中央区人権啓発連絡会議だより こうろ 第35号 発行/中央区人権啓発連絡会議 事務局/中央区総務部生涯学習推進課 電話 718-1068 ●最初のページ ・「聞こえにくさ」に理解を! 「プラスワン(+1)の寄り添い」のすすめ  「デフリンピック」をご存じですか?  4年に1度開催される「きこえない・きこえにくい人のためのオリンピック」のことで、70を超える国や地域が参加する国際大会です。  参加資格のひとつに、「補聴器」などを外した状態で、聞こえる一番小さな音が55デシベルを超えていること、というものがあります。  これは「ふつうの声での会話が聞こえない程度」で、日本聴覚医学会の分類では中等度難聴に該当し、補聴器の装用が必要となる程度だそうです。  では、補聴器をつければ、支障なく聞こえるのでしょうか。  補聴器をつけている方に対して、「声をかけたのに無視された」、「話しかけたのに返事がない」、「何度も聴き返される」といったことでトラブルになるケースを聞きます。  そこには「聞こえにくさ」に対する周囲の理解が十分ではないことも一因としてあるようです。  そこで、聴覚障がい者のキャリア支援や企業サポート、難聴の啓発活動に取り組む「一般社団法人言葉のかけはし」代表理事の岩尾至和さんにお話をお聞きしました。  岩尾さんは、難聴のお子さんの保護者で、「難聴の子どもを持つ家族会そらいろ」の会長も務めておられます。 (質問者)  まず、難聴とはどのようなものなのかを教えてください。 (岩尾さん)  簡単に言うと、人の声や音が聞こえにくいことをいいます。  外見からは分かりにくく、「見えづらい障がい」と呼ばれます。 (質問者)  日本に難聴の人はどのくらいいるのでしょうか。 (岩尾さん)  一般社団法人日本補聴器工業会主体の調査によると、難聴またはおそらく難聴だと思っている人は人口の約1割、10人に1人の割合です。 (質問者)  難聴の人には、どのような困りごとがあるのでしょうか。 (岩尾さん)  難聴者が抱える課題は、大きくは「コミュニケーションが取りづらい」ということに集約されますが、いじめなどの直接的な差別、聞こえないことへの配慮の拒否、通訳配置の拒否、聞こえる人と同様の情報が保障されない、会議や研修に呼ばれないなど、さまざまな差別や不利益を被っています。 (質問者)  困りごとにとどまらない深刻な問題ですね。補聴器などでは解決しないのでしょうか。 (岩尾さん)  補聴器や人工内耳などがあれば自分と同じように聞こえるものだと思っている方が多いと思います。  私も、子どもが難聴だと分かるまでは、同じように思っていました。  しかし、補聴器などをつけても聞こえる人と同じようには聞こえません。  小さな音で不明瞭な言葉として聞こえるので、口の動きも見て聞き取る必要があり、とても疲れます。  またマスク越しではほとんど聞き取れません。  後ろからの声は口が見えませんし、補聴器は後ろの音を拾いにくく、呼ばれても気づかないことがあります。  聞こえる人は周りが騒がしくても聞きたい音だけを強調して拾えますが、補聴器は話し声や周囲の音を同じように大きくするため、音が多い場所では重なって聞こえます。 (質問者)  周囲の理解がとても重要ですね。 (岩尾さん)  以前に比べると難聴への理解も拡がっていますが、聞こえないことの影響はなかなか分かりづらく、誤解が不利益につながっている現状があります。  そこで、クラウドファンディングによるたくさんの支援をいただき、「難聴の人はこういう場面で困ります。だからこうしてくれると助かります。」ということを親しみやすく学べるアニメ「なんちょうなんなん」を作りました。  どなたでもスマートフォンやパソコンで見ることができますので、多くの方々にご覧いただきたいと思います。 (質問者)  周りの人たちに普段からできることはありますか。 (岩尾さん)  聞こえないことへの配慮は、聞こえる人にとっては「面倒」だと思ってしまうこともあると思います。  そこで、話す時に誰でも手軽にできる「プラス1コミュニケーション」を紹介しています。  例えば、目を見てはっきりと話す、身振りや表情を交える、一人ずつ話す、何について話すかを先に言う、文字や絵を使う、音声文字変換アプリなどのITツールの活用、という具合です。  このような「小さな寄り添い」を加えることで、聞こえにくくてもコミュニケーションが取りやすくなります。 (質問者)  最後にメッセージをお願いします。 (岩尾さん)  生物学者のスワンソンさんの言葉で「コミュニケーションとは、人間の心のあたたかさの交換である。」というものがあります。  ぜひ、プラス1の寄り添いであたたかさを交換し、聞こえの共生社会を一緒に育んでいきましょう。  1924年にパリで第一回大会が開催されたデフリンピック。  2025年、記念すべき100周年の大会が東京で開催されます。  日本初開催となるこの東京大会が、聴覚障がいへの理解と寄り添いにつながるきっかけとなるよう、注目してみてはいかがでしょうか。  難聴が分かるアニメ「なんちょうなんなん」  https://www.youtube.com/watch?v=aZAYo4qDR38 ●2ページ ・中央区人権啓発連絡会議主催 令和6年度中央区人権を考えるつどい  中央区人権啓発連絡会議では、暮らしの中に人権文化が根付いた社会について考える契機として、毎年「中央区人権を考えるつどい」を開催しています。  令和6年度は、福岡市立中央市民センター指定管理者(株)シンコー及び中央区役所との共催により、9月26日(木曜日)、中央市民センターホールにて開催しました。  第1部は、「社会福祉法人JOY明日への息吹」理事長の緒方克也さんにご登壇いただきました。  元々は歯科医の緒方さん。  1979年に障がい者のための歯科医院を日本で初めて開院されました。  障がいがある患者さんやそのご家族との出会いの中で、緒方さんは、障がい者が自己決定・自己表現・社会参加ができる場所、本人もご家族も幸せな人生を送れる場所の必要性を強く感じ、障がい者福祉・社会福祉に取り組むようになったそうです。  1993年の認可外作業所の開設を経て、2001年に「社会福祉法人福岡障害者文化事業協会(現「JOY明日への息吹」)を設立し、現在、8つの事業所・施設を運営されています。  この日は、「障がい者の社会生活と人権」と題して、お話しいただきました。  社会人としての尊厳の維持  人権は、すべての人が人間らしく、自分らしく、自由に生きる権利でありながら、障がい者の人権は、日本人の「謙虚・潔さ・恥」という文化の中で軽く扱われ、障がい者は居場所がなく、保護される存在でした。  しかし、真に必要なのは保護ではなく、働く機会の確保とそのための社会のサポートです。  障がい者がひとりの社会人として自己決定・意思表明を行い社会参加することで、その尊厳が保たれるのです。  実際に、いくつもの企業や団体で障がい者が働き活躍する場の創出が進んでおり、障がい者が携わる商品や作品が高い評価を受けています。  「JOY明日への息吹」も、障がいが無い人にはできないこと、障がいがあるからできることを大切にし、障がいが無い人のまねではない独自の文化での社会参加を目指しています。  障がい者の人権を理解する  では、社会のサポートとはどういうことでしょうか。  まず、社会の側が障がいという社会的不利について理解し、社会的不利の中で生きる人をリスペクトすることが必要です。  そのためには、障がい者が企業の一員、社会の一員として共に働くことが企業文化となるよう、社員教育はもちろん、経営者への教育が必要です。  社会に求められること  社会や大人は障がいを「非」なるものと捉えていないでしょうか。  子どもたちは障がい者と縁がない社会で育つことで、障がい者への無関心、無理解が根付き、障がい者の人権を考える機会は失われてしまいます。  また、障がい者支援が文化ではなく制度にとどまるうちは、障がい者への理解は形式的なものにとどまります。  社会が障がいを学ぶ機会と支援を提供し、一緒にいることの価値を経験しましょう。  そして、障がい者が働く機会と支援を提供し、共に生きることの価値を大切にしましょう。  第2部は「JOY倶楽部ミュージックアンサンブル」によるコンサートです。  (JOY倶楽部ミュージックアンサンブルによる演奏の様子の写真2枚)  JOY倶楽部は「JOY明日への息吹」が運営する障害福祉サービス就労継続支援B型事業所で、音楽活動を行う「ミュージックアンサンブル」と、絵画やデザインなどのアート作品を制作する「アトリエブラヴォ」があります。  JOY倶楽部ミュージックアンサンブルは、1993年の結成から観客総動員数約35万人、通算公演数は1千回を超え、プロの音楽集団として、全国の様々な舞台で公演しています。  披露いただいたのは、アニメのテーマ曲や70年代ポップス、オリジナル曲など全9曲。  熱気あふれる演奏は、まさに自己表現そのもので、会場の皆さんと一体になったダンスや、ユーモア満載のメンバー紹介などもあり、温もりと優しさに包まれたステージとなりました。 ●3ページ ・第53福岡市人権を尊重する市民の集い  昭和23(1948)年12月10日、世界人権宣言が国連総会において採択されました。  福岡市では、これにちなんで毎年12月4日から10日までを「福岡市人権尊重週間」と定め、福岡市人権尊重行事推進委員会によるさまざまな啓発活動を展開しています。  その一環として、令和6年12月4日(水曜日)、中央市民センターにおいて「人権を尊重する市民の集い」が開催され、タレントのスマイリーキクチさんが講演しました。  言葉の責任 ネットの被害者・加害者にならないために 命の大切さ、人生の大切さ、諦めない心  タレント スマイリーキクチ さん  (講師であるスマイリーキクチさんの写真)  ニッコリ笑って毒を吐く毒舌漫談スタイルのピン芸人としてテレビやラジオでご活躍のタレント、スマイリーキクチさん。  実はその影で、ある殺人事件の犯人という悪質なデマをインターネット上に流され、十年以上にわたって言われなき誹謗中傷や脅迫に苦しみ、戦っていたのです。  講演では、ご自身の過酷な経験やネット上の深刻な人権侵害の実態、被害者はもちろん加害者にならないために気を付けることなどについて、お話しいただきました。  「ネットはしないから、自分は関係ないと思っていませんか?」  スマイリーキクチさんは、インターネットにおける様々な問題について、こう切り出しました。  「大金がある」とネットに書かれて強盗被害にあった事例や、自分の写真を加工されて盗撮犯にされた事例など、ネットの問題は、ある日突然、自分の知らないところで巻き込まれていくそうです。  「私もそうでした。ネットなんて一切していなかった1999年、ネット上で全く身に覚えのない殺人事件の犯人にでっち上げられたのです。」  所属事務所には苦情の電話が殺到し、ホームページのメッセージ欄は、たちまち「死ね、殺す」という書込みであふれました。  「それでも私は、しっかり否定すれば終わるだろう、と軽く考えていました。」  しかし、事態は収まるどころか、より深刻になっていきます。  苦情はテレビ局やスポンサーにも殺到し、決まっていた仕事は次々と無くなっていきます。  ネットの掲示板はすべて誹謗中傷と殺害予告。削除要請を行っても、書込みが事実ではないという証拠を出すよう求められました。  警察に相談しましたが、「何か起きてから来なさい」と相手にしてもらえなかったそうです。  (講演中のスマイリーキクチさんの写真)  「何なんだ、これは。ネットってどんな世界なんだ。助けを求めても、誰も助けてくれない。おかしいのは自分の方なのか。」  自分に味方はいないと思うと、不安と孤独で怖くて堪らなかったそうです。そんな中で支えとなったのは仲間たちの存在です。  「もうダメかなという時が何度もありましたが、その度に必ず誰かが助けてくれました。足を引っ張る人の方が多かったけれど、私の手を握ってくれた人の方が強く握ってくれました。」  その後も、誹謗中傷や脅迫は止むことなく続き、ようやく事態が動いたのは、発生から九年も経った2008年、ネット犯罪に詳しい刑事さんとの出会いでした。  翌年、書込みの内容や回数が悪質であった17歳から46歳の男女19名が摘発されました。  今でこそ珍しくない「ネットでの誹謗中傷」が、初めて日本の社会で大きく取り上げられたのです。  加害者は「懲らしめたかった、みんなやっている、ストレスがあった、自分もネットに騙された」と、口々に責任を転嫁したそうです。  (講演中のスマイリーキクチさんの写真)  「誹謗中傷をする加害者の心理の多くは正義感。自分は正しいことをしていると思っています。   本来、正義とは弱い人を守ること。ネットでは、悪い奴を晒して追い詰めることになっていますが、それは正義ではなく制裁です。   ネットを「異なる世界」と捉えがちですが、すべて現実の社会。書き込んだ瞬間に証拠と責任が生まれます。その結果、良かれと思った投稿や拡散が、デマの拡散、誹謗中傷となり、加害者になるのです。   ネットで見聞きした情報が本当に正しいのか、その情報に基づく自分の行動は本当に正しいのか、この「正しい」を疑う感性「正疑感」を持ってください。」  これを境に事態は落ち着きを見せたものの、誹謗中傷や殺害予告は、今でも続いているそうです。  学校などで講演した際に、子どもたちから「死にたいと思わなかったの?」と聞かれた時は、  「死のうとは思わなかったよ。だって僕は幸せになるために生まれてきたのだから。みんなもそうなんだよ。同じなんだよ。」  といつも伝えているというスマイリーキクチさん。最後に、  「もちろん皆さんも同じです。そして、困っている人の手を握ってくれる方々だと思います。ぜひ、笑顔のバトンを繋いでくださいね。」  と優しく語りかけ、お名前どおりのスマイルで講演を結びました。 ●最後のページ ・人権尊重作品中央区入選作品  福岡市人権尊重行事推進員会では、12月4日から10日の福岡市人権尊重週間にあわせて、市内に在住または通勤・通学する方を対象に、ポスターや標語、作文などの人権尊重作品を毎年募集しています。  ここでは、寄せられた作品の中から、中央区内のポスター・標語の入選作品をご紹介します。(順不同) (ポスターの部)  ・当仁小学校 6年 和田 結寧 さん (標語の部)  ・一人一人の個性を大切に みんな、笑顔で 認め合おう  警固中学校 1年生 森山 澪莉 さん  ・わかりあおう 自分らしさ きみらしさ  当仁小学校 5年生 和田 空 さん  ・あいさつは みんなの心 晴れやかに  当仁小学校 5年生 十時 葵 さん  ・思いやり けんかがなくなる いい世界  福浜小学校 6年生 青柳 蓮 さん  ・やさしさで みんなの笑顔が ふえていく  福浜小学校 6年生 長坂 咲侍 さん  入選作品(ポスター)は、福岡市人権啓発センターのホームページでもご覧いただけます。  https://www.city.fukuoka.lg.jp/shimin/jinkenkeihatsu/jinkensakuhin.html ・中央区人権啓発連絡会議 構成機関・団体(順不同)  中央区人権啓発連絡会議は、中央区で活動している30の関係団体・機関で構成し、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消を目指して、「中央区人権を考えるつどい」の開催や、広報紙「こうろ」の発行など、人権を尊重し、人の多様性を認め合う明るく住みよいまちづくりの実現に向けて活動しています。  中央区校区自治協議会等代表者会  校区・地区人権尊重推進協議会(14団体)  中央区体育振興連絡会  中央区交通安全推進協議会  中央区青少年育成連絡会  中央区老人クラブ連合会  中央区子ども会育成連合会  中央保護区保護司会  中央区男女共同参画連絡会  中央区民生委員児童委員協議会  福岡市身体障害者福祉協会中央区支部  中央区小学校PTA連合会  中央区中学校PTA連合会  中央区中学校長会  中央区小学校長会  中央区公民館長会  中央区役所 ・編集後記  ある講演会に参加した日のこと。  音響の調子が悪いのか、マイクの声がこもって聞きづらく、口の動きも追いながら、なんとか話についていきましたが、とても大変で・・・。  経験したことのない疲労感の中、岩尾さんのお話(本紙1面)を思い出し、「聞き取る」ことはこんなに大変なのかと感じたところです。  身近な日常の中で、人権について考える種を見つけた出来事でした。