平成24年4月1日から,一定の研修を受けた介護職員等は一定の条件の下に実施できることとされた(これを医療的ケアと呼んでいる)。従って,導尿のカテーテルを自己抜去した後に,再度挿入する行為は医行為のため,介護職員が実施することはできない。 相談支援センター等の意見 県が介護職員等に対する医療的ケアの研修を行っている。たんの吸引と経管栄養の実施が可能な介護職員が増加すれば,それらのケアだけで十分な障がい者にとって入所施設の選択肢が増えることになる。ただし,夜間の職員配置数とも兼ね合いもあり,本当に医行為の必要な入所者を増やすことができるかは疑問である。また県による研修はまだ1回に留まっており,人材育成の進捗が懸念される。 2 医行為の必要な障がい児・者の数 (1)在宅の障がい児・者数(見込み) 392人で,経管栄養の者が多い。 相談支援センター等の意見 医行為の必要な障がい児であっても,例えば学齢児では訪問看護だけを利用していたり,障がい者でも筋萎縮性側索硬化症(ALS)は介護保険のサービス利用となるため,居宅介護等の上乗せがなければ障がい程度区分認定調査を受けていない。従って,392人のほかにも医行為の必要な障がい児・者はいる。 (2)市内重度身体障がい者入所施設(旧身体障がい者療護施設)の医行為の必要な入所者数 25人で,医行為の内容は経管栄養が多い。 3 医行為の必要な障がい児・者に対する支援の現状 (1)市内重度身体障がい者入所施設(旧身体障がい者療護施設) この入所施設は市内に3か所あるが,夜間の医行為が不要な人ばかり入所しているため,看護職員の夜間配置はなされていない。ただし,もしも毎日夜間配置した場合には,夜間の入所者数に応じて夜間看護体制加算が算定できる。 相談支援センター等の意見 医行為の必要な障がい者とその家族の中には,市内の入所施設に問い合わせても夜間の看護職員の配置がないために入所を断られ,そのままあきらめている例や,療養介護施設(下記(2)に記載)が限られているため入所を断念している例がある。そのような障がい者の介護負担は家族が担っており,負担の軽減が必要である(ただし,一方で施設入所などは考えず,在宅生活を望む人もいる)。 導尿が必要な人については,就寝前と起床時のピンポイントで導尿ができるように看護職員が配置されるだけも良い。しかし,施設への訪問看護派遣はなされていない。 重度身体障がい者入所施設(旧身体障がい者療護施設)に,毎日看護職員が夜間配置されれば,他の医行為の必要な障がい者も入所可能となり,障がい者にとってサービスの選択肢が増えるので良い。ただし,市内の施設はほぼ満床である。 (2)療養介護 夜間も医行為の必要な障がい者は療養介護施設に入所することになるが,当該施設は市内に1か所,近郊含めても3か所である。 療養介護の対象者は,病院等への長期の入院による医療的ケアに加え,常時の介護を必要とする障がい者として概ね次に掲げる者。 @筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者等気管切開を伴う人工呼吸器による呼吸管理を行っている者であって,障がい程度区分が区分6の者。 A筋ジストロフィー患者又は重症心身障がい者であって,障がい程度区分が区分5以上の者。 介護保険の入所施設の看護職員配置 介護保険の入所施設は,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム),介護老人保健施設,介護療養型医療施設の3種類ある。 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は,夜勤を行う介護職員又は看護職員の数は利用者数に応じて定められており,夜勤職員配置加算が算定できる。また,看護体制加算(U)を算定している施設は,要件の1つとして,当該施設の看護職員により,又は病院若しくは診療所若しくは指定訪問看護ステーションの看護職員との連携により,24時間連絡できる体制(夜間,施設から連絡でき,必要な場合には施設からの緊急呼び出しに応じて出勤する体制)を確保する必要がある。しかし,ほとんどの施設は社会福祉法人が運営しているため,看護職員が施設内に配置されるとは限らない。 相談支援センター等の意見 障がい者の入所施設は,介護老人福祉施設と同じく社会福祉法人が運営している。中には母体となる法人が医療法人のところもある。 介護老人保健施設は介護老人福祉施設と同じく,必ずしも夜間の看護職員配置を義務付けられていないが,医療法人が運営しているため,実態としては看護職員が夜勤を行っている(夜勤職員配置加算あり)。 介護療養型医療施設には,夜勤を行う看護職員配置の基準が定められている(夜間勤務等看護加算あり)。 施設入所者に対する訪問看護の利用 障がい者の入所施設における医療保険の訪問看護利用については,末期の悪性腫瘍や厚労省の定める難病患者及び急性増悪等で一時的に頻回の訪問看護が必要である場合に限って行うことができる。 介護保険の訪問看護利用は,障がい者の入所施設は介護保険適用外施設のため利用不可だが,ケアホームはそうでないため派遣可能と考えられる(ただし,介護サービスの対象者のみ)。 事例番号2から導かれる地域課題として、「医行為の必要な重度身体障がい者の短期入所施設,日中活動の場の不足」があげられます。 これに対応する社会資源の状況は下記のとおりです。 1 医療型短期入所について 医療型短期入所とは,療養介護の対象となる障がい者又は重症心身障がい児(重度の知的障がい及び重度の肢体不自由が重複している障がい児をいう。)に対し,医療法第1条の5第1項に規定する病院で実施する短期入所のことを言う(報酬告示)。 医療型短期入所施設は,H23年度までは市内に1か所(福岡病院)だったため利用が集中しており,現在新規利用者は受付けていない。福岡病院にはベッドが3つ確保されているが,H24年4月から12月までの稼働率は93%に達している。 相談支援センター等の意見 医行為の必要な障がい者の短期入所利用については,医療機関以外の施設については,夜間に万一のことがあると対応できないという理由で利用を断る場合がある。家族も施設利用にあたっては,万一の事態にも十分に対応してもらえることを期待することが多い。そのため,医療型短期入所施設に利用が集中する。 2 医療型短期入所施設の拡大 福岡市は,H24年度から市内の病院に医療型短期入所の指定申請を促す努力を続けており,その結果2病院が指定を受けたが(西福岡病院,友愛病院),まだ利用実績がない(この2病院では人工呼吸器装着者には対応できない)。 相談支援センター等の意見 たん吸引は家族の介護負担の最たるものであり,人工呼吸器装着者に対応できない短期入所施設では利用があまり進まないと思われる。 新しい医療型短期入所施設は空きベッドがあるときにしか利用できないため,問い合わせても断られたことがあった。 医行為の必要な重度身体障がい者とその家族にとって,リフト車等による送迎の有無は大きな問題だが,送迎のない短期入所施設が多いため,その施設から遠隔地に居住する者で,自家用車のない人は利用をあきらめている。 一部の医療機関にヒアリングすると,医療型短期入所がこれまで増えなかった理由としては,第一に患者のケアに関する家族とのトラブルを避けたかったこと,次に医療型短期入所のことを知らなかったことが挙げられた。 3 他のレスパイトのための方策 介護者のレスパイトの手段を増やす方策として,日中活動の場を増やすことも考えられる 市内の生活介護事業所は50か所ある。このうち,身体障害者手帳1級又は2級を持ち,かつ区分5又は6の人を1人以上受け入れている事業所は37か所(うち6か所は障がい者フレンドホーム)。さらにその中で医行為の必要な障がい者を受けれいている事業所は22か所。 上記37か所の事業所のうち,入浴まで対応できる事業所は15か所(うち6か所は障がい者フレンドホーム)。 医療型特定短期入所施設は2つある(日帰りの医療型短期入所施設)。 相談支援センター等の意見 医療型特定短期入所施設は,受け入れ可能な数がわずかであり,利用できないことが多い。 重心の障がい者を対象とした日中一時支援施設は,市内に4か所ある。