事例番号1・2から導かれる地域課題として、「行動障がいのある障がい者の行動の意味の解釈及び生活支援のプログラムを組み立てることができる人材,専門機関が限られている。」が挙げられます。 これに対応する社会資源の状況は下記のとおりです。 1 行動障がいの定義 厚生労働省は行動障がいの定義を特に定めていないが,強度行動障がいの定義については,福岡市強度行動障がい者調査研究会設置要綱では,「重度の知的障がい者で,ひどい自傷や著しい多動等の強度の行動障がいを伴う者」としており,具体的には前に厚生省が定めた「強度行動障害判定基準表」に該当する項目の点数の合計が10点以上の者としている。 2 行動障がいのある障がい児・者数 (1)在宅の児・者数 行動援護の支給決定児・者:143人(H24年11月末現在)(行動障がいを有する者に対応する訪問系サービスとしては行動援護がある。行動援護とは,知的障がい又は精神障がいにより行動上著しい困難を有する障がい者等であって常時介護を要する者につき,当該障がい者等が行動する際に生じ得る危険を回避するために必要な援護,外出時における移動中の介護,排せつ及び食事等の介護その他の当該障がい者等が行動する際の必要な援助とされる)。 そのほか,重度知的障がい者で行動援護も利用できる障がい者の中には,移動支援を利用している者もいる。 (2)施設を利用している児・者数(強度行動障がい該当に限る) 190人。 通所施設利用者については,上の行動援護支給決定者と一部重複する可能性がある。 3 行動障がいのある障がい者に対する支援の現状 (1)在宅の訪問系サービス利用者 行動援護は143人の支給決定に対し,実利用者は79人となっている。実利用者が少ない主な理由の1つとして,行動援護事業所の数が少ないことが上げられる(市内の行動援護事業所は19か所)。 (2)入所・通所施設の利用者 強度行動障がいのある障がい者を受入れている入所・通所施設は,福岡市強度行動障がい者調査研究会による平成24年度実態調査結果では,市内に15か所,市外(県内)は16か所。市外については入所施設のみで受入れている(福岡市強度行動障がい者調査研究会とは,重度の知的障がい者で,ひどい自傷や著しい多動等の強度の行動障がいを伴う者に対する施設での支援のあり方について研究を行うため,学識経験者・施設関係者・行政等により構成される組織で,平成18年5月1日に設置された)。 福岡市強度行動障がい者調査研究会では,受入先事業所の拡充を目的として,強度行動障がい者が利用しているケアホームや短期入所等の事業所において,他の事業所の職員と共同して支援する「共同支援」を行っている。この事業の登録スタッフ数は,H24年12月末現在151人(H22:83人,H23:104人)となっている。実支援員数は平成23年度実績では39人となっている(H21:18人,H22:18人)。 (3)発達障がい者支援センター(ゆうゆうセンター)の状況 ゆうゆうセンターでは,行動障がいを含む様々な相談を受けており,発達障がいの特性を踏まえてそれらの問題行動のメカニズムを解明し,家族等の支援者が実行できそうな対応策を考えている。 ゆうゆうセンターが受けた行動障がいを含む相談件数は年々増加している(19年度は1237件,23年度は2604件)。 ゆうゆうセンターでは支援者向けとして連続講座(1回/月のシリーズ)及び実践トレーニングセミナーを主催している。 ゆうゆうセンターは直接相談件数が増加し続けており,スタッフを増員などしているが,相談待ちが続き,継続相談ケースも本来必要な頻度で相談を受けることができていない現状がある。そのため,支援の現場や家庭を訪問して,行動障がいのある発達障がい者への直接面談を行う物理的余裕がないため,直接支援機関や相談支援センターと連携して対応するようにしている。 ゆうゆうセンターは,現状において相談支援等の機関からの相談が多くない点を踏まえて,今後は積極的に活用を図ってもらい,より一層連携して支援に取り組めるようにしていきたいと考えている。そのため各機関と連携して,行動障がいのある発達障がい者など対応困難なケースの支援プログラム作成を支援していく。 (4)行動障がいに対応できる人材・事業所の状況 行動援護については,福岡県が行動援護従事者養成研修を毎年開催しているが,H21からH23年度までの参加事業者は109あったのに対し,そのうち指定行動援護事業所となったのは38である(H24年12月1日現在)。また,毎年新たに指定を受ける県内の事業所数は4〜6と少ない。 行動援護事業所の指定を受けるためには,行動援護従事者が2.5人必要。行動援護従事者とは,実務経験2年以上か又は実務経験が1年程度であれば行動援護従事者養成研修を受けていることが要件となっている。 福岡市強度行動障がい者調査研究会の支援員養成研修(4日間)では講義及び実習研修を行っており,H23年度から特別支援学校教員を研修対象者に加えた。H24年度からは,発達障がい者支援センター主催の基礎研修の事前受講を義務付け,養成研修終了後半年間は現場での支援を体験する「実践スキルアップ研修」を行うこととしている。研修には,毎回,サービス管理責任者,支援員,特別支援学校の教員等が参加しており,参加者数はH22年度は講義・演習17人,実習16人,H23年度は講義・演習20人,実習20人,H24年度は講義・演習53人,実習20人と増加している。ただし,行動援護等訪問系事業所の従事者の参加は少ない。 (5)行動障がいへの対応に対する報酬面での評価 報酬面で強度行動障がいを有する者に対する手厚い支援を評価するため,施設入所支援の「重度障害者支援加算(U)」の額に1日につき700単位を加算できることとしている。 在宅のサービス面では,短期入所については,行動障がいを含む重度障害者等包括支援の対象者に相当する状態にある者に対してサービスを提供した場合,1日50単位の「重度障害者支援加算」が報酬に加えられる。居宅介護についての加算はない。 相談支援センター等の意見 行動障がいのある障がい者の支援については,当事者の行動を直接観察してその行動の意味を解釈し,必要な支援プログラムを作成し,支援者や家族の協力を得てそれを実行していくリーダーとなる人材,またそういう人材を擁する専門機関が強く望まれる。現状ではそれを相談支援センターやその他直接支援機関(一部の居宅介護や行動援護事業所,施設等)が行っているが重作業であり,本来業務と併せてこのような作業を行うことは困難である。 上記のようなリーダー養成とともに,支援の受け皿となる直接支援機関にも,行動障がいを理解し適切な支援技術を持つ人材を養成していくことが同時に必要である。 行動援護事業所は少ないが,単に増やせばよいものでなく,真に行動障がいに対応できる人材がいなくてはならない(現在の指定要件では行動障がいに対応できるスキルまでは求められていないため)。