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更新日: 2018年12月19日

グローバル コミュニティ FUKUOKA 報告書(パネルディスカッションその3)

★パネルディスカッション★
「求められるグローバル人材の姿や福岡でのグローバル人材の活躍について」

コーディネーター

  • 太田浩氏(一橋大学国際教育センター教授)

進行

  • 八塩圭子氏(フリーアナウンサー/学習院大学特別客員教授)

パネリスト

  • 太田和秀氏(九州大学工学研究院教授/九州大学アジア人財プログラムリーダー)
  • 龍造寺健介氏(本多機工株式会社 代表取締役社長)
  • 藤見哲郎氏(スタートアップカフェ エグゼクティブコンシェルジュ)
  • 桜井貴史氏(株式会社リクルートキャリア 新卒斡旋統括部 新卒エージェントサービス部マネージャー)
  • 福岡市長 髙島宗一郎

ディスカッション


1.高度外国人材の獲得競争

 (太田浩) 留学生の採用には,多くの課題があります。例えば,日本の留学生の約13%は九州で学んでいますが,九州の企業に就職した留学生数となると,その半分以下の5%を切っています。
 (太田和) 九州大学アジア人財プログラム修了後,実際に福岡,長崎,熊本の企業に就職した留学生は14名です。就職先には,大企業だけではなく,中小企業の名前も並んでいます。本多機工の龍造寺社長には,アジア人財プログラムを開始したころから,留学生の確保や就職の件で相談に乗ってもらい,実際に採用もしていただいています。いろいろな企業と密接な関係を築くことで,プログラムを改良していくことが重要だと考えています。
 (龍造寺) 本多機工では,生き残るために10年前から高度外国人材を採用してきましたが,グローバルな時代の中,生き残りをかけて繰り広げられている高度外国人材の獲得競争に,九州の中小企業経営者たちも気付くべきだと思います。また,今後は留学生からも積極的にアクションを起こしていく必要があると思います。自分の専門を生かせる企業を調べ,自分から積極的に企業を訪問した上で,インターンシップやマッチングに進むことがとても大事なことです。



2.企業が求める日本語レベル

 (桜井) 留学生からは,留学生向けの求人情報がどこにあるのか分からないといった声や,人材要件,特に日本語能力に関して,具体的にどのレベルまでの日本語能力を必要としているのか明確にしてほしいという声をよく聞きます。特に文系の留学生からは,日本語能力レベルの問題で面接で落とされたという声がよくあり,留学生が認識している以上に,企業側は留学生に対して高いレベルの日本語能力を求めているという現実があります。


3.留学生のキャリア・パス

 (桜井) 留学生は具体的なキャリア・パスをイメージするので,企業も留学生に対し,キャリア・パスをきちんと説明する必要があります。日本企業では,ほとんどのキャリア・パスが特定の職種に限定しない総合職で,長期間のジョブローテと人材育成を通じたキャリアアップを前提として企業側の意思決定で実施されます。一方で,留学生が思い描く一般的なキャリア・パスは,専門性を生かせる職種で,短期間でキャリアアップでき,企業側の意思決定ではなく自らの意思決定で成し遂げるものであり,ここに大きなミスマッチがあります。採用のタイミングではなく,入社後にキャリア・パスのミスマッチに気づき,結果的に離職してしまうケースも起きています。

   

4.日本人化することへのジレンマ

 (桜井) キャリア・パスのミスマッチを解消する方法としては,二つの選択肢があります。一つは,企業自体がグローバル化するという選択肢です。これは,経営側が主体的に,人事制度を含めて企業をダイバーシティ化,グローバル化するものであり,ある意味英断であるため,一部の日本企業でしか採用されていません。
 もう一つの選択肢は,外国人社員を日本人化するというもので,ほとんどの日本企業はこちらを採用しています。この選択肢では抜本的な人事制度改革は行わず,日本的な人事制度の良さを維持しながら,外国人社員に対して,配属や処遇面で一定の特例を認めるというもので,外国人社員を日本人化することで,日本企業の良さである家族的経営やメンバーシップ経営を外国人社員に理解してもらうというものです。つまり,こちらの選択肢では,初めから日本人化できそうな外国人だけを採用することになります。
(八塩) 留学生にも日本の人事制度は受け入れられますか。
(桜井) 留学生からは,面接の段階から日本人化する必要があり,日本人の考え方を理解しているかのように,ある意味演じながら面接に臨まないと採用されないということへのジレンマの声も聞かれます。
 しかし,その一方で,入社後に日本的な人事制度の良さを肌で感じ自分も頑張ろうと奮起する留学生や,総合職でも力をつけていけることを理解するとすごく力を発揮するという留学生のケースもあるため,何が正解で,何が不正解なのかということではないと考えています。


  
パネルディスカッション1


5.日本の人事制度

 (髙島) 日本には,いわゆる「雑巾がけ」と言われるように,入社当初は下積みの仕事をして,時間をかけて次第に自分の能力を発揮していくという古くからの考え方があります。ここにも企業と留学生のミスマッチがあると思います。留学生にとっての日本の人事制度の良さは,どういうところにあるのでしょうか。
(桜井) 一つ目は「長期的なジョブローテと人材育成を通じたキャリアアップ」の制度です。まず社会人としての基礎能力を身に付けるという意味で,総合職は,留学生のキャリアアップにとって非常に意味のある制度だと思います。
 二つ目は「雇用の保障」です。海外では企業買収も多く雇用が保障されていないため,自らの意思決定でキャリアアップしていく必要がありますが,日本では,労働者保護の観点が極めて強いことから企業が雇用を保障できています。また,雇用の保証は企業に対する一定のロイヤルティや企業文化への理解へと繋がり,プラスアルファの価値を生み出すことがあります。例えば,日本の飲食業界における「おもてなしの精神」がそれにあたるもので,雇用の保証からくるロイヤルティや企業文化への理解から生まれたプラスアルファの価値です。
(八塩)本多機工では,留学生のキャリア・パスに対し,どのように対応されていますか。
(龍造寺)入社1年目は日本人社員と同じ対応ですが,2年目以降は,1年ごとにきちんとしたゴール設定を行っています。今年,あなたにはこれが出来るようになってほしい,これを勉強してほしい,ここまでマスターしてほしいというようにきちんとしたゴール設定を行い,そのゴールに向かって毎月どこまで進んでいるかについて面接をしています。
(太田浩)日本の人事制度や採用・就職の制度は,現在,曲がり角に来ていると私は感じています。グローバルな視点からすると,日本の制度だけが非常に特異です。日本では「就職」と言っていますが,その実態は会社のメンバーシップを得る「就社」です。
 就職活動の時期が非常に早く始まることもその一つです。留学生が戸惑うのは,修士課程1年の1学期が終わったばかりなのに,もう就職活動の準備に取り掛からなければならないことです。また,通年採用ではなく,1年に1回しか大卒者の採用が無い,一括採用というのも特異な制度の一つです。
 キャリア・パスについてもそうです。日本では,基本的に長期(終身)雇用がベースですから,キャリアの途中で仕事先を変えることに対して抵抗感がありますが,外国ではキャリアを積むために仕事先を変えるのが普通です。また,外国では経験を積めば積むほどジョブ・マーケット(労働市場)での商品価値が上がってきますが,日本の場合は,ジョブ・マーケットで最も商品価値が高いのは全く経験がない新卒者です。これを留学生が理解するのはかなり難しいことです。グローバル化を進めるために外国人の優秀な人材を獲得するのであれば,日本の人事制度や採用・就職の慣行をグローバル・スタンダード(国際標準)に合わせていくことも必要だと思います。


6.スタートアップ(起業・創業)

(太田浩)最近,特に留学生から多く指摘されている日本のビジネスの課題があります。それは,アントレプレナーシップ(起業家精神)やイノベーション(技術革新)をサポートするシステムや環境の整備が日本は遅れているということです。例えば規制が多すぎることもその一つで,これらが日本経済の活性化の妨げになっていると留学生からよく言われます。
(藤見)土壌づくりが大事だと思います。リスクテイクすることを許容する土壌をいかに作っていくかということです。スタートアップカフェで行っている裾野を広げる取組みもそうです。リスクテイクする人が増えれば,リスクテイクすることに対して寛容な人が自然と増えてきます。
 例えば,アマゾンではもともとベンチャーにいた人たちが働いていたり,マイクロソフトでは事業に失敗し会社を倒産させた経験がある人を副社長に採用したことがあると聞いたこともあります。
 仮に一度事業で失敗したとしても,次はベンチャーに加わってキャリアを積んだり,スタートアップを支援する側になることで,自らの失敗の経験を生かしたアドバイスが出来ます。選択肢がたくさんあれば,ベンチャーで失敗しても,自分のキャリアに傷がついてしまうというリスクはなくなるのではないかと考えます。


7.分からないことがリスク

(藤見) スタートアップに必要なのは「情報」です。分からないことがリスクなのです。ここから飛び降りたら確実に死ぬとわかっていること,これはリスクではありません。適切な情報があればしっかりと対処が出来てリスクは減ります。スタートアップカフェでは,適切な情報を適切なタイミングで提供できるよう,日々,心がけて対応しています。

 
パネルディスカッション2


8.イノベーション力

(髙島)私はiPhoneを使っていますが,次々とアップデートされて変わっていきます。これは目で見えるテクノロジーの進化の速さです。日本の価値観も,東日本大震災の後に大きく変わりました。テクノロジーが進化し,価値観が変わっていく中で,3年前と全く同じサービス・商品では売れるはずがありません。現在の日本の閉塞感の要因はここにあるのではないかと考えています。
 日本企業には,テクノロジーの進化と価値観の変化に合わせ,新しいものを次々と生み出していく「イノベーション力」が必要です。今求められているサービスや商品が次々と生まれてくるようなスタートアップが,現在の日本の閉塞感を打破し,これからの日本経済を引っ張っていってくれるに違いありません。起業することはもちろん,既存の企業が第二創業に挑戦し,新しく生まれ変わることも必要です。
 例えば,富士フイルムが写真フィルムだけを作り続けていたら,おそらく既に倒産しています。しかし,富士フイルムは,長年に渡って写真フィルムで培った技術を使い,液晶ディスプレイに必要な高機能フィルムを製造したり,サプリメントや機能性化粧品といった新しい分野にも進出するなど,次々と第二創業への挑戦を続けています。
 これからの日本には,既存企業の延命のための支援ではなく,富士フイルムのように自ら生まれ変わり,イノベーションを生み出す企業を育てていくための支援が必要です。
 現在,ドローンやIoT技術など,次々と新しいものが生まれています。しかし,新しいビジネスを始めようとしても,既存の法律では想定されていないなど,たくさんの壁があります。そこで,新しいビジネスを始める時は,いきなり日本全体ではなく,まずは福岡市という限られたエリアでチャレンジしてみる。そして,福岡市でうまくいけば日本全体に広げていくというような,新しいビジネスのロール・モデルを作る場所として,スタートアップを応援する福岡市がこれから果たす役割はとても大きいと考えています。
 スタートアップやアントレプレナーシップでは,ここだという時にリスクテイクをして勝負できるかどうかが重要です。自分で0から1を作ってみる経験を小さな子どものころからさせることで,福岡市のまち全体をスタートアップのまちにしていきたいと考えています。外国人であっても,日本人であっても,リスクテイクをしてチャレンジする人が素晴らしいと尊敬されるような場を福岡市は提供していきます。
(八塩)起業人として成功するために必要なことはありますか。
(龍造寺)今,市場はアジアです。起業人には,この先アジア市場がどの方向に進んでいくのかを見定める力が必要です。市場が進む方向を見定めた上で,日本の技術やノウハウを生かした商品・サービスを開発し,どんどん売り込んでいくことが,企業の生き残りにもつながり,重要なことだと思います。

  

9.大学の研究室から生まれるビジネス

(太田浩)大学がインキュベーターとしての役割を果たしているアメリカでは,大学の研究室からスタートアップ・ビジネスやアントレプレナー(起業家)が次々と出てきています。最近は日本でもこれと同じような事例が大阪大学などいくつかの大学で見られますが,九州大学ではいかがですか。
(太田和)現在,九州大学では,世界を舞台に新しい価値創造にチャレンジするリーダー人材の育成を目指し,「九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップセンター(QREC)」において,学部生,大学院生を対象としたアントレプレナーシップ教育を行っています。九州大学は「水素エネルギー国際研究センター」や「次世代燃料電池産学連携研究センター」など水素エネルギー技術に関する様々な研究拠点を有しています。今後,水素エネルギーの実用化の際には,QRECで行っているアントレプレナーシップ教育との相乗効果により,様々な派生ビジネスがいち早く出てくるのはないかととても期待しています。
(太田浩)私も大いに期待しています。

パネルディスカッション3
    

10.終わりに

(太田浩)ビジネスの将来予測に関するいくつかの興味深い研究がなされていますが,その一つによると,2011年に小学校に入った人たちが大学を卒業するころには,今ある仕事の70%は無くなっていると言われています。
 考えてみると,私が大学を卒業したころにはなかった仕事が,今ではたくさんあります。当時は一流企業としてもてはやされていた会社が今ではなくなっていることも珍しくありません。このように変化の激しい中で,どこに新しいビジネスチャンスがあるのかについては,分野を越えてディスカッションしていかないと,その答えはなかなか見つからないと思います。
 セカンド・チャンスやルーザー(敗者)に対する支援も非常に重要だと思います。日本社会では,一度どこかでつまずくとセカンド・チャンスがほとんどありません。高校野球では最後に甲子園で勝ったチームが称賛を受けますが,それは予選から一度も負けていないからです。だからこそ大きな称賛を受けるのでしょう。しかし,私は,福岡市にセカンド・チャンスを提供するような敗者に優しい都市であってほしいと思います。
 日本のビジネスは硬直化しているという話もありました。私たち日本人は,1970年代,1980年代の成功体験にとらわれすぎているのではないでしょうか。新しいことを検討する時「それをやれば,このようなリスクがある」ということをよく言います。しかし,それはリスクというよりも,新しいことをやらないための理由付け,言い訳になっているのではないかと思います。本当に大事なことは,今ここで新しいことにチャレンジしなかったら,やらなかったことに対するリスクの方が実はもっと大きいということです。
 言い換えると,日本では,新しいことをやらないリスクよりも,「新しいことをやって問題が起きたらどうするのか」ということをあまりにも気にしすぎていることを危惧します。そういう意味でも,企業は今後,ある程度のリスクはあるにせよ,グローバル化に対応するために,留学生の採用を含めて,スマート・リスク・テイカー(賢くリスクを負う人・組織)になっていく必要があると思います。
(八塩)議論は尽きないとは思いますが,そろそろお時間になりました。コーディネーターの太田先生,髙島市長,パネリストの皆さま,本日は活発な議論をありがとうございました。