^ 福岡市政だより No.1336 平成18年 (2006年) 3月15日号 1面 3月20日 福岡県西方沖地震から1年 被災体験 風化させぬよう セミナーや防災訓練など「市民防災の日」中心に各種催し 市が甚大な被害を受けた昨年3月20日の福岡県西方沖地震から、間もなく1年になります。 この1年、市は市民と一体になって被害の復旧・復興に取り組んできました。まだ仮設住宅住まいをされている人もいるなど残念な状況もありますが、一定の成果を遂げることができたといえそうです。「災害が少ない都市」が自慢だった福岡を襲った大地震に、市民も行政も震災の威力と恐ろしさ身をもって知らされましたが、一方で、その体験からいくつもの教訓も学びとりました。 市民の防災意識をいっそう高め、将来にわたって安全・安心のまちづくりを進めるには被災で得た体験を風化させず、いつまでも記憶にとどめ、さらに次世代に継承することが大切です。 阪神・淡路の「震災語り部」も講演 市と関係団体は、防災への意識を新たにするため、地震から1年の3月20日(月曜日)を中心に、同月13日ほから24日)までの間、地域の防災訓練や地震・防災セミナーをはじめ各種の行事を行います。 地震・震災セミナー2006 市は3月20日を「市民防災の日」と定めています。その日、20日には、午後1時から市役所15階の講堂で「地震 防災セミナー2006」-「忘れんばい3.20~2度目に自信(地震)あるね?」を市と文部科学省の主催で開催します。 このセミナーでは河田惠昭憲昭京都大学教授による基調講演や、平成7年の阪神・淡路大震災を機に神戸市にできた「人と防災未来センター」の「震災語り部」による「阪神・淡路大震災に学ぶ」をテーマとした講演を行います。 また、福岡県西方沖地震で集中的な被害を受けて全島避難した玄界校区(西区玄界島)、いち早く地域で炊き出しを実施した警固校区(中央区)の代表と災害ボランティアによる「現場からの報告・問題提起」や、参加者全員による市民トークなどが行われます。 防災訓練 20日午前10時から中央区の防災訓練が小笹小学校を会場に行われます。避難訓練や煙体験などが予定されています。 市職員の参集訓練 市役所も、20日早朝、「震災時緊急対応職員」の参集訓練を実施します。 また、午前9時からは「市地震災害復旧・復興本部会議」を開きます。 「記録誌」を作成 市は、今後の防災対策の資料として、また被災体験の風化を防ぎ将来に語り継ぐために「記録誌・福岡県西方沖地震から一年」の作成作業を進めています。 「記録誌」は「地震の概要」に始まり「災害応急対策」「被災者の救援及び生活支援対策」などの構成で、市の動きのほかライフライン関連事業者の対応、自衛隊、海上保安部、警察の救援活動も記録されます。 発行は3月20日の子定です。市の総合図書館、各区の図書館、情報プラザ(市役所1階)で閲覧できます。(「記録誌」についての問い合わせ先は地震災害復旧・復興本部 電話番号711-4065 FAX番号733-5861) 【その他の催し】 そのほかに予定されている催しの主なものは次のとおりです。 ▽福岡県西方沖地震を振り返り、今後の備えを考えるパネル展13日(月曜日)~24日(金曜日)、市役所1階市民ロビーで。防災グッズの展示も行われます。 ▽「福岡県防災とボランティアの集い」21日午後1時からアクロス福岡地下2階イベントホール(県・市など主催)。 ▽「震災対策技術展/自然災害対策技術展」22日(水曜日)、23日(木曜日)、福岡国際センター(市防災協会など主催)。 国内の地震や自然災害対策関係者が一堂に集る技術見本市です。技術展には情報管理システムや耐震補強工法など震災、自然災害対策技術などが50社から出展されます。入場無料。 ※参加方法と記事に関する問い合わせ先 防災課(電話番号711-4056 FAX番号733-5861、メールbousai.CAB@city.fukuoka.jp) 地震体験車も登場 「住宅耐震化」イベント開催 地震の際の人命被害の軽減対策として重要な、建築物の耐震化について広く市民の皆さんに知ってもらうため、市と県、建築関係団体などが主催して「住宅耐震化」をテーマにしたイベントが開かれます。 ◇20日(月曜日)から24日(金曜日)(21日を除きます)まで、市役所1階の市民ロピーを会場に住宅やブロック塀の耐震化、正しい施工法などに 関するパネルを展示し、建築士がわかりやすく説明します。 模型を使った耐震補強の事例展示も行われます。これは、振動を発生させる装置で模型の住宅を揺らし、筋かいの有無で揺れ方の違いを実演します。会場では、同時に建築士による住宅耐震化についての無料相談も行われます。午前9時から午後5時までです。 ◇21(祝日)、22(水曜日))の両日は、市役所北側玄関前に国土交通省の「地震体験車」(起震車)がやってきます。 参加者に、さまざまな地震の強さの揺れを試乗体験してもらいます。午前9時から午後5時までです。 ※問い合わせ先 建築指導課(電話番号711-4580 FAX番号733-5584、メールkenchikushido.BCB@city.fukuoka.jp) ◇22日には中央区天神の福岡国際ホール(西日本新聞会館)で「耐震改修セミナー」が県と福岡、北九州、大牟田、久留米各市主催で開催されます。 「福岡県西方沖地震の被害状況とマンション等の耐震対策」そのほかの講演があります。 参加無料。定員は申し込み順に200人です。 申し込み方法など詳細は福岡県建築住宅センター企画課 (電話番号781-5169 FAX番号715-5230、メールkenshu@fkjc.or.jp)へお問い合わせください。 忘れまい3・20 あの午前10時53分 消防車両・消防団車庫のサイレンを一斉吹鳴 市消防局は、市が「市民防災の日」と定めている福岡県西方沖地震が発生じた日の3月20日、発生時刻の午前10時53分から10秒間、消防車両および消防団車庫のサイレンを一斉に吹鳴します。 サイレンを吹鳴して、地震災害を風化させないよう、市民の皆さんに「日常生活の中でも防災意識を持っていてください」と呼びかけるものです。 また、見直しを行った地震マニュアルの検証訓練も同日併せて実施します。 ^ 福岡市政だより No.1336 平成18年 (2006年) 3月15日号 2面 「地震に強い都市づくり」への取り組み進む 効果的な施策をより早く 建築物の耐震化促進など 阪神・淡路大震災の後、地震に強い都市づくりに取り組んできた市は、福岡県西方沖地震で受けた直接の被害を教訓に、より効果的な施策を、より早く実現するための作業に取り組んでいます。 「地域防災計画」も見直し 地震に強い都市づくりの施策は、市民の防災意識の啓発や建築物対策などソフト、ハード両面で、広範囲に及びます。 その中でも、阪神・淡路大震災の際の6400人を超す地震による直接の死者の約9割が、住宅や建築物の倒壊によるものであったことから、地震に強い都市づくりでは建築物の耐震化が大きな課題として浮上しました。 市は、建築基準法の耐震基準が施行された昭和56年6月1日より前に建築確認を得て建築された建築物の、耐震性能の向上を図るため、公共施設、民間建築物の耐震化対策として、次のような取り組みを進めています。 公共施設では、市庁舎や消防署などの「防災関連施設」、交通施設や水道、下水道施設などの「ライフライン関連施設」、福祉施設や市民プールなどの「多数利用施設」などを対象とし、期間を設定して耐震診断や 耐震改修を行い耐震性能の向上を図っています。 また、民間建築物のうち住宅については、全戸数に占める耐震化工事を完了した、または新耐震基準で建築された戸数の比率、つまり耐震化率は約72パーセントと推計されています。市は、これを、今後10年間で90パーセントに引き上げることを目標に、耐震化を促進することにしています。 建築物の耐震化の促進には、建築物の耐震性の有無を調べる耐震診断を行い、耐震性が劣る場合は耐震改修をしなければなりません。 耐震診断や耐震改修は建築物の所有者が行うものですが、市は、耐震化の一層の促進を図るため、福岡県西方沖地震を契機に共同住宅の耐震診断費用の助成の支援策を実施しています。 市はこれら耐震化支援策を、新年度からさらに充実させるよう作業を進めています。 市民を災害から守る災害対策の基本を定めている「地域防災計画」も、これまでの見直しに加え、福岡県西方沖地震を機会に、さらに見直しが行われます。 「消防対応力の強化」「地域における防災力の強化」「災害時の情報収集・伝達、広報体制の整備」「公的備蓄の実施」そのほかが、見直しの方向として挙げられています。 「愛玩動物対策の整錆」も新たに加えられる予定です。 市街地縦断の活断層 「警固断層」を調査 福岡県西方沖地震の震源との関連で「警固断層」の存在がクローズアップされました。市は昨年十10月「警固断層調査検討委員会」(委員長、磯 震望・西南学院大学教授)を設置して警固断層の解明を進めています。 警固断層は、中央区の荒津沖から同区薬院、南区井尻と、大正通り・高宮通り(県道福岡筑紫野線)沿いに市街地を縦断し、筑紫野市武蔵付近に至る直線で約22キロの活断層です。 これが、福岡県西方神 地震後の海底調査や余震分布調査などで、福岡県西方沖地震の震源域とつながっているのではないかとの見方がされるようになりました。 地震の規模は、断層の長さに比例するので、その実態に大きな関心が集まっています。 警固断層は、昨年8月、政府の地震調査研究推進本部で「主要活断層」に指定(全国で110か所になりました)されました。大学、研究機関などが掘削や音波などで調 査や、集まったデータの分析を進めています。 市は「警固断層調査検討委員会」でこれまでの調査結果を基に、断層の長さ、活動の規模や予測など警固断層の再評価を行います。 今後、地震が起きた場合の被害想定などのシミュレーションが行われますので、ハード、ソフト両面から防災対策に反映させていきます。 特集・福岡県西方沖地震から1年 防災意識の高まり示す 「出前講座」が引っ張りだこ 市政を市民の皆さんと共働で進めるために、市職員が地域に出かけてお話しする「出前講座」の災害・防災をテーマにした講座への申し込みが、福岡県西方沖地震以後、急増しています。地震体験で、市民の皆さんの間に防災意識が急速に高まっていることの表れといえそうです。 災害・防災」をテーマにした講座は、防災課が担当する「みんなで守ろう・わが家わがまち」です。地震、台風、火災から身を守る方法、みんなの力でまちを守る自助・ 互助・公助の取り組み方、防災・救急豆知識、災害図上訓練などが、その内容です。 同講座への申し込みは、平成16年度(同年4月から17年3月まで)は3件でした。それが、17年度になると1月までで53件に達しました。およそ18倍というわけです。人数にして約2200人が受講しています。 自主防災会、自治会、PTAその他、地域活動のグループが主ですが、民間会社からの申し込みも舞い込んでいます。 福岡県西方沖地震の規模 気象庁のまとめによると、福岡県西方沖地震の規模は次のようなものでした。 【本震】 ▼発生=平成17年3月20日午前10時53分ごろ ▼震源地 福岡県西方沖 ▼震源の深さ=約9キロ ▼各地の最大震度 ○震度6弱=東区、中央区 ○震度5強=早良区、西区 ○震度5弱=博多区、南区、城南区 【最大余震】 ▼発生=平成17年4月20日午前6時11分ごろ ▼震源地 福岡県西方沖 ▼震源の深さ=約10キロ ▼各地の最大震度 ○震度5強=博多区、中央区、南区、早良区 ○震度5弱=東区、西区、西区玄界島 ○震度4=城南区 ※震度1以上の余震を昨年12月31日までに405回観測。 福岡市政だより No.1336 平成18年 (2006年) 3月15日号 3面 特集・福岡県西方沖地震から1年 「玄界島復興計画」決まる 賃貸共同住宅130戸 戸建て用地50戸分 人のきずな保てるように 「にぎわいゾーン」も整備 福岡県西方沖地震で島全体が壊滅的な被害を受けた西区玄界島の復興計画が決まりました。島の人たちで組織する「玄界島復興対策検討委員会」(伊藤和義委員長)と市との共働で練り上げた計画案が、さる1月28日に島で開かれた5回目の島民総会に諮られ、合意されたのです。復興計画には、生活基盤の再生、地域産業の再生、コミュニティーの再生など、同検討委員会が島民総会をはじめ、ワークショップや座談会、説明会などなどを頻繁に開催してくみ上げた島の人たちの意向が反映されています。島は復興へ向け一歩を踏み出しました。 復興事業のうち、被災住宅地の復興は、被災した土地、建物を市がいったん買い取って取り除き、そこに新たに住宅の建設、戸建て用地の造成を行う「小規模住宅地区改良事業」という手法で進められます。 復興計画によると、建設される住宅は賃貸集合住宅が市営80戸、県営50戸の合計130戸です。戸建て住宅用地は50戸分が造成されます。 住宅地域の周囲には幅5メートルの「外周道路」が海辺から玄界小学校まで建設されます。地域内には幅4メートルの道路が通されます。 復興が実現して、島の環境が変わっても、時代を経て培われた相互のきずなが薄れないことを島の人々は願っています。復興計画では島の中央部に集会所と老人いこいの家、さらに展望公園を連続的・一体的に整備して、お年寄りから子どもまでが集い、島への来訪者とも交流できる「にぎわいゾーン」が整備されることになっています。 傾斜地移動にエレベーター 島の生活ゾーンは、南面の傾斜地に開けています。高齢者の傾斜地の移動が楽になるユニークな施設が復興事業で設置されます。それは、傾斜地に建つ市営住宅に設置されるエレベーターが活用されます。 傾斜地の下方に建つ住宅のエレベーターで上の階に昇ると、そこには傾斜地の上方に建つ住宅の一階の位置に通じる連絡ブリッジが用意されています。 そのブリッジを渡って、次の住宅の1階へ行き、エレベーターに乗ってさらに上の階で降りて道路に出るという仕根みです。垂直で25.5メートルの高低差がエレベータ―で昇降できます。 県内では北九州市の市営住宅で設置例がありますが、全国的にも珍しい施設で、離島では初めての設置です。 復興事業は平成19年度の完了が予定されています。 被災から10か月 島民主役で早い決定 世界のモデルケースに 玄界島の「復興計画」は、被災から十か月目で決定しました。市の担当者も「異例のスピード」という、この早い決定に、島の人々の自治意識と相互のきずなの強さがうかがえます。 地震発生の3月20日、島の人々は壊滅状態の島を後にして中央区薬院の市九電記念体育館にほぼ全員が避難しました。お年寄りを確認し、何の混乱もなく整然とした避難でした。 5月7日、島の人々による「玄界島復興対策検討委員会」が設立され、下部組織と しての「協議委員」も選出されて復興に向けての意見交換が始 まりました。毎週土曜日に委員会、島民総会も節目、節目に開かれて、復興事業への取り組みが進みました。 昨年11月2日、その約1年前に新潟県中越地震で被災した同県長岡市の森民雄市長が復興事業視察のために玄界島を訪れました。視察を終えた森市長は「行政主導ではなく、住民の組織に任せているという点が参考になった」と島の人々が主役になって復興事業が進められていることに感心していました。 また、同月15日に島を視察に訪れた、世界の居住環境の改善に取り組む国連の機関、人間居住センター(ハビタット)のアンナ・ティパイジュ力事務局長は「コミュ ニティーが強く、地元全体で復興事業を進めている姿は、世界のよい例になる」と称賛しました。島の人々の強い一体感の源は「島のために」という気持ちで す。玄界校区自治会の寺田至会長は 「島民が心をひとつにしないと復興はできない。島のために、まとまらなければ」といいます。 ◇玄界島の被害 負傷者19人、家屋の全壊107戸、半壊46戸、一部損壊61戸。そのほか公共施設が被災。島のほとんどの人が現在も島と、博多漁港のかもめ広場にそれぞれ100戸建設された仮設住宅に住んでいます。 玄界島復興対策検討委員会 伊藤和義委員長に聞く 島の人々の意見をまとめ、被災から十か月で復興計画決定にこきつけるなど、島の復興に奔走する玄界島復興対策検討委員会の伊藤和義委員長に、この一年を振り返てもらいました。 ― この一年、ご苦労の連続だったと思います。 【伊藤委員長】長い一年でした。復興にどこから手をつけていいか。なにをしたらよいのかわからない日々が続きました。 ― 島の人は大きな打撃を受けました。 【伊藤委員長】市の呼びかけで5月2日に海上パレードをし、3日のどんたくのパレードに出ました。沿道の皆さんから温かい声援を受け、これが元気を出す起爆剤になりました。 ― 復興計画の決定は、復興事業の中でどのような位置づけになりますか。 【伊藤委員長】走っていく目標が見えた、ということでしょう。スタートラインに立った。向こうに旗が見える。それに向かって、今から走り出すというところです。 ― 早い決定でした。 【伊藤委員長】個人個人に思いはあるが、島の将来のためにはどれがよいかを理解してくれます。皆、一つの家族という形の表れです。 ― 島の人々の気持ちは。 【伊藤委員長】3月末から被災家屋の解体が始まり、復興事業が形になって見えてくる。希望が持てるが、一方で家が壊れるわびしさも。複雑な気持ちだと思います。 ― これからの課題は。 【伊藤委員長】数え切れないほどあります。一つは、復興事業が完成すると島の環境が変わりますが、島民の心まで変わらないようにしなければなりません。復興計画にも盛り込んでいますが、コミュニティーづくりに努力がいります。かもめ広場の仮設住宅で暮らしている島の子どもたちを早く呼び戻したいですね。 ^ 編集・発行/福岡市広報課 〒810-8620 福岡市中央区天神一丁目8-1 電話 092-711-4016 FAX 092-732-1358 毎月1日・15日発行(1月15日は休刊)